※【内容刷新工事中】第十九節 目覚めの香りは黒猫
R15指定は、一応念のために設定。
(『源氏物語』を取り扱う関係上、恋愛・性愛関係描写が出てきてしまうため)
基本、ドタバタコメディー(時々シリアスあり)です。
※この小説はあくまでフィクションであり、登場する歴史的事件、人物、企業名、大学名などは実在する同名のものとは別存在であるとお考え下さい。
【2023年11月27日連載開始】
**********現在・工事中です**********
※作品内容向上のため、現在(24年3月7日~13日まで)、大鉈振るって改良工事を行っております。空蝉事件編があまりに長期化したため、この部分の縮小・短縮化を図ることで、物語全体として流れ良く読みやすく改良したいという意図です。
(空蝉事件開始のあたりから短縮・改良版に置き換える予定です。付随して宇治・讃岐編も縮小予定)
※その結果、ここまでリアタイで読んで下さった読者様には、ご不便をおかけ致しますことをお詫び申し上げます。ご不便内容の具体例としては、大鉈振るった結果、物語の流れが変わる部分や削られたエピソードが出てくる可能性がございます。また、感想をお寄せ下さった方には非常に申し訳ないことに、一話削るとその話に寄せられた感想部分まで削られてしまう可能性があり、その点も心よりお詫び申し上げます。(感想が削られない方向を模索してみますが、その場合、掲載話と感想部分がズレるなどの現象が起こるかもしれません。)
※工事期間は3月13日までを予定しており、14日より新バージョンでの連載再開を予定しております。
※24年3月7日まで公開されていたバージョンは「旧版」としてどこかに保管する予定ですが、その中で公開されているネタは、新バージョンでの展開にて再利用される場合がございます。
**********現在・工事中です**********
【以下、旧版です】
第十九節 目覚めの香りは黒猫
――うーん。えーと、どうしたんだっけ、そうだ! 紀伊の介の館で色々あって、その後、私、猫を探すために、あの能力の奥の手使って、それで……。
覚醒寸前、自分内でそう情報をまとめ、そこからパチリと意識が切り替わり、目が覚めた。
目覚めて最初に目に入ったのは、夏向けに白を基調としたグラデーションの薄絹の袖口。平安姫として修行を積んだ今では、白✕3、紫グラデ✕3、青緑✕2のこの組み合わせは「蘇芳の匂い」という襲であることが分かる。
――ああ、なんか前にもこんなのあったなあ。あれはちょうど「春はあけぼの」で目覚めた時? あの時は、兄様の袖口だったけど、今この袖から匂い立つ白檀単品の香りは……。
「――ああ、姫様……良かった! 母上……じゃなくて、楓の中納言様! 姫様が! 姫様が目を開けられました! って、二の宮様! 下向いて居眠りでもされていたのですか! 早く姫様の方を見て下さいまし! あ、頭の中将様にもご連絡差し上げないと!」
蘇芳の匂いの襲より一歩下がった位置には紅梅襲の袿を纏った女房装束らしきものが見え、その薄紅色のグラデーション布の塊から、緊張と安堵の混ざったような声で、そんな言葉が発せられた。
――ああ、この声、椿だな。前にこんなのを着ていた気がする。でも、今朝はこの衣装じゃなかったから、着替えてるね。つまり、私は、着替えが必要な位、長時間(場合によっては丸一日以上?)眠ってたというわけか。
私は寝起きの頭を巡らせ、周囲を見渡す。どうやら場所は、我が家である三条邸の自室、しかも塗り籠めの中で、そこに布団を敷いた上に寝かされているらしい(もともと私、寝る時は塗り籠めにお布団派だからね)。
能力使用のしっぺ返しがまだ続いているのか、視野がいつもより狭く、焦点も合いにくい。合いにくいというより、ほぼ合わない。例の能力使ったしっぺ返しの鳥目現象が、今回は強く出ているようだ。
「……いや、別に眠りこけていた訳では。猫が何かを訴えてきたのでそちらに気を取られたまで。猫の方が感覚が鋭敏なので人間より先に己が主人の覚醒を先に悟ったのであろう。……二の姫、見えるだろうか。あて君は無事だ。調子はどうなのだ? あれから既に丸一日が過ぎている。その間、君はずっと眠り続けていたんだが」
前半部分は女房たちにそう言い訳しながらも、その後は心配そうな色を滲ませた声でそう私に語りかける、その声の主は光る君の師匠。
――最近気付いたんだけど、師匠はプライベートとオフィシャルで二人称代名詞を使い分けてる御様子で公の場では「其方」、私的な場面では「君」を使うらしい。使い分けてるっていうか、ぽろっと出るって感じかな。少年時代から尊大言葉は板についてないと思ってたけど、あれって皇子様として周りに言われて無理矢理「そういう」風に喋ってる感じなんだよね……。
蘇芳の匂い襲の袖口もやはり師匠のもので、こちらも着替えたらしい。腕には、言葉通り黒猫が一匹抱かれているように見える。
「あて君、良かった……! ごめんね、悪い飼い主で。でも、お前もいけないのよ、マタタビなんかに惹かれて……って、そこはまだ確定情報じゃないか。でも、とにかく、知らないお宅の中で勝手に迷子になったりして! 師匠から離れるなってあれほど言っておいたのにその約束も守ってなかったし! でも、本当に無事で良かった。……師匠もありがとうございました。あれから、どうなりましたか? やっぱり、この子、女の童に拾われてましたか? それとも、帰ってきたというのは、あて君自身が自分で?」
私は、師匠の抱く黒猫に手を伸ばし、そっと鼻先あたりを撫でた。
「目が覚めたと思えば、またそうして矢継ぎ早に。全く。こちらは、まず体調を尋ねたはずだ。その調子では、身体も方も変わりなきよう見えるが、それで良いか? ならば、重畳。この後の尋問の場を考えるに、其方の体力が回復していないと話にならない。聞き取りと説教本体は、頭の中将に譲るとして、まず私からは……」
――うわ、尋問とお説教タイムがあるのか~! 結局、どう兄様たちに言い繕うか作戦立てる時間がなかったなあ……。えっと、師匠も、その、これは……、怒っているよねえ……。
その予測に基づき、私は肩をすくめてまずは光る君の師匠から雷が落とされるのに備えたわけなのだが、今回はその予測は大きく外れた。師匠は、何故か、その烏帽子の乗っかった形の良い頭を下げてきたのだ。
「申し訳なかった。あの場にて猫から目を離したのは、確かに私の責任だ。塗り籠めでの件や、紀伊の介の件があったにせよ、一時とは言え、あて君の存在を完全に放念していた。確かにあのままでは混乱した現場に放置され、行方知れずになっていたかも知れない。今回は無事であったから良いようなものの、あれは確実に私の落ち度であった。生き物を自らの手で飼育する以上、人間はその小さな命に対し責任を持たねばならない。その責を一瞬とは言え失念した私こそ、飼い主失格だ」
――お、おおおおお。……師匠、またこういうところ真面目だよね、すごく。ていうか、こういう人が何故人妻と婦女暴行スレスレの不倫騒動とか起こすの!? というのが心底分からなかった訳で。それもどうやら微妙に事情が違ったらしいって知れたけどさ。
……っていうか、そこまで言われると、なんだか、これじゃアテネの飼い主、私じゃなくて師匠みたいだよ。まあ、凄いなついてるのは確かだけれど。
今も、アテネは目覚めた私にホントに気付いているのかどうか、その白グラデーションの袖に埋もれるような形で抱かれながら、喉をゴロゴロと鳴らしている。
「いえ、それは、こちらこそですし。師匠がそこまで責任感じる必要もないと思います。っていうか、私の猫なんですけど、その子! なのに、なんだか師匠の方が飼い主みたいですわね。可愛がって下さるのは嬉しいですけれど、でも、私の猫です!」
場の雰囲気を和ませる意味も込めて、多少ツンとした調子と戯けた調子を織り交ぜてそう主張してみた。すると、今度は、師匠が、クッと皮肉と苦笑を織り交ぜたような笑いを漏らした後、数瞬の間を置いてから、こんなことを言ってきた。
「……果たして本当にそうだろうか。あて君に尋ねてみるが良い。どちらが本当の飼い主か、と。其方が讃岐に下向している間は、私が折につけ世話をしているのだ。最近では接している時間は私の方が多いのではないか? それに、もともと、この猫は、唐士人の商人より私のもとへと献上されてきたものだからな」
「そんなの、師匠だって別にこの三条屋敷にずっといるわけじゃないでしょうに!って、ん? え? 何ソレ!? 師匠の猫? 唐士人が献上!? いえ、その……そのようなお話、一度も耳にしたこと、ござりませんでしたが!? だって、その子、わたくしがお后教育を本格的にするようになった記念に貰った猫で……」
確かに、猫、特に唐猫と呼ばれる毛艶の良い猫はこの時代、本当に貴重品で、公式には朝廷への献上品でしか日本国内に存在しえない希少動物だと言う。遣唐使をやめたと言ってもやはり時々は国同士のやりとりが行われており、九州に設けられた太宰府には細々とではあるが、唐、南宋、高麗、新羅など様々な国の船がやってくるという。そのやりとりは役人同士のものに限らず同行したお抱えの商人たちとの取引も含まれており、書物や仏典、絵画、織物、唐菓子(砂糖)、貨幣、そして当時の日本にはいない珍しい動物などが輸入されていると言う。
ただ、うちは政府の要職中の要職である左大臣の家なので、その貴重な「朝廷献上品」の数々もそのまま流れてくることが多い。そのため、三条邸には割と常に、珍しい南洋の鳥やら中国奥地にしか生息しない猿やら、ハリネズミやら山嵐やらが飼育されていたりする。確か今も鸚鵡と猿がいたはずだ。悲しいことにそれらの珍動物は気候が異なる場所にいきなり連れてこられたせいと、飼育方法がまだ確立されていないせい等々が重なり、あまり長生きはしてくれないのだが。
だから、黒猫アテネもそんな「うちのお父様が偉いから」ルートで連れてこられたのだと思っていた。貰った当時は、まさか父が左大臣だとは思ってなかったし、唐猫の希少性もそこまでとは認識出来てなかたんだけどね。
南洋生物などに比べれば猫はずっと長生きしてくれるし、もともと前世でも結構な猫好きだった私としては、すごく嬉しいプレゼントだった。猫であれば、飼い方もあまり難しくないし、何より私がその「飼育法」が分かる。前世でも一時期飼っていたことがあるのだ。
光る君は、そんな私の思考回路を一部見透かしたかのように、こう続けた。
「其方が、左大臣家の姫として朝廷への献上品をやすやすと手にできる立場であるのと同様に、私もまたそうだった。帝の幼い息子の興味を引くため、子供の好きそうな小動物を献上する、それはごく普通にあり得ることであろう。あれは私の着袴の儀の頃だったろうか、唐士人の中でも卜占をよくするという高麗人が、我が行く末について妙な占いをしてきたことがあった。『皇帝に相応しい相有。但し、帝位に就けば世が荒れる』等と言う人騒がせな宣託だ。父はそれを聞いた途端、酷く落胆し、しばらく寝込んでしまったな。その詫びのつもりだろうか、翌日くらいに、その高麗人が連れていた商人がこの黒猫を私に献上して来た」
――あ、その高麗人の占いのエピソード、確かに『源氏物語』にある!!! 高麗って、当時の朝鮮半島北半分くらいを占めていた国で、正確には唐とは違う国なのだけれど、日本ではまとめて唐士人や唐人と言われていたんだよね。でも、あの高麗人の占いの話の裏に猫のプレゼントなんて可愛いエピソードが隠されていたなんて知らなかった!
着袴の儀というのは平安男子が初めて袴を身に着ける儀式でだいたい五、六歳くらいの頃にやるものらしい。つまりその頃、猫を貰ったということだ。その五、六歳の頃の光る君とアテネ、ちょっと見てみたかったと凄く思う。黒い子猫を抱いた美少年の図。例のおべんちゃら女房集団ではないけど「絵師に描かせてみたくなるような」可愛い構図だったろうに。
「猫には幸運の印としての役割や、退魔の意味もあると言う。高麗人も我に対し、酷い占いをしてしまったことをばつ悪く思い、幸運のお守りをくれたのだろう。私も可愛らしい相方が出来たことを喜んだのだが、生憎、その時分、私の周囲に仕えていた者の中に、猫がいるだけで体調を崩す者が数名いた。そのため、仕方なく手放すことにしたのだ」
――え、それって、つまり猫アレルギーってこと? あれって現代病のように思っていたけれど、平安期にもあったのかぁ……。
「我が元にいたのは、ごく短期間であったが、それを覚えていてくれたのか今でもこうしてなついてくれる。あの猫が、こんな風に巡り巡って我と再び縁づくとは「奇しくも」とはまさにこのことだろうか。私とて、この屋敷に寄らせてもらうようになって暫くのうちは気付かなかった。ただ、このように見事な黒い毛並みの唐猫がそうそういるわけもなく、次第を尋ねれば、やはり、あの猫で間違いないと言う。……こちらでも可愛がられているようなので、安堵している。ありがとう。私の猫を大切にしてくれて」
――うん、またまた「こういうところ」が師匠だよな~。普段あれだけ尊大なくせに、こういうところだけ妙に素直だからさ~。最後の「ありがとう」なんて、久々にあのちみっちゃかった頃の舌足らず発音、思い出しちゃいましたよ~~。
しかし、ここで一つだけはっきりさせて置かねばならないことがある。
非常に重要な話だ。
なので、私はコホンと咳払いの前置きをしてから重々しく切り出す。
「事情はだいたい分かりましたわ。でも、そこ、違いますから! 師匠の言う『私の猫』じゃなくて、『私の猫』ですからね! そこ、お間違いなく!」
私のこの発言を聞いて、師匠はまたくすりと笑った。
「さて、それは本当にどうであろうか。どちらが真の主であるか、答えは、あて君のみが知っておろう。そうであったな、確か褒美の魚をやらねばならぬという話であったか。少納言、疾く用意させよ。その際、皿は我が元へ。目覚めたばかりの我が北の方の枕辺に、魚の匂いはきつかろう」
「あ、それ、もともと私が出した指示ですよねえ! そして、そうやって師匠だけ点数稼ぎしようとしてますよね! 猫を魚で釣るなんて、なんて古典的な! ついでに、北の方って何なのです! つい昨日だかそこらに、上とか北の方とか言わないって言った癖に!」
北の方とは、正妻を指す平安用語で、寝殿造りの北の対に正妻が住まうことが多かったため、北の方に居を構える人から「北の方」と呼ばれるようになったのだと言う。
――つまり、今更ながら私のことを正妻呼ばわりしてくれちゃったりしてる訳ですが!
「……それを認めぬと、この先の話が進まぬようなので、認めることにしたのだ。ああ、来たようだ。其方にとっては、地獄の閻魔大王による尋問時間の開始だな」
光る君の言葉に、私はギクリとして、耳を澄ます。すると、遠くガヤガヤという人声が聞こえて来、その後はドタドタドタという本来上流貴族の家などでは聞かれるはずのない大きな足音が渡殿を超えて響いて来、やがて非常に嗅ぎ慣れた「荷葉」をベースとした香(お母様が一兄専用に特別発注しているやつ)の匂いが漂い始め……。
「さて、その『奇妙な行動』とやらの挙げ句、他家の門塀を半分吹き飛ばした、恐怖の爆弾娘はどこだ! 紫葵子! お前と言う奴は! 今回ばかりはどんな神仏の名を語ろうと言い逃れ出来んぞ!!!」
久々に諱を呼ばれながらの怒号が下された。
これは私が何かやらかしてしまった時の中でも、酷く絞られる場合の「お約束」の前振りだ。
どうやら、本当に閻魔大王の御前裁定の場が開催されるらしい。
――うううう、地獄の沙汰も金次第っていう慣用句、この時代にもあったりしないのかなあ? そして、兄様、何でなら買収されてくれるのかなあ!? ついでに、あれって、門を半分破壊するほどの威力あったの~~!?
来るべき試練に備え、私は師匠から黒猫を奪い取ると、その柔らかな毛皮の感触を堪能し、肉球の匂いをスーハーと嗅いだ。……その匂いはやはりマタタビ臭が大量に混じっていた。
――アテネ、やっぱりお前マタタビ追いかけて姿消してたね!
次回更新予定:明日朝8時頃 (基本、毎日更新です)
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