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第55話

「あのー……ユエルちゃん、隣、良い?」


「あ! (こよみ)ちゃん! はい、良いですよ!」


「えへへ。じゃあ失礼して……」


 この感じからすると多分彼女の声量はこれがデフォルトなのだろう。難聴の人は彼女とコミュニケーションを取る事は難しそうだ。


 マキナや司と同年代を思わせる彼女は地味で暗い少女という印象を与えてくる。せめて前髪を上げれば良いものを、髪で目元を隠しているせいで根暗感が増していた。


 何と言うかいじめの対象になりそうな少女。大体の人がそんな印象を抱くだろう。


「あ。ども。私……暦って言います。えっと……ユエルちゃんの友達だよ。本当はラスボス役になりたかったんだけど、來冥力が足りないって事でオーディションで落とされちゃってね……。別枠で受け直して、異世界の創生班担当で合格したんだ。あなたは今回の異世界のラスボスさん、だよね?」


 少女は体を少しだけ前のめりにして、ユエル越しに司を見る。


 來冥者であると言うのはラスボス役を担当する為の前提条件であって、それ以外の部署であれば正直関係無い。非來冥者だが転生協会に登録されている人は普通に居るのだ。と言うよりも割合的にはそっちの方が多いだろう。


 そして当然、琴葉、マキナの様に來冥者であってもメインの仕事はラスボス役以外の人も多く存在している。


「はい。天賀谷司って言います。今回が初なんで緊張してますよ」


「よろしくー。誰でも最初は緊張するもんだし……そんな固くならないで。えと、せっかくだから楽しんでねー。あと、私には敬語使わなくても良いから」


「はい……じゃなくて、うん。分かったよ。改めてよろしく、暦さん」


 司がそう言うと暦はえへっと笑って体勢を戻した。


 少し不気味で暗い少女ではあるが、こうして話してみると不快感は一切無かった。もう少し声のボリュームを上げて欲しい感は否めないが。


「先輩の友達なんですね」


「はい。覚えているか分からないですけど、前に普段からお昼は琴葉ちゃんかもう一人の友達と一緒に食べてる事が多いって言ったじゃないですか。その時の子ですね」


「ああ、言ってましたね。何か琴葉さんとは随分とタイプが違いますね」


 琴葉は性格や普段の服装から陽の者の感じがあるが、誰がどう見ても暦は陰の者だ。


「確かにそうですね。ちょっと暗いかなーって思うかもですけど、良い子ですよ!」


「えへへ。ほ、褒められちゃった……」


 恥ずかしそうにモジモジした暦は嬉しそうだ。自分の事が話題になっていると気付いた暦は、この機会に司とも友達になろうと思ったのか積極的に彼に絡もうとした。


「あの。司くん……あ、司くんって呼んじゃうね。司くんは何で転生協会に?」


 この協会では『初対面のラスボス役には取り敢えずこの質問』的なものとして存在しているのだろう。会話のキッカケを作る質問として重宝されていそうだ。


「自分の思い描いた世界を創って、その世界でラスボスとして舞台に立てるなんて面白いと思ったからですね」


「あー分かる分かる。えへへ、私妄想とか好きだから、凄い共感できる。自分の妄想が現実に反映されるのって良いよねぇ」


「 (いや、今司くんが言ったのって……。まぁ良いや、合わせとこ。) 偶然にも私と同じ理由なんですよ! だから親近感湧いちゃって」


 司の事情を知っているユエルは先程の司の発言が嘘であると知っているが、彼の話に合わせてより信憑性を高めようとした。


「 (合わせてくれた……! ありがとうございます、ユエル先輩) 」


 ユエルと暦の二人を見ながら心の中でお礼を言った司は、急にこちらを向いてきたユエルと目が合った。

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