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第51話

 事件解決に貢献したとあれば世間からの支持率も高まりそうなものだが、協会に所属しているユエルは何となく協会上層部の考えが分かってしまった。


 まずは『外部への漏洩厳禁』。


 亡くなってしまった人に満足できる異世界ライフを提供する事をコンセプトとして掲げられている以上、今回の運用目的はどうなんだろうかと不信感を抱くメンバーも中には居るかも知れず、秘密裏に動きたかったのだろう。


 逃亡中の殺人犯の耳に入るリスクを考慮しても、漏洩は避けなければならない。


 次に『事件が解決した際に転生協会の協力があった事は公表しない事』。


 本来の理念から逸れた事を目的にした異世界運用をした事を公にはしたくないのだろう。世間からの名声や評価よりも、理念を優先させたのだ。ユエルが口にした『徹底している』という感想も的を射ている。


 だが公表したくない理由として恐らくそれは半分と言ったところだろう。もう半分は今回のような目的の異世界運用も願えば可能だと周囲に植え付けたくないのだ。一度実施してしまえば殺人事件解決目的の為の異世界運用を望む声が大きくなる可能性が高い。


 転生協会としてはそれを避けたいのだ。あくまでも転生協会の目的は死者に異世界ライフを提供する事であり、事件解決ではない。


 以上の理由から転生協会は条件付きで司のメンバー登録及び蒼の異世界運用におけるラスボス役になる事を特別に許可した。


 普段から関わりが強い牢政からの切なる願いに多少なりの人情が動いたのかも知れない。条件を守ってくれる事前提であれば協力してあげても良いと思ったのだろう。


「まぁ結局今こうして先輩に話しちゃった訳ですけどね」


 いたずらっ子のような目つきで司は笑う。


 理由を知らなかったとは言え、マキナの挑発に乗ってゲームをしてしまった事に対してユエルは少し申し訳無い気持ちになった。


「本当は嘘でも良いから経歴や志望動機を用意すべきだったんでしょうけど、人事部の方々もかなり忙しかった時期みたいで。嘘にまみれた形式上の面接や試験に付き合っている時間は無いって事で『そんなものいらん。時間の無駄だ』って言われました」


「た、確かに。転生協会メンバー登録オーディションにおける『ラスボス役』の倍率って何百倍とあるらしいですからね。基本異世界運用中の演技は99.9%が即興劇とアドリブなので、その能力があるかどうかの見極め試験が相当厳しいみたいです」


 台本に沿ったカチカチの演技力をここでは求められていない。単純に演技力に自信のある來冥者がオーディションを受けても一分で散る。


 サラッとユエルは言うがその難関を突破した猛者だ。十分誇っても良いだろう。


 蒼の異世界転生が決定した時に司はラスボス役が不足している事を聞いた。それだけ厳しい試験であれば需要と供給のバランスを取る事が難しくもなる。


「そう聞くと申し訳無いですね。だって、そんなに倍率が高いって事はそれだけ挑戦する人が居る訳じゃないですか。そういう人たちを差し置いて僕がメンバー登録されるなんて」


「うーん……言われてみれば確かにバレちゃったら炎上しそうですね」


「そこは安心してください。転生協会に迷惑はかけません。今回の件が終わったら僕は転生協会を去る予定ですよ。その後にもう一度正規ルートで受けます」


 それを聞いたユエルは驚きと喜びの半々の気持ちで満たされた。


「……! 終わったらまた牢政に戻るかと思ってましたけど、転生協会に興味を持ってくれたんですね! でも演技試験、本当に厳しいので舐めちゃダメですよ? 困ったら私、いつでも相談に乗るので」


「大丈夫です。こう見えて僕、演技力には自信あるんですよ」


「楽しみにしてますね! あと、その、蒼ちゃんから殺人犯の情報を聞き出せると良いですね。今回のお話は何も聞かなかった事にするので、司くんは蒼ちゃんの事だけに集中してください」


「ありがとうございます。やっぱり先輩にだけは話した方が良いかと思ったので、協会の言い付けを無視して話しちゃいましたけど、さすがに話したってバレたら僕怒られるどころの話じゃなくなるので助かります」


「ふふ。安心してください。絶対に他の人には言いませんので!」

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