第19話
「司くん! 居ますか⁉」
頑張って大きな声を出して彼の名を呼ぶが返事は無い。
シンプルにユエルの声が届いていない可能性もあるが、近くに司は居ないと考える方が自然だろう。
「お! ユエルちゃん、目が覚めたんだね~」
「……!」
上の方から声がして思わず声のした方向へと顔を向ける。
そこにはマキナの姿があった。何が面白いのかは分からないが、満面の笑みのまま銀翼を羽ばたかせている。來冥力を少しだけ解放した姿と言った所だろう。
來冥者が來冥力を解放した時は形態が本当にラスボスの如く変化するが、その変化具合は力の解放量によって異なる。
微量であれば姿は変わらず、身体能力が少しだけ上昇したり、その者が使用可能な能力の一部だけが使用可能になるだけだ。
今のマキナは銀翼と言う明らかに人間からは生えてこないそれを羽ばたかせている為、來冥力を解放してはいるのだろうが、さすがに形態変化としては乏しい。來冥者が全力を出そうとした場合、完全にその姿は変わる。
少なくとも今の彼女のように翼が生えただけの状態よりかは変化が訪れるのだ。つまりマキナは形態が少しだけしか変わっていない事から、來冥力の解放量も僅かである事が簡単に予想できるのである。
いずれにせよ、マキナが來冥者になれば翼が生え飛行能力を有する事は確定した訳だ。
「あ! て言うか、この位置関係だともしかしてユエルちゃんから私のパンツ丸見えかも! もう、ユエルちゃんのえっち! 覗かないでよね!」
「……」
仮にユエルが男だったとしても何のドキドキも発生しないだろう。今はそんな事に脳のリソースを割いている余裕などない。
「も」
「う~ん?」
「目的……あなたの目的は何ですか?」
震えながらも、ユエルはようやくその質問をマキナにぶつける事ができた。
ここはアルカナ・ヘヴンとは異なり來冥力が使用可能な環境にあるモデルN。つまりもしも來冥者としてユエルの方が強かった場合、いざとなったら全力を出してでもマキナを叩き潰せる状態にあるのだ。その事実がユエルに少しの勇気を与えてくれていた。
「私の目的? ここで君たちと遊ぶ事だよ!」
「え?」
全く予想だにしていなかった回答を聞き、ユエルは困惑する。
「私知ってるよ~。ユエルちゃんが転生協会内で十年に一人の逸材って言われてるの。高い演技力に來冥者としての優れた戦闘能力……一回で良いからユエルちゃんの実力を見てみたかったんだ~」
「な、何言って……」
「司くんはね~……ふふっ……彼の事はシークレットって事にしておこ!」
一体どういう経緯でマキナがユエルと司に興味を持ったのか、その点が非常に気になる所だ。ユエルはまだしも司は最近転生協会に来たばかりの新人である。何かキッカケが無いとマキナが興味を持つとは考えにくい。
それとも司が元牢政の人間であると漏れたのだろうか。だがそれだけでここまでの関心が生まれるかと言われたら微妙なところだ。




