第38話
琴葉はマキナの言葉を聞くとニコッと微笑む。
「そうか。……なら思い残す事は無いだろう。鉄拳制裁の時間だ」
右拳を握り締め、天高く振り上げる琴葉。
「うわあああああ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! だって、だって我慢できなかったんだもん!」
「んみゅ?」
近距離でマキナのバカでかい大声を聞いたせいでユエルが目を覚ます。
寝ぼけた目で辺りをキョロキョロと見渡し、そして状況を把握したのか一気に目が覚めたようだ。
「え? え? え? マキナちゃん? 何で私おぶられて……と言うか、帰って来れたんですか?」
「おはようございます、ユエル先輩。悪はどうやら成敗されたようなのでもう安心ですよ」
「あ、つ、司くん! えっと……?」
何やら賑やかになっている事だけは分かるが、自分がモデルNで力を使い果たした後に何が起きたのかまではさすがに把握しきれていないようだ。
「ああ、ユエル。それに司くんも。このおバカさんに関する説明が必要だよな。ただ今日はもう夜遅いし、近くの飲食店でどうだろう? 夕飯も兼ねてさ。私が奢るよ。あ、マキナは当然自腹だからな。良いよな?」
「うぅぅ……問題無いです……」
頭に琴葉の拳骨を盛大に貰ったマキナは彼女の圧に屈して、涙を流しながら返答したのだった。
言われた通り転生協会の近くにある飲食店で、司とユエルは琴葉とマキナの到着を待っていた。司の正面にユエルが座り、司の左隣、ユエルの右隣がそれぞれ空席という状況になっている。
琴葉もマキナもちょっとした片付け作業があるらしく、先に二人でやって来た訳だ。
店に着くまでの間、司はユエルの疑問を解決する為にあの後何が起きたのかを説明した。
最後の最後、自分が手助けをした事。マキナが司とユエルに近付き、更にはモデルNに連れ込んだ目的。選手交代としてマキナと破片集めゲームをして勝利した事。その全てを彼女に伝えた。
特に質問が発生する事無くユエルは司の話を大人しく聞いていた。司の秘密を知りたくてマキナと勝負したのに、マキナは司について何も知らずただのハッタリだと知った時は簡単に乗せられた自分がどこか恥ずかしく、居たたまれなさそうにしていたが。
「それにしても驚きましたよ。まさかマキナとゲームをしようと思える程に、先輩が僕について知りたかったなんて」
「うっ……あ、改めて本人から言われるとやっぱり恥ずかしいですね」
頬を朱色に染めたユエルは縮こまりながら俯く。
「でも確かに僕は自分からは何も言ってないですからね。僕の過去も、転生協会の志望動機も、來冥者としての能力も……その点は申し訳なく思ってます。知りたいって欲が湧くのは当然ですよね」
「あ、いやいや! 司くんが謝る必要は無いですよ。だ、誰しも言いたく無い事はありますし、そんなに気にしないでください。もしも話せる時が来たなら、その時に話せば良いと思います。わ、私も……無理に詮索する事はもうしないようにします」
本音を言えば今でも知りたいに決まっている。だが司がここまで隠すという事は少なくとも今は知られたくないという事だ。ここで彼の気持ちを無視してまで知りにいこうとする趣味は持ち合わせていない。




