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第46話

「え?」


「……ん? ……。……! ~~~っ!」


 やがて自分の先程の発言が冷静に脳内で再生されたユエルは、心臓が握り潰されたような錯覚に陥り顔を真っ赤にしてより一層の慌てぶりを見せる。


「ぁ……ち、ちが……! ご、ごめんなさい! い、いいい今のセクハラになっちゃいますよね! わ、忘れてください! 司くんは何も聞かなかったという事で!」


 盛大に狼狽えて早口で全力謝罪するユエルを見た司は思わず吹き出してしまう。


「ふふ。そんなに気にしないで良いですよ。寧ろしっかりしてるって言われて嬉しいですし」


 司は言葉だけでなく本当に気にしていない様子でユエルに安心感を与えた。


「そ、そうですか? (と、とにかく何か話題、何か話題を……!) えと、つ、司くんはもしかして普段から鍛えていたりするんですか?」


「そんな毎日本格的にはやってないですけど、まぁ週に何回かは」


 異世界においては結局來冥力を使用する為、リアルな身体能力や筋肉は戦闘において役には立たない。彼がトレーニングをしている理由は來冥者としてと言うよりは一人の男性として筋力と体力を付けたい為だろう。


「凄いですね。私たちは來冥力が使える異世界に行くと來冥者として動けますけど、この世界じゃ普通の人間ですからね。來冥力があるから別に良いやって思考にならないのは偉いと思います!」


 何気なく言ったセリフだが司は引っ掛かりを覚えたようだ。


「この世界じゃ……普通の人間……」


「はい。……? 司くん、どうかしましたか?」


「……」


 急にシリアスな顔で黙り、その場に立ち止まる。ユエルの言葉に聞く耳を持たなくなった司は自分の世界に突入する。


 この時彼はある記憶がフラッシュバックした。


『ハハハ! 所詮お前はこっちじゃただのガキじゃねぇか! 來冥者って言っても大した事無いな!』


『やめて! お兄ちゃんをイジめないで!』


『ああ? うるせぇな、先に突っ掛かって来たのはそっちだろ!』


(そら)……! やめろ!』


『悲しいよな。お前らはどれだけ超人的な力を持ってても、この世界じゃ使えないんだからよ。無知なガキに俺が授業してやる。來冥者とかいう連中はな、俺らが今居る世界じゃ無意味な存在なんだ。この世界で何もできない無力な奴は、調子に乗んじゃねぇよ。ま、生まれる世界を間違えたってやつだな』


『黙れ……! 僕は……僕は……!』


「……」


「司くん? あの、聞こえてますか?」


「……ユエル先輩」


 立ち止まっている司の目の前で手を振り振りしていたユエルに対し、急に司が彼女の名前を口にした。突然呼ばれた事でビクッとユエルは肩を震わせる。


「わ! きゅ、急に現実に戻って来ないでくださいよ! ど、どうしたんですか?」


「先輩は……どうしてこの業界に入ろうと思ったんですか?」


 彼の目は至って真剣だ。雑談感覚で軽く質問している風には見えず、ユエルはその空気を察した。ここは今の司に合わせた温度感で答える必要があるだろう。

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