第105話
余談ではあるが司は協会に来た目的をユエルに話した後にカムリィから嘘の部分を指摘されていたが、そんな指摘が可能なのは司の事情を知っている人に限られる。
リバーシにとって正体がバレる事は当然禁忌だ。中には他言無用を厳守する絶対的な信頼を置ける人物には正体を明かし、活動を続けている人も居るかも知れないが、仮にそんな事がエンペル・ギアにバレたら一発アウトである。
それは候補生であっても変わらず、司も正体がバレないように日々を過ごしてきた。つまりそんな状況下で司の正体を知っているのはリバーシを指揮している五大機関のトップか、同じくリバーシ関連の人だけだ。
カムリィはどちらなのかと言うと、後者の方である。
彼もまたリバーシのメンバーであり、それも正式な一員として普段から活動している。つまり転生協会での総責任者は仮の姿なのだ。
当然司はカムリィの事に関しては一切触れず、あくまでも話して良い範囲内で自身やリバーシの事について彼女たちに教えてあげた。
「なるほどな。そう考えると君の元に来た異世界運用に関する連絡はベストタイミングだったんだな。少しでも遅れていたら、君は潜入先を別の所に決めていた可能性があって、協会には来ていなかったかも知れないし、蒼ちゃんの異世界運用も普通に終わっていただろうな」
「はい。きっとこういう時に『運命』って言葉は使われるんだと思いました。もしも僕が牢政を後半の方の潜入先にしていたら……もしもちょうど次の潜入先を決定しなければいけない時期に、蒼の異世界運用に関する連絡が来なかったら……きっと今回の結末は迎えられなかったでしょうしね」
「うん! きっと神様は居るんだよ! これまで頑張って来た司くんに、蒼ちゃんの事件を解決できるかも知れないチャンスを与えたんだと思うよ~!」
「神様か……。異世界モノでは定番の存在だけど、もし本当に居るなら感謝してもしきれないかな」
司にとっては恐いぐらいに全てが噛み合った事で蒼との再会を果たせて、彼女を殺した犯人を牢政送りにでき、そしてもう一度蒼と過ごしたいという夢を叶える事ができた。
我を忘れて暴れまくった結果、罰を受けた司だが、その表情はどこかスッキリしたものになっている。リバーシにはもう戻れない上に牢政で過ごした二年がほぼ無意味なものになり、多少なりの残念さはあれど、蒼の件を無事に解決する事ができた代償なのであれば安いものだと彼は思っているのかも知れない。
「あの……ところで、司くんは今後どうするんですか?」
リバーシに関する話題が一区切りついたタイミングを見計らい、ユエルは自身が気になっていた質問を司にぶつけた。
「え? 私はてっきりそのまま転生協会に残ってくれるのかと思ってたよ~。確かに蒼ちゃんの件が解決した後も協会に残ろうとしていた当初の理由は、リバーシとしての責務を果たす為だったんだろうけど、協会を好きになってくれた気持ちに嘘は無いんでしょ? だったらそのまま残っちゃいなよ! 私としてはせっかくできた友達が居なくなるのは寂しいし……」
「同じく。まぁ今度はちゃんとした手順で協会のオーディションを受ける必要はあるだろうけど、君の実力なら問題無いんじゃないか? リバーシ候補生として約二年間、ある意味で演技を続けていた訳だろう? 素質はバッチリじゃないか。しかも今回君は特殊運用とは言えしっかりと経験もした。その強みを活かさないなんてもったいないよ」
「あ、あの……決めるのは司くんなので、そんなに言っちゃったら……その、司くんも別の選択肢を考えにくくなっちゃいますよ……?」
ユエルは口ではそう言うが、他の二人と同じく可能なら協会に残って欲しいと思っていた。だがそれを司に強要する事はできない。彼の今後の人生を決めるかのような選択であり、決定権は当然司にある。
今ここで当然協会に残ってくれるよね、という空気を作るのは司にとっては居心地が良くないのではないか。ユエルはそんな事を考えていた。
だがユエルのそんな気持ちはどうやら杞憂だったようで、司は驚くくらいあっさりと自分の選択を三人に告げた。
「先輩。別の選択肢なんて考えていません。僕はこれからも、協会でラスボス役を続けていきたい……そう思ってますよ。これは、僕の本心です」
「え?」
「何ですか、その反応。もしかして僕に協会に残って欲しくないんですか?」
冗談交じりに言った司だがユエルは本気で不快感を与えてしまったと勘違いしたようで慌てて否定した。
「そ、そんな! 違います! 寧ろ逆です! 協会に残りたい気持ちが本心なら、凄く嬉しいです! ただ、どうして急にと思って」
その点が気になるのはユエルだけでなく他の二人も同じなのか、三人の視線が司に集中した。
「実は蒼に言われた事がありまして」
ユエルも交えた蒼との異世界生活を謳歌していた時に兄妹水入らずの会話もあった訳だが、その時の会話を思い出しながら司は彼女たちに伝える。
ユエルも初めて聞く話であり、興味津々で耳を傾けていた。
あれはとある日の夜、鯨夢の都の中にある宿に宿泊していた時の事だった。ユエルと蒼が同じ部屋で司は別部屋だったが、ユエルが寝た後に蒼が司の部屋にやって来て二人きりで話をしたのだ。




