第26話
「さて。じゃあユエルちゃんが集めた破片全部渡してもらおっか!」
「……」
人はどんな時に油断するか。それは自分の思い通りに物事が進んでいる時だ。マキナとてそれは変わらなかった。
「……?」
後ろ、と言うより今のこのユエルを押し倒している体勢では真上と言った方が正しいだろう。真上に何かの気配を感じたマキナは上半身だけを捻ってその気配の正体が何なのか見極めようとした。
「……!」
さすがのマキナも驚きで目を見開く。
ユエルの背後に常在している五個の藍色の球体の内の一つが、マキナの真後ろに移動していたのだ。
それだけならここまで動揺しなかったかも知れないが、そこには明確な驚愕ポイントがあった。球体のサイズが通常時のバスケットボール程の大きさとは異なり、直径十メートルはある巨大な球になっていた。禍々しい威圧感があり、どう対応したら良いかマキナの思考が停止する。
「私だって一応ラスボス役をしている來冥者なんです。そっちがその気なら全力で抵抗しますし、最後の破片も奪い取ってみせます」
この状況下のマキナにどう抵抗するか色々考えた結果、ユエルは真っ向からのごり押し戦法が一番手っ取り早い方法であると思い、行動に移した。
來冥者なら來冥者らしく力でねじ伏せる。ユエルの中で完全に戦闘のスイッチがオンになった瞬間だった。
「へぇ~面白くなってきたね!」
切り替えの早さはさすがと言うべきか。マキナは先程までの動揺の表情から一転して娯楽を楽しむ時のような顔になり、まずはユエルから距離を取る。そして高速で移動し、ユエルの前から姿をくらました。
マキナが離れてくれたおかげで体の自由がきくようになったユエルは、そのまま起き上がり探知能力を働かせてマキナの居場所を探る。
ユエルの探知能力は精度や解析時の解像度を調整する事で、範囲と探知速度を上げる事が可能だ。
どこに鏡の破片が落ちたのかを探る時のように、精度が第一の時はユエルから放たれる紫の光の輪の影響範囲および周囲に広がっていく速度は遅い。しかし今回のように大雑把でも良いから位置を特定したい時は、範囲も速度も桁違いに上昇する。
その結果。
「見つけた……!」
ユエルの視線の先には岩石しかないが、その岩石の裏にマキナは隠れていた。隠れている場所を把握したユエルは、上空目掛けて巨大化した球を放つ。
マキナに負けないレベルのスピードで上昇したそれは、一定の高さまで昇った後にピタリと止まり、周囲に浮上している無数の岩石を吸引し始めた。
轟音と共にまるで台風の日の如く荒れ狂う中、次々と吸い寄せられていき最終的に一つの岩塊へと変貌した。
「えーと……え、これもしかしてやばい?」
さすがに全部とまではいかないが周囲の岩石が吸引によって消えた事で、マキナはユエルの前に姿を見せる。逃亡の姿勢を取る彼女に対してユエルは静かに口を開いた。




