第27話
「逃げようと思っても無駄ですからね」
「え……?」
「あなたが今注目している『それ』以外にも、注意しなければいけないものがある事に気付いていますか?」
マキナが上空の吸引球体に意識が集中している隙に、ユエルはもう一つの攻撃手段を用意していた。
彼女たちの遥か下となる、この場所における大地と呼べる所にも同サイズの球体を配置させており、大地の中央に開いていた穴を綺麗に覆い隠していた。
同じく吸い寄せを行うつもりなのか、とマキナは思っていたがすぐにその予想はハズレだと判明する。
「な……」
いくら事前にユエルの事を調べていたとは言え実物を見た訳では無いし、あくまでマキナの知識は机の上で得た情報に過ぎない。必然、実際に『それ』を目にすればその不気味さと迫力に呑まれてしまう。
「何あれ⁉」
マキナの視線の先では巨大なレディースマネキンが、頭、肩、胸と、球体内からその姿を徐々に見せてくる。全身お披露目はされる事無く、上半身だけを球体から出した状態で一旦は止まった。
胸のちょっとした膨らみなどの最低限の凹凸しかない体や、部位の一切無いのっぺらぼうな顔は、明らかに人とは異なる異形の生物であると訴えかけてくる。
目や口が付いていないにも拘らず、マキナはこのマネキンに鬼の形相で睨まれ、大きく口を開けて咆哮を上げているような錯覚に陥った。
恐怖と言うよりは言葉では形容しがたい不快感や不気味さを覚える。思わず目を逸らして足早に立ち去りたくなるような感じだ。
「よく分かんないけど、ぶった斬れば良いだけの話でしょ!」
身の丈を優に超える剣を両手で強く握り締めたマキナは、意を決して自らマネキンへ向かってダイブする。正面からぶつかり合うつもりだ。
「はぁあっ!」
気合いを入れて大きく振りかぶったマキナは剣を豪快に振り下ろし、渾身の斬撃をマネキンの頭部目掛けて放つ。
対してマネキンは彼女の一撃に向かって、右拳をスローモーションのようにゆっくりと突き出す。だがその速度からは想像もできない程の破壊力を秘めていたのか、マキナが振りかざした剣と互角の衝突を見せた。
両者とも一歩も引かず押し合う様子はまさに鍔迫り合いだ。もしもマネキンによる右打撃のスピードがマキナの攻撃と同じレベルだったら、彼女は吹き飛ばされていただろう。
「さっすがユエルちゃん! ホントに規格外の怪物だね、こいつ……!」
ほんの一瞬でも気を抜いたら押されてしまう。その確信がマキナにはあった。
今ここで他の攻撃に転じる為に別の行動を取るのは危険である。その為、彼女は今実質身動きが取れない状態にあった。
「褒めてくれるのは素直に嬉しいですが……そろそろ終わらせますね」
詰めを甘くしてはいけない。
ユエルは未だに一進一退の均衡を繰り広げているマキナの背中を目標に定め、周囲の岩を吸収する事で完成された巨大な岩塊を躊躇無く落下させた。




