第100話
蒼の事を想うなら自分はどうあるべきか。何をするべきか。それを考えた結果、自分がさっきまでしていた事は本当にユエルの言う通りただの自己満足に過ぎなかったのだと気付いたのだ。
司は蒼の事を心から大切に思っているからこそ、その気付きによって憎しみに打ち勝つ事ができた。ずっとユエルの言葉に耳を傾けていた司はここでようやくその沈黙を破り、申し訳無さそうに喋り始める。
「そう……ですよね。先輩の言う通りだと思います」
「司くん……!」
司の声は涙声ではあるものの、ユエルが知っているいつもの司の温かみを確かに感じた。その事が嬉しくてユエルはホッとする。
「本当にすみませんでした。いえ、違いますね。ユエル先輩、僕を止めてくれて、ありがとうございます。それで、その……」
「……?」
「冷静さを取り戻したせいか、さすがに照れると言うか恥ずかしいと言うか……」
「え……? ……。……! し、失礼しました!」
ユエルも司同様に興奮状態から冷め始め、自分が司を抱き締めている事を認識し反射的に司から離れた。
心臓がバクバクと高鳴り顔が熱い。司を落ち着かせる為とは言えもっと別の方法があったのではと若干の後悔が襲う。
「 (ユエルさん……ありがとう、お兄ちゃんを止めてくれて……) 」
どこか気まずそうにしている二人を眺めながら蒼はユエルに感謝の言葉を心の中で述べる。そして司が元に戻ってくれた事に安心したのだった。
こうして司にとって初めての異世界運用に訪れた大きなトラブルは、無事解決を見せた。
台本通りに進まなかったどころかラスボス役とその右腕が主人公を襲う悪を退治するという前代未聞の結末を見せたが、蒼の異世界運用は意外な形で成功を収める事になる。
司が下したとある判断によって。
蒼の異世界運用が終わってから一週間後。
司はユエル、琴葉、マキナと一緒に空久良陸の墓参りに来ていた。蒼と違って空久良は死後に異世界転生しないという意思表示をしていた為に、司たちはもう二度と空久良には会えない。
仮に異世界転生の希望を出していたとしても、彼が死んだ現場はアルカナ・ヘヴン以外の世界だ。これまで何度か話題に出たが、異世界で死んだ人間は人工異世界への転生はできない。つまりどのみち異世界で再会を果たす事は叶わないのである。
四人はそれぞれお参りを済ませた後に特に何かを話す訳でも無く黙って墓を見つめる。だがその沈黙も長くは続かず琴葉が破る事になった。
「あれからもう一週間か。本当にあっという間だったな」
「はい。パノンにユエル先輩と一緒に行った時は、まさかあんな事になるなんて思いませんでしたよ」
「私もです。無関係の部外者が……それも指名手配犯レベルの犯罪者が異世界に侵入するなんて、協会の歴史を振り返っても初の出来事だったらしいですね」
「らしいね~。まぁそんな事頻繁に起こったら信用問題に繋がるから当然と言えば当然だけど~」
「……」
他の三人が会話を続けている中、司はあの後の事を思い出していた。




