第29話
召喚生物がゆっくりと手を地面から引き上げると、落とし穴のように空いた大きな穴と、その中に倒れているマキナの姿が露呈した。
ユエルだけでなく彼女の出す召喚生物にも気を配らないといけない。異世界で彼女とラストバトルを繰り広げる主人公たちは、まずこの難関を乗り越える必要があるのだ。
いつもは攻略しやすいように手加減したりギミックを用意したりしているが、今はそんな必要は無い。召喚生物の繰り出す攻撃もフルパワーのものとなっている。
「はぁ、はぁ……」
安全に地面に着地したユエルはマキナが眠っている穴の近くに向かって歩き出す。しかし彼女の歩みは数歩で止まる。
打ち上げ花火のように一筋の光が穴から上空に向かって一直線上に昇り、ユエルはつられて見上げる。
「マキナちゃん……」
「あ~いったー。死ぬかと思ったよ、本当に」
さすがにダメージを負ってはいるが、まだ余裕そうだ。こうして実際に戦うと今自分が相手にしているのは主人公ではなく來冥者なのだと実感する。そう簡単に勝たせてはくれないし倒れてはくれない。
「うん。まずは、この怪物を何とかしなきゃだね!」
マキナは右に居る召喚生物を見る。
どれだけユエルに対して狙いを定めても必ずと言って良い程に邪魔が入る。ならばまずは障害物を排除するのが先決だ。
完全にターゲットをユエルから変えたマキナは剣を上に向かって高々と放り投げた。傍から見れば武器を捨てたようにしか見えないが、それが彼女の大技である事をユエルは知る事となる。
くるくると縦回転しながら天高く上昇する剣はやがて雲を突き抜ける。
そして。
「……!」
その光景を見たユエルは思わず目を見開き息を呑む。
急に空が雷雲で覆われたかと思った次の瞬間、その雷雲から電気を帯びた大剣が姿を覗かせたのだ。恐らくマキナの所持武器が巨大化したであろうそれの大きさは計り知れず、宇宙ロケットのようだ。
あんなものが落下して来たら召喚生物どころかここを起点とした広範囲が間違いなく消し飛ぶ。
「ちょ、ちょっと待ってください、本気ですか⁉」
「本気に決まってるじゃん!」
吹き荒れる風の中、マキナは靡く髪を手で押さえながら笑顔で返答する。その様子はこの戦いを心の底から楽しんでいるようだ。
「いっ……」
精一杯言葉を溜めたマキナは右手を上げ、それを振り下ろすと同時に叫んだ。
「けぇぇぇぇぇぇ!」
今までゆっくりと落ちて来た大剣はマキナの叫びに合わせて一気に落下し始めた。段々とその速度は上がり、急速にユエルたちに迫ってくる。
「さぁ、どうする? ユエルちゃん!」
余裕の表情で傍観者を決め込むマキナを見たユエルは、來冥者であれば逃げずに立ち向かってくるよね、と言われているように感じた。




