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第五節 裳着の儀式と入内準備

R15指定は、一応念のために設定。

(『源氏物語』を取り扱う関係上、恋愛・性愛関係描写が出てきてしまうため)

基本、ドタバタコメディー(時々シリアスあり)です。


※この小説はあくまでフィクションであり、登場する歴史的事件、人物、企業名、大学名などは実在する同名のものとは別存在であるとお考え下さい。

【2023年11月27日連載開始】

 第五節 裳着の儀式と入内準備


 時を遡ること数年前。

 数えで十四となった私は、裳着もぎという、貴族令嬢の成人式にあたる儀式を行うために京の都にある本宅に呼び寄せられた。

 裳着もぎとは、貴族の成人女性が正装として身に着ける「」と呼ばれる長いスカート状の着物を、初めて身に着けるという儀式で、腰にそれを結びつける役の人を「腰結役こしゆいやく」と言い、父親がやる場合も多いけれど、場合によっては親の上司とか、親類縁者で一番偉い人とか、とにかく権威付けのために高位の人に頼むこともあるらしい。

 腰結役をやった人は、その子の一生の後ろ盾という位置づけになるらしく、それっていわゆる、西欧キリスト教圏での「ゴッドファーザー(名付け親)」そのものだなと、時代も国も宗教観も違うのに妙な共通点を見つけて興味深かった。因みに、その「裳」というのを着けているのが正式な「女房装束」、いわゆる十二単と呼ばれるものだ。

 で、私の場合、祖父が「腰結役」をやってくれることになった。

 私にとっては宇治時代の養い親だった人なので、ゴッドファーザーとして異論はない、というか、最適任者だと思う。

 但し、ここで新事実が! 実はお祖父様って今は既に引退はしたものの現役時代は関白もやっていたという凄い経歴の方だったということを、今回改めて教えられた。

 で、つまり、私ってやっぱりそこまで高い地位にある人の孫娘だったんだー、と改めて思い知らされた訳で。

 よく聞けば、私のお父様自身も結局、現役で左大臣をやっているのだそうだ。自分の父親の職業知らないってどういうことなんだと思われるかもしれないが、私、本当にこの時まで知らされてなかったのだ。……たぶん、色々と問題を起こす姫の父親が政府中央の要職にあるっていうのが外聞が悪くて、本人にすら教えられなかったという経緯なんだと思うのだけれど。

 裳着の儀式は、本当にただ腰にスカートの紐を巻き付けられて前で結ばれるだけなのかなと思っていたら、髪の毛の前髪横のあたりを少し短めに削がれて、その後も祝詞や色々な細かい儀式はあったりした。だけど、そのあたりの後半部分、十二単の衣装の重さにやられてボーッとしていたのでよく覚えてない。

 けれどとにかく、これを終えれば「成人」な訳で、そして、ああ、なるほど、後見役に現代風に言えば元内閣総理大臣を持って来たあたり、ちゃくちゃくと「例の計画」が進行しているのだな、という空気が伝わってきた。

 元首相をゴッドファーザーに持つ高位貴族の娘。末は女御か中宮か。

 ――私、目一杯権威づけられてる、づけられてる!

 儀式に参加してくれた人達の口からも「都一番の后がね」という例の言葉が何度も囁かれていた。

 儀式を終えた後、お祖父様は、まじまじと私の顔を見て

「うむ。母上の血を濃く次がれた、当代一の美姫ぶりじゃて。まこと末が楽しみじゃ」

 と、大層、ご満悦だった。

 そんな形で元関白であるお祖父さまのお墨付きを得て、この後は本気で一族の命運背負って入内、という手順が待っているのだろう。

 と、そう思っていたのだけれど。


 ***


 ……こういうのって、その成人の儀を終えてから、どのくらいのスピードで話が来るものなの? 

 イメージとしては、京に呼び戻され、裳着が終わったら、本当にもう速攻で入内させられるように思っていたのだけれど、季節が一つ変わろうとする時間が経っても一向にその話は出なかった。

 ただ、父や兄たちは妙に忙しそうにしていて、家を空けていることが多くなっていたし、そうかと思うと時々非常に厳しい顔つきで帰ってきて着替えだけしてまだ出て行く、なんて日々が続いていた。

 父たちと言葉を交わそうにも、本当にとんぼ返りでいなくなってしまう。

 そんな中、父が家に忘れてきた物を代理で取りに戻ってきたという二の兄を捕まえて、やっとどうしたことかと尋ねることができたのだが、それには「いや、予想外のことが色々起きてしまっていてね。でも、お前が心配するようなことではないよ」と返された。

 心配するなと言われても、そんな目の下に何日も満足に寝てないようなな大きなクマを作った人に言われても安心なぞ出来ない。

 これは、何かとても良くないことが起こったのか。

 ――まさか、お父様が何か政治的に凄いミスをしてしまって失脚し、我が家まるごとどこかに流罪になるの? そういう処分になった藤原氏の人たち、歴史上、何人もいるよね? まさかまさか、「うち」が、その歴史上の「お取り潰しになる家」そのものなの?

 と、ちょっと慌てて、今度は、お母様に面会のお願いをしてみた。貴族の家は、同じ家に住んでいても、実の親子でも、会いに行くのに「先触れ」という形で自分の女房に面会予約を取りにいかせないといけないのだ。ただ、お母様の方は悠長なもので、「では、明日の昼、牡丹の花でも愛でながらお話をしましょう」という返事が来た。

 ――牡丹の花見って、うーん、お母様がこんな調子なら、やっぱり、そう大変な事態ってわけでもないの?

 母のその雅な返事はあまりに平常運転すぎて、逆に良いのか悪いのか読めなかった。

 ――だって、お母様って雅を愛しすぎで、例え本能寺の変の最中でもお琴とか琵琶とか奏でてそうな勢いなんだもの!

 で、その翌日、指定時刻の頃。一応貴族令嬢の嗜みとして屋敷内での移動にも女房は引き連れていかないとならないので、最低限のおつきの者として楓と椿だけを伴い、父と母の暮らす北の対に赴いてみた。

 すると、母の部屋には季節でもないのに、どこからか取り寄せた見事な牡丹が飾ってあり、それを見ながら、水菓子、現代語で言うところのフルーツを食べるという、非常に贅沢な席が用意されていた。

 ――季節はずれの牡丹、たぶん相当な大金払って取り寄せたんだろうな……。

 そんな贅沢品には目もくれず、開口一番、私は尋ねた。

「あの、お母様、最近、何か世の中的に大きな動きでもあったのですか? そして、それ、お父様たちのお仕事に何か影響あったりするものですか?」

「おやまあ、久しぶりにあなたの方から顔を見せにきたと思ったら、いきなり何ですか。せっかくの牡丹が無視されて可哀想だわ。まずは、この薄紅色のぼかしがのった花弁をよく見てあげてちょうだいな。あら、楓に椿。久しいわね。どうかしら、この子、またあなたたちを困らせたりしてない?」

大宮おおみや様、おひさしゅうございます。こちらに上がらせて頂いてから、このかた、姫様の裳着などでせわしなくしており、ご挨拶が遅れておりました。北の方様におかれましては、ご健勝のご様子、なによりでございます」

 ――うううううう。例え、火事があってもお琴を奏でてそうな雅道を極めるお母様と、私の礼儀作法教師代表格の楓先生! 会話に時間がかかる二大巨頭が揃ってしまっている。こ、これは、本題に入るがいつになることやら……。

「そうでしたね。この子の裳着は、実質、楓、あなたが一人で取り仕切っていたようなものでしたわね。それにそもそも、この色々と問題のある姫を、よくぞここまで育て上げ、つつがなく裳着にまでこぎ着けてくれましたこと。褒めてつかわします」

 お母様は、私よりもずっとずっと、もっと本当に「深窓の姫君」なので、基本、凄く偉そうな物言いをなさる方だ。まあ、実際、元・皇女様で滅茶苦茶偉い人なわけだけれど。

 偉そうついでに、今日も今日とて、楓への褒め言葉下賜のついでに、さくっと私をけなしてくれている。

 ――「問題のある姫」って、そんなぁ……。私、かなり頑張ったのに! 

「もったいないお言葉でございます。そもそも、姫様をお育てするにあたり、私が出来たことなどほんの少しでございます。姫様はもともと大変優秀な方でございましたから」

「その優秀すぎるのが、問題なのですよ、はあ、本当に頭の痛いこと。さて、時に、この子はまた最近、琴の手習いを怠けているのではなくて? 時々、東の対から風に乗って聞こえてくる音が濁っていて聞くに堪えません。裳着の折、お祖父さまに『当代一』などという過分なお言葉を頂戴し、慢心しているのではないかしら?」

 そう冷ややかに言うと、母は手にした桧扇を広げフイッとそっぽを向き、顔を隠してしまった。

 ――うわあ、来た! 怒ってる、これは絶対怒ってる……。私の琴の件にかこつけながら、最後の一文が一番重要なやつだ、これ……。

 いや、この件、絶対、言われるだろうなとは思っていた。私の母は「当代一の美姫」というフレーズは自分自身に向けて言われるものだと信じて疑わないってお人なのだ。

 今回のお怒りポイントは、あの裳着式でのお祖父様からの、いわば儀式を締める言葉として、「当代一の美姫」なる言葉が、私に向けて放たれてしまったので、それに対し、ご不満だと。

 あの時、実際私、「お祖父様、褒めて下さるのは嬉しいけれど、その特定フレーズだけは入れないで欲しかった~!」と、心の底から思ったものだ。

――実際、ハイ、それはそうだろうと思います。私なんてこのお母様に比べたら、月とすっぽん、満開の牡丹とペンペン草ってなくらいに、歴然とした差がありますからね。

 目の前の母は、年齢的には予想三十前後くらいなのだが、まさにいまを咲き誇る大輪の牡丹という艶やかかつ雰囲気のある美女、対し私はその母からの遺伝によりある程度整った顔立ちではあるもののそこまで止まりという感じだ。

 自分で自分の容姿が整っていると評するのは非常に気恥ずかしいのだが、でも、ここでそれを否定すると、その、お母様の血を否定申し上げることになるじゃない? だからまあ、「整っている」と言うくらい、どうぞ御勘弁を。

 と、ここで先程の挨拶の時点から横に控え、平伏していた楓が少しだけ顔を上げ、再度の発言許可を求めてきた。

「大宮様、その件暫し。私なぞが奏上申し上げるのも気が引けますが、あの時の大殿のお言葉は色々と省略や倒置がされた形だったのかと存じます」

――うわ! ナイスフォロー! 楓先生! 流石、百戦錬磨の乳母の君!

「そ、そうですよ、北の方様、まさに、それです! 宇治の大殿様が仰った『母上の血を濃く次がれた、当代一の美姫ぶりじゃて』って、『当代一の美姫である母上の血を濃く次がれた、当代二番目くらいの美姫ぶりじゃて』って言いたかったところを、姫様主役の儀式なのに当代二番目というのも変だなとか、美姫って言葉が二度出て来たぞとか、思われて、省略したりひっくり返したりと頭の中でなさって、結果、ああいう文言になっただけだと思います。そう! 省略と倒置です! 京の方々って皆さん、そんな喋り方なさいますものね!」

 ――ナイスフォロー2! 椿! それ、まさに私がお母様への言い訳の言葉としてシミュレーションしといたやつ! しかも、こういう言い訳っぽい文言は、自分で言うよりも女房に言わせた方が平安姫の心得としてGOODなはずなのでお母様の心証も芳しいはず!

 さあ、では、ここで、私も二人の尻馬に乗っかっることにしよう。

 とは言っても、私もあまり表現にバリエーションがある方ではないので、先程自分の中で思いついた例えを繰り返すくらいしか出来ないが。

「お母様、ご挨拶が遅れました。本日もまことに麗しいご様子。やはり、どう考えても『当代一の美姫』はお母様の方でいらっしゃいましょう。その様は、そちらの牡丹ほ花も恥じらうほどと存じます。ややっ。こちら、本来は白牡丹だったのではござりませぬか? 薄紅のぼかしというのも、牡丹が母上さまのお美しさに自らを恥じらい、頬に朱が差した様なのでは。……私もお母様の艶やかさを引き立てる添え花として、野に咲く小花くらいにはなりたいものでございます」

 「ややっ」から先が、ちょっとかなりこじつけがましく、かつわざとらしいけれど、でも平貴族の放つおべんちゃらはこのくらいがスタンダードなはず。しかもここで私自身への例えに野草のペンペン草などと言うと「そこまで自分を卑下するな」とか何とかまたお叱りの言葉が来そうなので”野に咲く小花”とくらいにしておく。母に対する時は、このあたりの塩梅が非常に難しい。

「まぁ、やっと牡丹に目が行きましたか。あなたに雅を教えるのは本当に難しいこと。それにそのような言い様、本来は殿方が女人を褒める折に使う文言ですよ。ま、何にしろ、そのくらいの返しが出来る程度の機転は、一応、あるのようね。我が家の跡継ぎ娘は」

 言葉上は、相変わらず説教が並ぶが、口調が明らかにほぐれてきた。どうやらご機嫌は直ってきたようだ。

「ああ、そうですわね、その件を一度ちゃんと話しておかねばなりませんね。あなたは、割りに何でも出来るほうだけれど、その出来る方向がやや勉学の方に傾きがちで、雅の道については、まだまだ、やっと人並み程度に出来るようになった程度でしかありません。あの琴の音がその良い例なのです。そんな腕前では、我が家の長姫として宴の席でお客様に対し一曲ご披露することさえ覚束ないというもの。私の縁者に一人、楽をよくする者がおります。姫の指南役には適任かと。楓、左様な次第につき、万事良きよう取り計らいなさい」

 琴の件は例のフレーズ問題を持ち出す前振り素材としての話かと思ってたら、やっぱりそっちでもちゃんと叱られるらしい。

 ――お母様って、やっぱり読めないというか、厳しいデス……。特にその「雅の道」なる謎の道については、ホント、厳しい。しかも、えーと、何ですって? お琴の新しい先生? しかももうそれは手配済みってこと?

 私が、このやりにくい母への対応に脳内で密かに懊悩していると、乳母の楓が平伏状態のままずいっと一歩前へいざるように進み、奏上する。

「はは。しかと心得ましてございまする。して、宴とはいつ」

「次の望月の頃がところあらわしの宴と心得よ」

「え! 月が満ちるって……、昨夜が十日と一つの月、今宵は十二夜、望月が十五夜だから……えっ! あと四日しかないじゃないですか!? うわ、そんな、いきなり……」

 椿が素っ頓狂な声を上げると、すかさず楓がそれを窘める。

「これ、少納言。大宮様の御前で言葉を崩しすぎです」

「あ、失礼いたしました、大宮様。急なお話に姫様の一の女房と致しましても、少し吃驚してしいまして……」

 いや、ここで、びっくりしたのは、私のほうこそ、だった。最初の楓の返答で「ん? 本当に宴会があるの?」と思っていたら、何やらトントン拍子に話が進んでいって、つまりいきなり四日後に大勢のお客様の前で、私は琴の演奏をしなくてはならないことになっているらしい。

 そしてそれは決定事項であり、私が異論・反論を挟む余地は一切ないらしい。

 母と楓や椿の間で交わされる微妙に色んなところに省略形が入った言葉のやりとりは、やはり私には解読不能で、その後も母から彼女たちには指南を受ける部屋はどこにするようにとか、その時用意するもとか、や部屋の設え方とか、色々細かい指示が出されていたようなのだけれど、相変わらず私にはちんぷんかんぷんのままだった。平安人って、省略された言葉の端を埋めていく推理の達人ばかりだな、と本当に感心してしまう。

「というわけで、乳母の君、少納言の君、我が家の大姫(おおひめ)をもり立てるべく、精一杯努めなさい。姫、あなたも、摂関家の娘として世に出る前の総仕上げの時期です。しかと励みなさい」

「ふ、ふわっ、は、はい、お母様! お、お言葉、む、胸に!」

 最後の方でまた、いきなり私自身に振られて、ちょと咽せてしまった。

 実は、母と楓たちの間で細かい事務的な打合せが続いていたので、その間、手持ち無沙汰だった私は、出された水菓子、つまりフルーツを食べていたのだ。牡丹は季節外れのものをどうにかして取り寄せたということだったけれど、水菓子の方は旬の桃で、甘い汁がたっぷりとしていて大変美味しいお味でした。季節はずれのものと旬のものを同時に取り合わせ味わう、そういうのが、お金をかけた貴族の「雅」な遊びなのだそうで、今回の牡丹と桃も、まさにそれですな。

 ――それにお母様のことだから、厳しいことを言いつつ、鞭と飴方式で、たぶん、この桃も後で何個か包んで持たせてくれるんじゃないかな? うん、そうしたら、楓と椿にも分けてあげよう。

 と、ちょうど、そんなことを考えていたところだった。

「ああ、もう、本当にそういうところがねえ……。我が子ながら、当代一の姫とはなんぞと、世に問いかけたくなります。……楓、総仕上げ、まこと宜しく頼みますよ」

 そうぼやきながらも、母は自分自身のお付きの女房に指示して、本当に大きな桃を五つも包んでくれたのだった。


 母とのちょっと気の張る面会を終えて、その総復習として会話を反芻してみる。

 我が家では近々、望月の宴なんて雅な催しが開催されるというくらいだし、どうやら家が傾くという方向の心配はしなくてもよさそうだ。

 一時期家中がバタバタしていたのは、どうやら、お祖父様の正妻にあたる方が亡くなった関係からだったらしい。亡くなられた方はうちのお父様の生母様ではないのだけれど、それでも家全体で裳に服すべきという時期が一定期間あったらしい。その間は晴れがましいことは何も出来ず、今回やっとその期間が明けて、久々に宴を開催することになったという経緯らしい。つまり、入内関係の話もその関係からで中断せざるを得なかったらしく、どうやら別に白紙に戻ったのではないような気配を感じた。

 ――お母様曰く、「摂関家の姫として世に出る前の総仕上げ」、ですもんねぇ。……しかし、やっぱり摂関家だったわけかウチは。割と高位どころじゃなく、その頂点たる、摂政関白を輩出する家柄。裳着の時にウチのお父様が今現在左大臣だとは聞いたけれど、摂関家でなくても一応、左大臣にはなれるからね。でも、摂政と関白になるのは摂関家の家の出=藤原本家の血筋でないとダメらしい。特に平安末期は、その縛りがかなり厳しくなっていた頃のはず。

 しかも、なんかね、「摂関家」って摂政関白を沢山輩出する家っていう状態を指す形容表現かと思っていたら、どうやらそれで固有名詞らしいんだよね。そこが本当にややこしい。

 私が自分の家のことをあまり知らなかったというのは本当のことで、実際、私、自分の父や兄の正確な名前(藤原のなんちゃら)も、ちゃんとは教えてもらったことないくらいだ。日常生活では、生まれ順に一の君、二の君……、一の姫、二の姫……とナンバリングで呼ばていて、諱は本気で滅多に使わない。ただ、藤原氏の嫡流の男子によく使われる「決まり字」と呼ばれる有名な幾つかの文字があり(例えば兼家、家長、道長、頼家、頼通……などなど日本史の教科書に出てくる藤原氏と言えば!な方々が使っている字)、そんな決まり字を父や兄たちも諱に使っていた気がするので、そこからしても嫡流に近い家なのだろうとは予想していた。

 本家に近いだろうとは思っていたけれど、まさにド嫡流だったとはね。そりゃ、女御入内、立后を狙いたいわけだ。このお后システムにしても、摂関家じゃなくても、もっと言えば藤原氏じゃなくても、ある程度以上の家柄であれば帝のもとへ娘を入内させるのはOKということにはなっているらしいんだけど、ただ、平安も中期から末期にかけては、皇后・中宮になるのはほぼ百パーセント、藤原氏の本流、摂関家の出の姫じゃなくてはダメだったはずだ。

 ――で、その摂関家の長姫が私という訳なのね……。

 改めて自分の家のことと自分自身のことを知らされ、なんだかとっても人ごとのように感じてしまう、母娘の牡丹鑑賞会の一幕であった。


次回更新予定:明日朝8時頃 (基本、毎日更新です)



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― 新着の感想 ―
[良い点] お母さま、、、厳しくはあっても何だかんだ、姫を可愛がっているのですね。この先のお琴エピソードを楽しみにしつつ、桃食べたくなりました。
[一言] 4日間じゃ上手くなりようがないのでは!? 演目決めるだけで終わりそう
[良い点] 本能寺の変の最中でも琴引いてそうな母上(元皇女)登場。主人公とのズレっぷりが楽しいです。次回は宴での琴デビューなのかしら
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