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第32話

 こうしてユエルをお姫様抱っこしていると、彼女はダイエットなんかとは無縁なのだろうなと思ってしまう。


 小柄な体型通り本当に軽いなと思いながら、マキナはユエルを見て思う。何て可愛い寝顔なのだと。


「ユエルちゃん、寝顔可愛過ぎる……何この生き物」


 邪な気持ちが湧いてくるが僅かながらに残っている理性が打ち勝つ。


「ハッ……! だ、だめだめ。早く破片を見つけないと……」


 偶然にも今居る場所の近くに四個中三個が落ちており、残り一個を探せば終わりという状況だった。


「よし、これで四つ目。ラス一だ。ん~ユエルちゃんをここに残して探しに行く訳にもいかないし、背負って行った方が良いかな……」


 マキナはユエルの所に歩いて行き、彼女の所まであと五メートルといった場所で、人の気配を感じ取り足を止めて思わず振り返る。


「あ」


「探し物はこれでしょ? 早急にこの世界から帰りたいって言うのと、ユエル先輩を早く休ませてあげたいって気持ちがあったから先に見つけておいたよ」


「司くん!」


 マキナの視線の先、十メートル程の位置に司が居た。來冥者になった時の形態を期待したが、いつも通りの姿だ。


 親指と人差し指で鏡の破片を摘み、マキナに見せつけるようにしている。


「やっぱり近くに居たんだ~。さっきユエルちゃんの召喚生物に触れてバフしたの司くんでしょ?」


「うん。僕の先輩が負ける所は見たくなかったし、ちょっとずるかなって気もしたけど手助けしちゃったんだ。出しゃばりだった?」


「まぁ正直言うと、私としてはユエルちゃんだけの力と戦いたかったのになぁって感じだよ! せっかくの來冥者同士の本気のぶつかり合いなのに、こんな形で私が勝っても消化不良なんだよね~」


「悪かったよ。で、僕にどうしろと?」


 お望み通りの展開になりそうで、マキナは思わず口角が上がる。


「私と勝負して! ルールは同じ!」


「実に簡潔で分かりやすいね。とっとと帰りたいって聞いてなかった? モデルNとアルカナ・ヘヴンの時間の流れは同じだから、向こうではもう定時過ぎてるんだけど。残業代は君が払ってくれるのかな?」


「え? やだよ、そんなの! サビ残という事でよろしく!」


 マキナは当然でしょと言わんばかりにキョトンとした顔になる。


「……。君、絶対に人の上に立つようなポジションには就かない方が良いよ」


「まぁ今のは冗談として。お願い、司くん! 今回だけ! 今回だけで良いからさ!」


「はぁ。分かったよ、もう」


「やった! ありがと~」


「どのみち君が満足してくれないと帰れなさそうだしね」


 司は心底怠そうな様子で、忙しいのに遊んでくれとせがまれている人のそれだ。ここでマキナの提案したゲームの相手をしてあげないと面倒な事になる為、仕方なく付き合ってあげている感が半端ない。


 それに対してマキナは念願の司との対戦にウキウキのご様子。先程のユエルとの戦いで天から大剣を降らせた者とは思えない気力と体力だ。いち來冥者としてユエルに足りない部分を彼女は持ち合わせているのかも知れない。

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