第101話
半殺しどころか九割九分殺しくらいにはされた蓮だが、異世界運用が終わるまでそのまま放置しておくにはあまりにも危険な存在である。そう思った司とユエルは、まずは蓮を牢政に引き渡す事が何よりも先決だと判断した。
問題はその行動を取る場合、一旦アルカナ・ヘヴンに帰る必要が発生する訳だが、それはつまり異世界運用を中断する事を意味する。
基本的にラスボス役は異世界運用中は該当世界に常在するルールとなっており途中で抜ける事は禁止なのだ。
正直なところ今更異世界運用がどうのこうのと言っている場合では無いのだが、司たちは一介のラスボス役に過ぎず勝手な行動を取る事はできない。こんな時は上の人間に判断を仰ぐのが普通の流れだろう。
この場合における上の人間とはパノン異世界運用総責任者の立場にあるカムリィの事だ。
司は早速カムリィへと連絡を取ろうとしたが、どうやらそんな必要は無かったようでカムリィの方からやって来た。
突然の事態に司とユエルは疑問符と感嘆符を頭上に大量に浮かべ、蒼はと言えば彼が敵なのか味方なのか分からず少しだけ警戒していた。
カムリィがやって来た目的は蓮をこの世界から現実世界へと戻し、そのまま牢政の管理下に置いてもらう為の橋渡し役を担う為であった。
司とユエルがパノンに行った後に現実世界では何が起きたのか、そしてカムリィが何を経験したのか、暦の過去や蓮が登場した理由などを全て聞いた司とユエルは、一度に大量の情報が雪崩れ込んできて頭がパンクしそうになったが頑張って処理する。
何とか立って動けるまで回復した蒼は取り敢えず近くで話を聞いていたが、何が何やら分からずチンプンカンプンといった様子だった。
本当ならば会話に参加してより詳しい事情を知りたかったのだろうが、空気を読んで自分は邪魔しない方が良いと思ったのだろう。蒼は司とユエルが話に集中できるようにずっと沈黙状態を貫いていた。
それにしても危険度最高レベル区域から一日も経過せずに現実世界に帰還するなど、さすがカムリィといったところだ。
蓮は戻って来るまでに数日かかると予想していたが、カムリィへの評価がいかに甘かったのか分かる。蓮の予想に反して何倍も早く帰って来たカムリィを前にした暦はさぞかし驚き、そして絶望した事だろう。
話によればカムリィはパノンへ来る前に牢政を呼び、先に暦を逮捕させたそうだ。そして彼女を牢政に任せた後、蓮を連れて帰る為にこうしてやって来たのである。
パノンに来る前に経過速度差が五〇倍になっている事には気付いていたカムリィだが、蓮を逮捕する為に協会で待機中の牢政の人たちを待たせる訳にもいかない為、彼は敢えてそのままの設定にしておいた。これで仮にこの世界で数時間経過したとしても現実世界では僅か三~五分の経過でしかなくなる。
司とユエルに事情を丁寧に説明する為の時間をしっかり設けたいという思いから生まれたカムリィなりの配慮であった。
一通りの説明を終えたカムリィは蓮の近くまで歩み寄り、瀕死状態の姿を見て考える。
知識が無い者が見ればただ実力差があっただけだろうという浅い結論で終わるが、カムリィは違う。蓮が負ったダメージは明らかに普通の來冥者では生み出せないレベルだと瞬時に気付く。
そして何かを察したのか、司を見て呆れたように苦笑いしたが、彼に向かって話し掛ける事は無く無言で蓮を肩で担いだ。
その後、帰り際に異世界運用総責任者として、司とユエルにパノンの今後について言葉を残した。




