第106話
『ねぇ、お兄ちゃんはさ、私との異世界生活が終わったらどうするの? だってリバーシにはもう戻れないんでしょ?』
『まだ実際に宣告をされた訳じゃないから確定では無いけど、多分僕は戻れない。今回の件はエンペル・ギアにも絶対伝わるだろうしね。……これからどうするかは、まだ決めてないよ』
『ならさ! そのまま協会に残っちゃえば?』
『確かに協会で過ごした時間は楽しかったし、僕もできればそうしたいよ。でも僕は結果だけ見れば皆を騙して協会に来た訳だし、今更あの場所に僕の居場所なんて……。今回の異世界運用だって協会の理想とはかけ離れた行動ばかり取っちゃってるし』
『もう~お兄ちゃんは……変な所でネガティブなんだから。ラスボス役とか絶対お兄ちゃんに合ってると思うけどなぁ。それにさ』
『それに?』
『私、死ぬ前は協会で活動しようとしてたでしょ? それがもう叶えられなくなるのは正直残念なんだ。でもお兄ちゃんが協会に残って活躍してくれたらさ、私は心残りが無くなるだろうし、凄く嬉しいんだ! 私のお兄ちゃん凄いでしょ、みたいな気持ちになって』
『……僕が活躍する姿、蒼はもう見れないじゃないか』
『いじわる言わないで! 想像するだけで私は嬉しいの! お兄ちゃん、今頃活躍して、色んな人に褒められてるんだろうなぁって考えるだけで嬉しいんだから!』
『そっか。何か安心したよ。僕の知ってる蒼のままでさ』
『えへへ。私ね……私ができなかった事、お兄ちゃんにして欲しいんだ。それで、転生協会にかなりの大物が来たぞって驚かせて欲しいかな~ってちょっと考えて。全部私のわがままなんだけどね』
蒼との会話を聞いた三人は言葉を発しない。それ程までに真剣に聞いていたのだ。
「僕は今回の件がキッカケで蒼に会えたし気持ちを聞けた。そして僕が協会に残る事は、蒼の遺志を引き継ぐ事を意味するって思ったんです。蒼は自分が成し得なかった事を僕にやって欲しい……それでもし僕が活躍してくれたら自分はもう満足だと話してました」
「パノンで蒼ちゃんとそんな事を話していたんですね。自分の気持ちに正直になって良いか悩んでいたのに、蒼ちゃんの為を思うならそんな悩みは吹き飛ぶ所……司くんらしいですね!」
ユエルは微笑みながら口にする。
兄が活躍したら自分の事のように喜び、思わず自慢したくなる気持ちが湧き上がる。それが天賀谷蒼であり、死後の転生体であっても変わらない。そんな彼女らしさは司が協会に留まりたいという気持ちをより強固なものにしてくれた。
「はは。蒼ちゃんの為に協会に来て、蒼ちゃんの為に協会に残るなんて、最後まで君は妹さんに振り回されているな」
「でも良いんじゃない? 本人も妹ちゃんも、それで満足ならさ!」
「楽しかったからっていうのもありますよ。そういう意味でもここに残りたいって思いましたから」
実際に協会で会議に参加し、異世界運用をしていて一つだけ思っていた事があった。リバーシの呪縛から解放され、何の後ろめたさも無く協会で活動できたらどれだけ楽しいだろうかと。
別にリバーシが嫌という訳では無かったのだが、シンプルに協会での時間が楽しかったが故にそう思ってしまったのだ。
結果的に司はリバーシを追放された事で、何の肩書きも無い『天賀谷司』として協会に入る事ができる。今こそ新しい人生を歩めるベストタイミングなのかも知れない。
「取り敢えず君が協会に残ってくれるなら私としても嬉しいよ。ま、もし本格的にラスボス役としてデビューする気ならやり過ぎには注意しなよ? 今回みたいに力加減をミスってボッコボコにしたら怒られるどころじゃ済まないぞ?」
琴葉は冗談めかしてニヤニヤしながら言う。だが発言内容自体は至極真っ当の為、司はぐさりと突き刺さったような気分になった。




