第20話
「いや~運が良かったよ! あの立てこもり事件の時に君たちを見掛けたのは」
「……! 立てこもり事件って一週間前の?」
「そそ。あの時に偶然双眼鏡越しに司くんと目が合っちゃってさ~。もうビビッと来たよね~。あ、もしかしてこれが一目惚れってやつなのかな? にゃはは」
「 (もしかしてあの時……) 」
ここでユエルは思い出す。あの店から離れて別の飲食店に向かおうとしていた時、急に司が高層ビルの屋上を見ていた事を。
まさかそこにマキナが居たのだろうか。そんな予想をユエルは立てた。そして彼女の予想は次のマキナの発言によって正解だと証明される。
「あんなビルの屋上に居た私の視線を感じ取るなんて只者じゃないって思ってね~。色々調べたんだ。ついでにあの時司くんの側に居たユエルちゃんの事もね!」
マキナが二人の事を調べ、興味を持った経緯を把握できたユエルは、次考えるべき事に頭を切り替える。
彼女は言った。ここに連れてきた目的はユエルたちと遊ぶ為だと。どう考えても遊ぶとはそういう事だ。警戒心は解いてはいけないだろう。だがもしもユエルの想像通りであれば何故ここに司が居ないのか、そこが疑問点として浮上する。
マキナのターゲットは司とユエルの両方だ。であれば三人で同じ場所に転移した方が効率面から見ても良いに決まっている。
「随分と私たちに関心があるようですけど、それなら何故司くんだけがここに居ないんですか?」
「私なりに気を遣ったんだよ」
「気を遣った……?」
最初こそマキナが何を言っているのか分からなかったユエルだが、ここで琴葉から聞いた情報が脳内で再生された。
司は経歴書に來冥者の能力を記載せず、口頭でも教えてくれなかったと。
やはり司は自身の能力を明かしたくはなく、マキナは司のそんな気持ちを知っているのではないか。そして彼に気を遣って、ユエルの前で來冥力を使用しなければいけないような展開にはしなかったのではないだろうか。
現にユエルも司からそれとなく來冥力解放時はどんな感じなのかを何回か聞き出そうとしたが、いつもはぐらかされていた。
もしもそうだとしたら何故司は隠したがっているのかは気になる。後二週間もすれば、異世界創生会議で司にとっては初担当の異世界運用が始まるのだ。そして会議が終わると彼にとって初の異世界運用が幕を開けてしまう。
そんな時、さすがに司も隠し通す事は出来ないはずである。
何故ならその行為は協会のとあるルールに反しているからだ。異世界運用では一つのルールが設けられていた。それはラスボス戦においてラスボス役は來冥力を完全に解放し、形態を変える事。主人公に『ラスボス戦をしている実感』を存分に味わって欲しいが故に定められた決まりであり、司もそれを把握している。
つまりラスボス戦のイベントを迎えたその時、司は嫌でも自身の來冥力を解放し形態変化をして戦う必要が発生する。
どのみち能力も変化後の形態も明かす日は直近でやって来るのだ。それなのに何故頑なに話さないのか、その理由が分からない。




