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第14話

 ここで言う『異世界への逃亡』とは文字通りアルカナ・ヘヴン以外の別世界へ逃げる事を指す。


 転生協会は転生先となる主人公専用の人工異世界を創生し運用するが、そのビジネスをする上でモデルとなった天然の異世界が存在する。その異世界は『モデルN』と呼ばれており、主に來冥者たちの実技訓練で使用される異世界だ。


 転生協会の今はまさにモデルNのおかげと言っても過言では無く、先人たちは異世界運用をする上で必要なデータ、創生方法を全てこのモデルNから学んだのだ。


 來冥者にとっては馴染み深い異世界であり、來冥力も使用可能な環境にある。


 その特性を悪用され腕に自信のある犯罪者が、その異世界へ逃亡したりする等の事態が過去に何度か発生している。弱い來冥力しか使用できない者であれば逆に返り討ちにする事も可能であり、そういう犯人の狙いはまさにそこにあるのだ。


 そうなった時、その場に同じく來冥者が居ないと即座に対応ができない。


「あ、あの……ちょっと良いですか?」


 ここまで沈黙を貫いて来たユエルがおずおずと申し出る。


「ん? どした?」


「私も一応來冥者ですし、そうなった時は私も協力しましょうか? こう見えて結構來冥者としての実力は自信あるんですよ。その辺のちょっと腕に自信がある程度の來冥者くらい相手にできます」


 転生協会でラスボス役として活動している者として、見過ごせないと思ったのだろう。


 空久良は最初こそ驚いた様子を見せたが、やがて首を横に振って否定の意を示した。


「気持ちは本当に有り難いし嬉しい提案だが、君は牢政の人間じゃないだろう? 確かにどうしようもない時は転生協会に協力申請を出す場合もあるが、今回は幸か不幸か俺も居るんだ。これは我々牢政の人間に任せてくれ。当然、これは司にも言える事だぞ。今のお前はもう牢政所属じゃないんだからな」


「僕もユエル先輩と同じく協力する気満々だったけど、仕方ないね。ユエル先輩、ここは大人しく彼らを信用しましょう」


「分かりました。確かに牢政本部の來冥者さんですからね」


 正義感が強いのか、協力できない事を知りユエルは残念そうだ。


 それに対して司はそこまで、といった具合だ。ユエルとは違い空久良の事をよく知っているが故の信頼があるのかも知れない。


「空久良さん! 早く来てくれ! 予想通り奴がモデルNに逃亡した!」


 キリが良いタイミングで牢政の一人が慌てた様子でこちらへとやって来る。


「……! すぐ行く! それじゃあな、司にユエルちゃん!」


 状況が状況なだけに空久良は司たちの返事を聞く前に衛兵たちと合流する。そして全速力で店の中へと入って行った。


 モデルNへの転移はどこからでも可能な訳では無い。


 服屋の試着室のような大きな鏡付きの小部屋から転移する事はできる。そのアクセス媒体は店や会社の中に存在しており、犯人が立てこもっていた店にも例に漏れずあるのだろう。立てこもり犯は店内から異世界モデルNに向かったに違いない。

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