第16話
ユエルが司の教育係になってから一週間が経過していた。
その間、司はユエルから業務内容を教えてもらったり、手伝いをする事がメインの仕事となっていたがそんな彼にもいよいよ主役で動く日が近付いてきた。
「二週間後に異世界創生会議に参加ですか……遂に来ましたね」
転生協会の資料室で資料の整理を行っていたユエルと司。二人の話題は司の今後のスケジュールに関する事だった。
「ちょっと早いかなって思ったんですけど、司くんの吸収力ならいけますよ。大丈夫です」
これは鼓舞ではなくユエルの本心だった。実際司の覚える速度は異常であり、一回教えたら完璧に理解してくれる。彼の來冥者としての実力は未だに不明だが期待は正直高い。
「異世界創生会議って確か、転生先の異世界の世界観や実際の運用指針を決める会議ですよね。さすがに緊張します」
「記念すべき初異世界運用ですしね。あ、当然その世界のラスボス役は司くんですよ」
主人公枠の死者が転生する先となる異世界をどんな世界にするか、転生する主人公にどんなストーリーの元で楽しんでもらうか等を決める会議――それが異世界創生会議だ。
近々創生予定の異世界の担当ラスボスは司になったのだろう。彼がどんな世界観を造り上げ、どんな演技をしてどんな戦い方をするのか、ユエルはわくわくが止まらなかった。
ユエルの言う通り司にとっては初めての『担当異世界』になる訳だ。
自身の認識に相違が無かった事を知った司は、一気に自分がラスボス役として転生協会のメンバーになった実感が湧いたようだ。
緊張とわくわくが入り混じったような、やってやるぞと言いたげな表情になる。
「取り敢えず転生した主人公を楽しませる為のファンタジー要素溢れる世界観を、担当ラスボス役は会議までに考えておく必要があるんですよね」
「はい。大変だと思うんですけど、そこは最初の壁だと思って頑張って乗り越えて……」
「一応いつ呼ばれても良いように五個くらい考えておいたんです。会議に提出するのは一個だけなので吟味しておきますね」
「ご、五個⁉ いつの間に……」
「あはは。転生協会でラスボス役として活動できるって考えたら嬉しくて、毎晩考えてたんです。結構こういうの好きなので楽しかったですよ」
「司くんって本当に優秀ですよね。私の事なんかすぐ追い抜きそうです……」
「褒め過ぎですよ。それに僕の考えた世界が会議で通らなかったら意味無いですから」
さすがに照れたのか司はユエルから目を逸らした。
異世界創生会議に必要な資料作りは毎日行う必要は無く、最悪次の自分の担当異世界にさえ間に合えば良い。その為人によっては数ヶ月に一度考えて終わりの場合もあるしユエルも大体そんな感じである。
だが司のようにコツコツとストックを貯蓄しておいた方が今後の自分を楽にするのは確かな話だ。
例えるならば試験勉強。毎日コツコツと勉強する事がベストではあるが、大抵の者は定期試験までの二週間や一週間の期間だけ集中して勉強するだろう。それと同じ現象が転生協会では起きている。
「よし、終わり。僕の方は終わりましたけど、ユエル先輩はどうですか?」
「私も終わりましたので帰りましょうか」
「はい!」
司とユエルは資料室を出ようとドアへと向かう。部屋の電気を消してから資料室を出て、ユエルが鍵をかけようとしたまさにその瞬間の出来事だった。
「見ぃつけた~」
何の前触れも無くそんなセリフを口にしながら突然少女が歩いて来たのだ。




