第104話
「そうだったのか。にしても君は真面目だな。ちゃんとしていると言うか何と言うか」
「そんな褒められる事では無いですよ。もともと僕は、その……皆さんをずっと騙していた訳ですし、そこに後ろめたさはやっぱりありました。多分、こういう所も僕はリバーシに向いていなかったかも知れませんね」
「辛いですよね。諜報員として潜入するって事は、行く先々で偽りの顔を見せ続けなければいけないんですから。わ、私だったら一発でバレそうです。以前マキナちゃんにリアルだと嘘は下手なんだって笑われましたし。異世界運用の演技とリバーシとしての演技は別物な気がします……」
「あ~! あの時のね! 今思い出しても……ふふ……!」
余程あの時マキナはツボに入ったのだろう。ユエルの大根演技を思い出して、あの時程では無いにしろ笑い始めた。
「話題に出した私が浅はかでした」
「あはは。それにしても司くん。ラッキーだったな。数多ある機関の中から転生協会を潜入先として指定されてさ」
「指定は違いますね。実は、候補生には一つだけ特権があるんです。それは潜入先を自由に選べるっていう点です」
衝撃の事実に琴葉だけでなく、ユエルとマキナも驚愕の表情をする。
「な、何? そうなのか?」
「はい。僕は潜入先の選択肢が数え切れない程あった中で、協会を選びました。蒼に再会できて、かつ蒼の件を解決できるかも知れないと思ったからです。そうですね……せっかくですから、教えられる範囲でリバーシの事を教えますよ」
その発言は三人の興味を引くには十分過ぎたのだろう。ユエルも琴葉もマキナも、司の話に耳を傾けた。
リバーシは五大機関のトップの傘下で活動をする諜報機関であり、転生協会とは比べ物にならないくらいの能力が求められる。極限られた一部の選ばれし者のみがメンバー入りを許可され、その選定として四年の試用期間が設けられる。
試用期間中、彼らに課せられる任務は通常と変わらない。すなわち様々な機関・組織に潜入し情報収集をする事だ。
本メンバーと同じように活動し、適性があるかどうかを四年かけてじっくりと吟味される。当然少しでも不適だと判断されたら今回の司のように即切りだ。
常に緊張の糸を切らさずに過ごしている彼ら候補生は、唯一本メンバーと違う点が存在している。それは任務先を自分で選べる事だ。
順番は問わないが取り敢えず『五大機関のどこか』で二年、『五大機関以外のどこか』で二年、合計四年の活動をしてもらう事になっている。どちらから二年を過ごすのか、そしてどこを選ぶのかは本人の自由だ。
任務先をエンペル・ギアによって勝手に決められるのは正式に加入してからであり、まずは好きな所で任務を覚えてもらう事が彼ら候補生に与えられた使命である。
司は先に『五大機関のどこか』として牢政を選択した。そしてそこで活動をしていき、無事最初の二年をやり遂げたのだ。
だが休んでいる暇など無く後半戦となる『五大機関以外のどこか』をすぐに選択しなければいけない。どこにしようかと悩んでいた矢先、彼の元に一本の連絡が入った。
蒼の異世界運用がそろそろ始まる頃になったが、ラスボス役の数が不足している為に延期も視野に入れなければいけない、と。
ここしかない。司はその時そう思った。
蒼に再会できて、ついでに犯人の名前を聞けるかも知れず、更に転生協会は五大機関では無い為『五大機関以外のどこか』にも該当している、まさに司にとって理想とも言える場所だった。
そして司は一応は牢政所属の身である肩書きを利用して協会へとやって来た。この部分だけに関してはユエルに話した通りである。
だがその時に司は彼女に対して嘘を吐いた。蒼の異世界運用が終わったら転生協会に正式な手順で入り直すとユエルに伝えた司は、その理由として協会に興味が湧いたからと伝えていたが、これが嘘である。
実際に協会で過ごして興味が湧いたのは紛れも無い本心だが、理由にはならなかった。
彼が協会に残り続けたいと思った理由はただ一つ。ずばり『五大機関以外のどこかで二年間、リバーシ候補生として任務をこなさなければいけないから』に他ならない。
当然そんな事をユエルに言える訳も無く、司は嘘を吐いてしまったのだ。




