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エピローグ

「……っ……お兄ちゃん……?」


 異世界『パノン』の鯨夢の都で、蒼はふと彼の事を口にした。何故か今司に話し掛けられた気がしたからだ。


 だがさすがにそんな事は有り得ないと思った蒼は首を横に振って気のせいだと言い聞かせた。


「蒼ちゃん! こんな所に居たんだ! 今日の依頼こなそうよ! 森林区域でモンスターが大暴れしてるらしいよ。サクッとやっつけちゃおうよ!」


 蒼の仲間の一人がやって来て、やる気に満ち溢れた姿を見せる。


 司とユエルが居なくなった後の蒼は、仲間と一緒に世界各国から集まる依頼を解決する生活を送っていた。どうやら今日は魔物退治が依頼内容らしい。


 自分が『本当に送りたかった生活』はもう送れない。暦と蓮によって無理やり奪われたからだ。それでも蒼は、今の生活が楽しく『第二の人生』と言う意味では寧ろ幸せに感じていた。


 今でも目を閉じると、司とユエルに会った時や彼らと共にパノンを満喫した時の記憶が脳内を駆け巡る。死後の異世界生活などあまりにも現実離れした存在であり、こうして体験していても本当は夢を見ているだけなのではと思わせてくれる。


 現実世界において天賀谷蒼という少女は既に死んでいる。その事は蒼も十分理解しているし、これから先もこの虚構の世界でしか生きていけない事も分かっている。


 本音を言えば定期的に司やユエルに会いたいし、何かの事情で向こうから再びやって来る事が無い限り二人にはもう二度と会えないのだと考えると、やはり少し寂しい。


 だがそれでも蒼は気丈に生きている。そして彼女がここまで強く、そして楽しく過ごしていけているのには大きな理由があった。


 蒼は司、ユエルと別れた時に心の中で誓ったのだ。


 現実世界で司が蒼の遺志を引き継ぎ、協会でラスボス役として頑張るのであれば、蒼が司の為にできる事は何か。そんな事は決まっている。


 パノンというこの世界で全力で生きる事。生きていれば何度も訪れるはずだったであろう幸せな時間を取り戻すが如く、全力で謳歌する事。


 だからこそ蒼は寂しかったとしても、その感情に負けてはならないのだ。司を安心させる為に、そして司の取った行動が無駄じゃ無かった事を証明する為に。


「うん! 今行くよ~」


 そう言って蒼は仲間の元へと駆け寄る。


「 (お兄ちゃん、ユエルちゃん。私は元気にこの世界で生きてるし、今凄く幸せだよ! だから、二人も私の事は心配しないで、協会での活動、頑張って……!) 」


 蒼は今日もパノンの為に奔走する。


 大好きな兄が残してくれた、自分だけの新しい世界を心から満喫する為に。






 ラスボス役の異世界奇譚 第一章『天賀谷兄妹』編 完


 第二章『手錠双璧(てじょうそうへき)』編へ続く 

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