第52話
ユエルの気遣いが彼は本当に嬉しかった。だがそれと同時に司は申し訳無さも感じている。何故ならば、実はここまでの会話内容で一つだけ嘘があり、ユエルはそこに喜びの感情を出しているのだから。
そんな事を露知らず、ユエルは自分を信じて話してくれた事がたまらなく嬉しかった。決して気持ちの良い話では無かったが、だからこそユエルは話してくれたお礼に全力で彼の事をサポートしてあげようと思ったのだ。
転生協会の決まりでは、最初の異世界運用に限りラスボス役の教育係がサポートとして付く事になる。今回で言えばユエルも蒼の異世界物語に携わる事になる訳だ。
事情を知った今、ユエルのスイッチは完全にオン状態になった。司には当然成功して欲しいし、自分もいつも以上に気を引き締めなければならないという気持ちが強まった。
「あ。私、こちらなのでお別れですね。それではこの辺で」
「はい、お疲れ様でした。僕のお話を聞いてくれてありがとうございます」
そう言うとユエルは微笑みで返答をし、司の帰路とは異なる道を歩いて帰って行く。
「……」
彼女の姿が見えなくなった事を確認してから司は、近くに居るであろうその人物に対して声を掛けた。
「さて。未成年を尾行する怪しい男が居るって通報しますけど良いですか?」
その呼び掛けに対して一人の男が姿を見せた。
「それはご勘弁願いたいな」
「尾行していた部分を否定してくださいよ、カムリィさん」
後ろを振り返りながら司は言う。二人の表情や声色からお互いに気を許している事が窺える。
今司の目の前に立っている男性の名はカムリィ。司との関係を一言で表現するのであれば仲間だ。
鋭い目つきの割には少年のように無邪気に笑い、笑顔時に覗く八重歯が特徴的となっている。
服装は白シャツの上にカーディガン、更にその上にロングコートを羽織り、下は黒のズボンという出で立ちだ。首にはチョーカーを着けており、耳にはピアスを開けている。
黒のウルフカットがよく似合い、ユエルとは真逆な性格である雰囲気が漂っていた。
身長は高く、180センチ前半程だろう。
カムリィは協会上層部の人間であり、今回の件を把握している内の一人である。
「つっても尾行していたのは事実だしなぁ。協会でのお前がどんな風にやっているか気になってよ。それよりも、一緒に居た女の子と随分親しげだったな。そうかそうか、司もそういうのに興味を持つ年頃になったか。感慨深いねぇ」
「怠い親戚のおじさんみたいな絡みは止めてください。彼女は僕の先輩です。と言うか知ってるでしょう」
「ああ。凄い良い子だと思うぞ。お前の嘘に無邪気に喜んで、可哀想だったがな」
「それ言っちゃいますか」
割と本気で今気にしている点を的確に突かれた司はあからさまに落ち込む。そんな彼を見たカムリィは問題の嘘部分を指摘して追い打ちをかけた。
「お前が今回の件を片した後に、転生協会に正規ルートで入り直す目的は協会に興味が湧いたからじゃねぇのによ」
改めて他人から言われると先程のユエルの表情が脳裏を過り、罪悪感に苛まれる。




