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第36話

 横たわっている空久良を見ながら四足歩行の怪物は威嚇の声を轟かせ、恐怖心を煽ってくる。


 こんな生物はこの世界には存在していない。間違いなく何者かの管理下に置かれている使役生物だ。


 恐らくはユエルがマキナとの戦いで召喚したマネキンの召喚生物と同じ系統の生命体だろう。そしてそうであるならばこの近くに召喚主が居るはずである。


「……。俺を追って来るストーカーさんよ! 今も近くに居るんだろ? この可愛くも何ともないデケェ怪物、お前のペットか? 随分と素晴らしい感性をお持ちだな!」


「……」


 空元気とはまさにこの事だ。今すぐにでも逃げたい欲を押し殺し、空久良は余裕があるように自分を騙す。


 襲撃者Xはそんな彼の呼びかけに答えるように姿を現し、ゆっくりと彼の横を通り過ぎてから猛獣の脚を優しく撫でた。


 その様子は本当に自分のペットを可愛がる飼い主のそれだ。


「おい、お前。何で俺を襲うんだ?」


「お前から天賀谷司に関する情報を聞く為だ。十分痛めつければ話したくなくても話すと思ってな」


 襲撃者Xは意外にも素直に空久良の質問に答えた。


 声は機械的なものだ。恐らくボイスチェンジャーか何かで変えているのだろう。


 男性か女性かを把握しようと思っていた空久良にとって、この展開は嬉しくないものであった。


「司? 何で司の名前が……」


 空久良は何とか起き上がり、酔っ払いのようにふらつきながらも自分に付きまとう襲撃者Xを視界に捉えた。


「ふざけてんのか? その恰好」


 一体どんな姿をしているのか拝んでやろうと思った空久良は吹き出してしまった。


 グレーのレインコートに身を包み、フードを被った状態で天狗のお面を着けていたのだ。顔は識別できず、特に胸が膨らんでいる訳でもなく男性か女性かも判断できない。


 來冥者御用達の世界でする格好とは思えなかった。


「どこの誰かは知らないが、司は俺の友達なんだ。ホイホイと教えられるかよ。何だったら拷問でもしてみるか? 俺の意志の強さが本物だって証明してやるから」


「そんな事はしない。お前はいくら拷問しても口を割らないという事を俺はよく知っているからな。意味の無い行動をする趣味は俺には無い」


「 (何だコイツ? 何で俺の事を……) お前誰だ? その仮面外して顔を見せろよ!」


「……!」


 最後の力を振り絞って空久良は襲撃者Xに飛び掛かり、仮面を外した。


 素顔が白日の下に晒される。


「……っ……そ、そんな、どうして……!」


 襲撃者Xの素顔を見た空久良は驚きで心臓が止まりそうだった。


 その者は見知った顔だったからだ。


「月並みなセリフで申し訳ないが、言わせてもらうぞ。素顔を見られたからには生かしておけないってな。……この男を殺せ」


「ぐぅぅおおおあぁぁぁぁ!」


 ご主人様の命令に従い、召喚生物は咆哮を上げて空久良に飛び掛かって彼を前脚で押し倒す。


 そして。


「う」


 恐怖で満たされた空久良の顔に、召喚生物の大きな口が襲い掛かった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 森中に空久良の悲鳴が響き渡った直後、彼の頭部は召喚生物に簡単に噛み千切られ血飛沫が狼の顔に付着した。

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