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第35話

 マキナの反応とは真逆で司は依然として落ち着いている。冷静に一連の出来事の解説を始めた。


「どうやっても何も普通に君の近くまで移動して、君の手から破片を奪って、この場所に戻っただけだよ。特別な事は一切していない。君が反応できなかっただけの話だ」


「そんな……嘘だ! 同じ來冥者なのに、反応すら出来ないなんて有り得ないよ! 確かに來冥力には個人差があるけど、來冥者同士でこんなにも離れてるなんて……」


 どうしても信じられないマキナは司の発言を認めようとしない。


「嘘じゃないよ。それよりも信じる信じないは君の自由だけど、取り敢えずこのゲームは僕の勝ちでしょ? 早く帰してよ。そろそろお腹も空いてきたしさ」


「うぅぅ……ユエルちゃんには何とも言えない微妙な勝ち方しちゃうし、司くんには訳分かんないままあっさりと負けちゃうし……散々だよ、ホントに!」


 もしかしたら自分はとんでもない男を相手にしてしまったのではないか。この時マキナはそんな事を思ってしまった。




 時を同じくしてモデルN別エリアでは。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 つい一週間前に司とユエルと出会っていた青年、空久良陸が森の中を走っていた。


 呼吸は乱れ、顔からは滝のような汗が止まる事無く流れ続けている。目的地に向かって急いでいると言うよりは何者からか逃げているようだ。


「しつこいぞ! はぁ、はぁ、いつまで追ってくる気だ!」


 限界寸前の空久良の後を追いかける黒い影。


 空久良が例の逃亡犯を追ってこの世界にやって来た後の事だ。仲間と交代しながらモデルN内にて例の犯人を追い続け、あれから一週間後の今日、マキナたちがやって来る少し前に無事逮捕する事が出来たのだ。


 だがお祝いムードを満喫する余裕など無かった。空久良が犯人を仲間たちに託し、その者たちがアルカナ・ヘヴンへと帰った後の事である。自分も元の世界へ帰ろうとした矢先に急な襲撃を受け帰還どころではなくなったのだ。


 目的も戦力も何もかもが不明な状態ではあるが空久良も最初は応戦していた。だが戦力の差は歴然であり、空久良はこの謎の襲撃者Xに勝てないと判断し、取り敢えずは逃げの選択を取ったのだ。


 彼はマキナのように手鏡を所持してはいない為、転移室を見つけてそこからメルトリアに帰る必要がある。しかし無我夢中で逃げ続けた結果、いつの間にか暗い森の中に入っており、転移室を見つけるどころか遭難してしまったのだ。


 当然この近辺に転移室などあるはずもなく、空久良は今も黒い影から必死に逃げているという状況に陥っている。


「はぁ、はぁ……うわっ!」


 後ろに視界を移動させたせいか足元への注意が疎かになっていた空久良は躓き、盛大に転んでしまった。


 來冥者にあるまじき光景だが、体力も底をつき、気力だけで無理やり体を動かしている状況にもなればいくら來冥者と言えどこうなってしまう。


 ましてや転生協会の者と違い來冥力解放時形態での活動をする機会がほとんど無い為、慣れない動きを強いられているのだ。ユエルやマキナと同じように動けと言うのは無茶振りに等しい。


「いって……」


 起き上がろうとした時、彼は前方に気配を感じた。顔だけをバッと上げて前方を見るとそこには恐怖の具現化のような生物が居た。


 三メートルはある巨大な四足歩行の生物。巨大な翼に太くて鋭利な爪、少し触れるだけで肉が抉れそうな鱗は、まるで殺す為だけに生まれたかのようだ。頭部は狼となっており、獲物を狙う鋭い眼光とどんな物も噛み砕きそうな牙は、威嚇機能として十分過ぎる程に機能していた。

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