第50話
息苦しさを覚える中でユエルはようやくその質問を絞り出す事ができた。しかし世界はどうやら残酷なようで、ユエルは司から欲しくなかった回答を貰う事に。
「それが、調査は難航していて犯人は未だに捕まっていないんです」
「……っ……三年間も野放しに……。あの、司くんはそんな状況の中どうして牢政を辞めたんですか? 蒼ちゃんを殺した犯人を捕まえるなら、そのまま牢政に居た方が色々と動きやすいんじゃ……」
「僕もそう思ってましたよ。転生協会から『蒼の異世界転生の順番が近付いてきた』って連絡を貰うまでは」
「え? あ。つ、司くん! もしかして……!」
ここでユエルは気付く。てっきり一人の兄として死んでしまった妹にもう一度会いたいというシンプルな理由かと思っていたが、どうやら彼の本当の目的は違うようだ。
当然その気持ちもありはするのだろうが、彼の目的の大部分を占める訳では無いのだろう。
「異世界へ転生する時、生前の記憶が消去される事は無い。であれば、蒼は異世界転生した後でも覚えているはずですよね? 真犯人の事を」
「司くんの目的は、蒼ちゃんに再会して犯人の情報を得る事……」
「はい。もう確実な方法はこれしか無いんです」
彼に言いたい事は当然ながらある。
異世界運用の場を調査の場にする事は前代未聞だ。転生協会所属のラスボス役として看過する事はできない。
だが司の目を見たユエルは何も言えなかった。蒼殺害犯人を捕まえる為ならば何でもしてやると口には出さずとも目が語っており、とても意見する気持ちはなれなかったのだ。
「だから牢政を辞めたんですね」
司は頷く。彼は自分がした選択に対して一切の後悔をしていないようだ。
「來冥者だったとしても、転生協会に登録されていない人は当然ですが部外者になってしまいます。蒼に再会して犯人の情報も得る……この目的を達成する為には転生協会のメンバーになるしかないですし、掛け持ちができない以上牢政を捨てたって感じです」
一番の理想は牢政で働きつつ今回だけピンチヒッターの感覚で蒼の異世界運用をする事だ。しかし司の言う通り牢政の人間であれば部外者扱いとなり、ラスボス役として異世界をまわす事は叶わない。
犯人の情報を得るだけなら転生協会所属の人間にお願いすれば解決するだろう。だが司はどうしても蒼にもう一度会いたかった。
つまり蒼の転生先の世界で再会するには牢政所属という肩書きを捨てて、正式な転生協会のメンバーになる他無かったのだ。
「司くんがどういう経緯で協会のメンバーになったのかは分かりました。でも、よく協会の人がそれを認めてくれましたよね」
「二つの条件を呑んでくれるなら認めるって言われました」
「条件?」
やはり牢政の人間のお願いであろうと素直に首を縦には振られなかったようだ。
果たしてこの前例がない事態に転生協会はどんな条件を司に提示したのか。ユエルは興味津々といった様子で司の言葉を待つ。
「一つ目、今回の件を外部に漏らさない事。二つ目、事件解決に繋がったら転生協会の協力もあった事は公表しない事。この二つです」
「何と言うか徹底していますね……」




