※【内容刷新工事中】第二十節 閻魔大王の降臨
R15指定は、一応念のために設定。
(『源氏物語』を取り扱う関係上、恋愛・性愛関係描写が出てきてしまうため)
基本、ドタバタコメディー(時々シリアスあり)です。
※この小説はあくまでフィクションであり、登場する歴史的事件、人物、企業名、大学名などは実在する同名のものとは別存在であるとお考え下さい。
【2023年11月27日連載開始】
**********現在・工事中です**********
※作品内容向上のため、現在(24年3月7日~13日まで)、大鉈振るって改良工事を行っております。空蝉事件編があまりに長期化したため、この部分の縮小・短縮化を図ることで、物語全体として流れ良く読みやすく改良したいという意図です。
(空蝉事件開始のあたりから短縮・改良版に置き換える予定です。付随して宇治・讃岐編も縮小予定)
※その結果、ここまでリアタイで読んで下さった読者様には、ご不便をおかけ致しますことをお詫び申し上げます。ご不便内容の具体例としては、大鉈振るった結果、物語の流れが変わる部分や削られたエピソードが出てくる可能性がございます。また、感想をお寄せ下さった方には非常に申し訳ないことに、一話削るとその話に寄せられた感想部分まで削られてしまう可能性があり、その点も心よりお詫び申し上げます。(感想が削られない方向を模索してみますが、その場合、掲載話と感想部分がズレるなどの現象が起こるかもしれません。)
※工事期間は3月13日までを予定しており、14日より新バージョンでの連載再開を予定しております。
※24年3月7日まで公開されていたバージョンは「旧版」としてどこかに保管する予定ですが、その中で公開されているネタは、新バージョンでの展開にて再利用される場合がございます。
**********現在・工事中です**********
【以下、旧版です】
第二十節 閻魔大王の降臨
「さて、じゃあ、何から始めようか。というより、どう説明してくれるんだ!」
部屋に入って来るやいなや、長兄は几帳の向こう側の円座にどかりと腰を下ろし、そう切り出した。
「その前に、頭の中将、どうやらこちらの上はまだ本調子ではないらしい。さきほどから観察していたが、目の回復が特に遅れている。猫に触れようとして空振りを何度もしている他、目の悪い者特有の瞬きの多さが見られる。今現在、ほとんど見えてはいないではないかと思う」
師匠にズバリ現状を言い当てられ、ちょっとドキリとした。確かに今、私の目はほとんど見えていない。しかし、そこまで細かく観察されていたとは。
――さっきのだって、アテネを渡したくなくてわざとやってるのかと思ったのに!
先程猫を師匠から奪い去る際、だいぶ苦労したのだが、それは師匠が猫を手放したくなくて意地悪をしていたというより、私が見えていないが故、空振っていただけだったらしい。
「ん? そう……なのか? まあ、そいつのそれは持病のようなものだ。二の宮からすれば、それこそ欠陥に見えるかも知れないが、日が暮れてからは油をケチらずに灯りをバンバン焚いてやるとか、家の中の段差をなくしてやるとか、こいつのその症状と付き合っていく方法がない訳じゃない。紫葵子本人もそれは自覚してるはずだ。だからこそ、今回はなんであんな夕刻にかかる時間帯にわざわざ外出していったのか、と思ったんだがな」
――それはだって、師匠が婦女暴行犯になるかも!?という疑いがあったからで、とは、口が裂けても言えないので、ここは黙ってうなだれておくしかない。
しかし、ここで師匠は、居住まいを正し、また丁寧に頭を下げてきたのだった。
「いや、その件は……あれは最早、なんと言ったら良いのか分からない程に……私の失言・失態だ。売り言葉に買い言葉だったとは言え、大変失礼した。己自身が完璧とはほど遠き人間でありながら何故他人の欠陥を論うことが出来たのかと、かつての自分の横面を叩きたい。特に、本人にはどうしようもない先天・後天性の外的・身体的特徴なぞ、他者が言及して良いものではないのだから」
「あ、えっとあの……、その件は、わたくしも悪かったと思ってますのよ? 最初に『可哀想な宮様』なんて言い方をしてしまったのはわたくしですし。だから、謝るならわたくしからだと思っておりました。ごめんなさい、師匠! それに実際、師匠は可哀想なんかじゃ全然ないです! お琴さえあれば人生薔薇色に謳歌していける人ですよね! そこの拘りが凄い! 流石はお母様の同類!」
「……いや、可哀想かどうかは別として、実際、端からみれば我の身の上はまさに寄る辺もない、不安定な存在であろう。何故、そうした不確定要素に対し、左大臣家が娘を寄越してまで後ろ盾になる気になったか不思議なくらいだ」
「あー、まあ、なんだな俺に言わせると、二人とも、どっちもどっちだがな。しかし……シゲ坊、お前さんもそういうところ、このタコ娘と同類で、極端から極端に走り過ぎるんだよ。そこまで固くなりすぎずとも、世の中、なんとかなるものだぞ。鳥目問題だって、そいつが、暗いところ構わず勉強しまくった挙げ句の話だからな。自業自得な話でもあるんだよ。ったく、『蛍雪の功』をそのまんまやるヤツがあるか! うちはそこまで貧乏なのかっていう話だ? 一応、天下の左大臣家だぞ!?」
師匠が庇ってくれたにも関わらず長兄の矛先がやはりこちらに向いてきた。私もここで黙ってスルーしていれば良いのに、思わず脊髄反射で言葉を挟んでしまう。
「ち、違います! あれは、先生方に勉強時間を区切られてしまったから苦肉の策で、あと『蛍の光窓の雪』って本当に出来るのかって興味があったからであって……!」
「ああん? こいつ、これで本当に調子が悪いのか? ……だいたいだな、あの当時の師範役からの報告によると、『この速度で姫様の勉学が進まれると、三月もしないうちに我々がお教えすることなど何もなくなってしまいます。二歳の約定で雇って頂いたのに、これでは話が違います。我々にも養わねばならぬ妻子・父母がおりますれば、何卒姫様にせめて夜はちゃんと寝て頂くよう、ご進言を』だそうだったが? 夜はちゃんと寝ろ、これは、当たり前の話だぞ、紫葵子!」
「ううううう、そうだったのですか!? だったら、先生方にはもっと早いところ出し惜しみせずに教本教材、出し切って貰って、あとの契約期間はお給金だけ払うから帰っていいですっていう手も使えた訳じゃないですか! そうすれば、もっと早くに私のお后教育だって終わっていた訳で! あの時の二年間が三ヶ月に短縮されたんであれば、残りの一年と九ヶ月くらいは自由時間になったって話ですよね? その時間があれば、私、もっと薬草園の拡張や里山の竹林の整備、田畑の開墾をやれた訳で! そうしたら、里の者達をもっと沢山雇用することができるし、結果彼らの懐ももっと潤って、我々貴族にお金を借りずとも自分たちで稲や麦の苗や種を手にいれることができるようになる。そうなった方が結果的にあの地方全体の国力も上がる訳ですし……!」
「……紫葵子! お前、本当に問題の本質分かっているのか!?」
ここで光る君の師匠が、兄の言葉の最後に被るようにパンと扇を打った。
「……この場合、本質的な話から遠ざかっているのは、両者ともにと見受けられる、蔵人の中将、芙蓉の姫。『三条の二の姫』の優秀さについては、こちらもこれまでの経験から十分把握している。民草のことを思っての今の発言も、その心意気やよしとは思うが、今この場で話すべき議題ではあるまい」
――おっと、師匠から超超超珍しい直裁なお褒めの言葉が来たーーーーーっ!明日は雪ですか、それこそその雪の光で琴の鍛錬でもせよということですか!? って突っ込みたいところですが、ハイ。
「そして、繰り返すが、二の姫はまだ回復途上だ。基本的には聞き役に徹して欲しいと思う。兄妹喧嘩も別の機会にして欲しい」
「って、そうだったな。悪い、俺も熱くなりすぎた。これまでもずっと、こいつが何かに集中してぶっ倒れ、俺が呼ばれる、いつもこの繰り返しだったからな。で、何だったか、そうだな、まず今回、倒れた原因か! お前、また何か適当な神仏の名前を引用して、こじつけで事態を切り抜けようとしたろう。バサラ……何と言ったか?」
「婆珊婆演底主夜神だな」
「それだ。シゲ坊も何で、それを丸ごと覚えられてんだが、そこが謎だが」
「音の波だ。全ての言の葉は、まずは音の波の高低強弱に基づいて把握し、それに文言としての音を貼り付ければ、語となる。……というのも、また本質からは遠ざかっているだろう。私がそもそも述べたかった儀は、芙蓉の姫はまだ本調子ではないのだから、まずは蔵人の中将、其方の口から事件全体の報告と、左大臣家側の事情を問うておきたいと思っている。然もなくば、私とて報告書の書きようもない」
「報告書だ? ああ、そうか、お前、霜台を兼職していたんだったな。お飾りとは言え、本来そっち側の話でもあるはず、か。ただ、報告書書きなんて、尹であるお前がやることか?」
「いかにも。地方役人の不正とあらば、こちらの領分。曲がりになりにも我が霜台となったからには、お飾りなどとは言わせぬが、現在のところ他にやる気のある者がいないので我が書くしかあるまい。そも、本来あるべき姿で律令機関が機能していないからこそ、ああした地方政治の腐敗が起こるのでだ。これを機に、朝議の席でも律令を重んじる中央集権体制への見直しを提言すべきだろう」
「言ってくれるな。唐を真似た律令制で上手くいかなかったからこそ令外官を制定していったんだろうが。それに地方分権は中央専制よりは色々融通が利いてマシな部分も多いと思うがな。あー、だがしかし、今回はうちとしても真ん中の弟の引責問題にも発展しそうで頭が痛いんだが……」
「勿論、その三の君の件も、しかと査定させて頂こう。重要議題だ。婚家たる左大臣家に点が甘いと言われぬよう、その点は厳しく裁定せばならぬ」
――え? ちょっと待って、誰が何で、何がどうなって……? 全部分からない!
言われた通り、一度は横になって顎のあたりまで夜着(という名のお布団)を引き寄せてみたものの、途中から私は兄と夫の会話の意味が全く分からなくなってしまった。それ故、口元から夜着を少しずらし、おずおずと会話に割って入ってみることにした。
「あ、あの……わたくし、師匠の音の波の話まではなんとか分かったのですが、その後いきなり、全く話が見えなくなってしまっていて……。ソーダイとは何のことでしょうか? そして三の兄上の責任問題? それを師匠が査定なさるんですか?」
私の当然と言えば当然の疑問に対し、兄は烏帽子の上から頭をガシガシと何回か掻き、言葉を探すようにしながら言う。
「ああ、そうだな……。霜台っていうのは、こいつ、シゲが今、兼任で任されている役職だ。漢語で霜台または御史台、律令制では弾正台と定められたもので、まあ、なんだ、役人の不正をあばくために設置されているものだ。金の流れ、モノの流れ、官職の不正譲渡、犯罪行為隠蔽等々を含めてのな。ただ、令外官としての検非違使が定められて以降、弾正台はここ何十年もの間全く機能していない。有名無実化ってやつだ。でもって、そこのてっぺんの『弾正尹』には名誉職として時の帝の皇子などが据えられることが多いんだよ。っていうか、紫葵子、お前、シゲのあの謎の音の波理論の方は分かったのかよ!?」
兄はとうとう、シゲ坊ですらなくシゲと略することにしたらしい。師匠がその度に眉をピクリと動かすので、より嫌われている方向なのは間違いない。
そして弾正台という用語は確かに知っている。兄の言う通り律令制の太政官制で定められたお役所の一つで二官八省と共に社会科資料集にも必ず載っている。ただ、私もそこがそんな検察庁や会計監査員みたいな役割の省庁だというのは良く分かっていなかったのだが。
――後から制定された令外官の検非違使がこの時代の警察機構だっていうのは分かってたんだけど……。
「また話が遠ざかっていないだろうか。私が現・弾正台尹であることは、後の話にも関係してこようが、その他の枝葉に触れるのはもう止めにして欲しい」
「ああ、そうだったな。だから、ええと、何だったっけか?」
「我は、まず、其方の口から本件全体のあらましを聞きたいと申しておる。蔵人頭にして近衛府中将を兼ね、かつ左大臣家の長子である、其方からだ。頭中将」
「あー、ったく、先程少し殊勝なところ見せたかと思いきや、こういう時ばかりは、その上からの口調再びなのな。はいはい、分かりましたよ、今上帝第二皇子にして、主上のご寵愛が最も深き弾正尹宮様」
それまで、兄と師匠、犬猿の仲かと思いや、結構仲良くなってたんだな(そういや猥談する仲でしたね!)と、その漫才のようなやりとりを聞いていたのだが、ここで、え? と思うようなフレーズが登場した。
「え? 師匠、まだ『宮様』なのですか?」
「は? どういう意味だろうか。その『まだ』というのは?」
「いや、その……はい、確かに皆さん『二の宮様』って呼ぶけれど、それは通称なんだと思っておりましたので。正式な官職名としても宮の字が使われてるってことは、未だに皇籍にいらっしゃるのだな、と思って……」
「その未だに、というのが分からぬ。我が帝の正式な皇子であることに対し、その皇子妃たる其方が不満の意を表するのか?」
兄は、ここでもまた烏帽子の脇をガシガシと掻き、「シゲのことなぞ言えないくらい、うちの妹も相当箱入りだよな」と呟いた後、言葉を継ぐ。
「あー、まあ、だから、こいつの頭に入っている情報が古いんだよ。お前が元服した当初、姓を賜っての臣籍降下の件、出ただろうが。あの似非占い師の嘘くさい御神託のせいもあって。で、源氏性を与えるか平氏姓にするかちょっと揉めた上で、かつ主上のお心を慮り、立ち消えになっていった件だが」
「父の御心を慮りとはよく言ったものだ。……実際には、其方ら左大臣家の者どもが一丸となって潰した話であろう」
「当然だな、お前に降りられちゃ、こちらとしては元も子もない。なんのために紫葵子をそっちにやったと思ってるんだ」
「こちらとしては、いっそ臣籍降下した方が、よほどやりやすかったのだが」
「だから、降りられたら困るって言ってるだろうが! こうなりゃ、お前と俺たちは一蓮托生なんだからな!」
***
と言うわけで、お母様との面会でもないのに話の本題が延々と始まらない中、私は、父親の正式な官位を知らなかった件に続き、どうやら自分の夫の官職も知らなかったらしいことが判明した。
――弾正尹宮様って、うーん、そんな設定『源氏物語』にあったっけ? 確かに光源氏って作中でも「宰相の中将」とか「大将の君」とか、出世して役職上がる度に変わる様々な官職名で呼ばれていて、それがややこしいから現代語訳では「源氏の君」で統一されてるんだよね。だから、もしかしたらその役職も経験しているのかもしれないけれど。
それに、そもそも、空蝉の件もあれだけ違ったからなあ……。
更に、ここで特筆すべき新発見も幾つかあった。
・その一、私はどうやら「皇子妃」様だったらしい!
・その二、光る君は臣籍降下の時、源氏か平氏かで揉めたらしい!!
・その三、うちの兄や父たちが「何か」をして、光る君の臣籍降下を阻止したらしい!!!
――私がお妃様と呼ばれる身分だったってのはこの際、どうでもいいんだけど、思い返してみれば、確かに弾正台の漢語の「霜台」というのには聞き覚えがある。師匠のお付きの人たちが「霜台の君様」と呼んでる時や、兄たちが「霜台の」って師匠に呼び掛けてる時があったかも。またまた平安調の曖昧発音のせいで、私としては「壮大」とか「尊大」とかそういう字を当てるのだと思って流してたんだけどね。実際、師匠の態度はいつも「尊大」そのものだし。
――しかし、その苗字問題!!! えええ? ここでもし平氏に決まってたら「光平氏」になっていたかも知れないの? そうしたら、タイトルからして『平氏物語』になっちゃうよね!? ただでさえ、『源氏物語』と『平家物語』って対のものだと誤解されたりしているのに、より誤解が深まるよ、そのネーミング! うわあ……。
――そして最後の「その三」はだいぶ重要な話だよね。確かに、私のあの騙され結婚の儀式前後、父様や兄様たちが凄く忙しそうだったけど、もしや、この件だったのか!?
私は東宮女御になるには欠陥品でダメだっった訳だけど、第二皇子である光る君をなんとか皇籍に留まらせておいてそちらに嫁がせておけば、次代への布石という意味で、一応、保険にはなる。
臣籍降下阻止。そんな風に内部のキャラクターたちの努力で話の流れって変えられるものなのか。
そして、これはある意味、呪い死にの破滅回避を目指す私には、一筋の光明とも言える発見でもある。
――つまり、頑張れば、私も死なずに済むってことじゃない!?
次回更新予定:明日朝8時頃 (基本、毎日更新です)
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