※【内容刷新工事中】第十八節 宵闇にマタタビ香る
R15指定は、一応念のために設定。
(『源氏物語』を取り扱う関係上、恋愛・性愛関係描写が出てきてしまうため)
基本、ドタバタコメディー(時々シリアスあり)です。
※この小説はあくまでフィクションであり、登場する歴史的事件、人物、企業名、大学名などは実在する同名のものとは別存在であるとお考え下さい。
【2023年11月27日連載開始】
**********現在・工事中です**********
※作品内容向上のため、現在(24年3月7日~13日まで)、大鉈振るって改良工事を行っております。空蝉事件編があまりに長期化したため、この部分の縮小・短縮化を図ることで、物語全体として流れ良く読みやすく改良したいという意図です。
(空蝉事件開始のあたりから短縮・改良版に置き換える予定です。付随して宇治・讃岐編も縮小予定)
※その結果、ここまでリアタイで読んで下さった読者様には、ご不便をおかけ致しますことをお詫び申し上げます。ご不便内容の具体例としては、大鉈振るった結果、物語の流れが変わる部分や削られたエピソードが出てくる可能性がございます。また、感想をお寄せ下さった方には非常に申し訳ないことに、一話削るとその話に寄せられた感想部分まで削られてしまう可能性があり、その点も心よりお詫び申し上げます。(感想が削られない方向を模索してみますが、その場合、掲載話と感想部分がズレるなどの現象が起こるかもしれません。)
※工事期間は3月13日までを予定しており、14日より新バージョンでの連載再開を予定しております。
※24年3月7日まで公開されていたバージョンは「旧版」としてどこかに保管する予定ですが、その中で公開されているネタは、新バージョンでの展開にて再利用される場合がございます。
**********現在・工事中です**********
【以下、旧版です】
第十八節 宵闇にマタタビ香る
「前の紀伊の介邸で火が上がったと聞いて、嫌な予感がして真っ先に突入してみれば! お前たち、本気で何しでかしてくれてるんだ!!! 二の宮! お前がついていながら、なんでこんなことになってる! このタコ娘の危険性はお前だって重々承知してるだろうが!!! だからこいつと行動する時は、片時も目を離すなっつっただろうが!!!」
検非違使たちの鳴らすピィー、ピィーっという呼び子の音が響く中、長兄より雷級の怒号が落とされた。
***
紀伊の介が間違って放ったあの黒い玉―私が香合わせの副産物として造り出してしまった爆薬もどきは、綺麗な放物線を描き、その問題の火の手―実際には焚き火あるいは小火程度のもの、に飛び込み、ドッカーンという爆音を立てて炸裂した。
但し、その爆薬、私が手工芸的に作り出せてしまった程度のちゃちなもので、破裂音こそ大きいものの、殺傷破壊力はほぼないような代物だ。イメージとしては、現代で言う、ネズミ花火やロケット花火の中に入っている程度のパワーしかない(はずだ)。
確か、硫黄と木炭とあと何だっけ?くらいをすり鉢でゴリゴリやって出来た気がする。硫黄は通常嫌な匂いを発する物質の代表のように扱われるが、そうした物もごく少量をアクセント的に使用することで香りに奥行きを出すことが出来る。これは前世である未来社会でも言われていたことで、有名香水メーカーが香水を調号する時にも使われる手だと言う。もともと人の肌から分泌されるものは必ずしも香しい匂いのものばかりではない。そうした人の持つ体臭成分に対し、香水の中に通常は嫌な匂いとされるものを少量混ぜることで、上手く隠したり消したり、場合によっては良い香りへと転じたりするのをマスキング効果というらしい(これは化学の副読本のコラム欄にあった記事の受け売り)。当時私は、その人間の体臭をどうやったら上手くマスキングできるかをちょっと模索していたのだ。
――うちの師匠の最初の言葉じゃないけど、腐臭のような体臭、やっぱりするんですよ、この平安時代の人たちって。入浴頻度の問題が大きいのだろうと考察されますがね。我が家では私が覚醒して以降、家族、女房、下男、はした女含め周囲の人間全てにほぼ毎日湯殿を使うことを半強制してきたけれど、それでも彼ら、気を抜くと入浴をサボろうとするんだもん。それ故、何か別方面からのアプローチは出来ないかと色々試していた訳で。そんな雅でない理由で私が一時期お香の勉強真面目にやってたなんてお母様に知られたら、また盛大に溜息つかれそうだけど!
そんなことを考えながらゴリゴリやっていたら結果として偶然「爆弾っぽいもの」が出来てしまった訳だ。でもこれ、その材料からして爆薬というよりごく初歩的な火薬に類されるものだと思う。硫黄の量もマスキングのことを念頭にごく少量しか使用していない。そのため火器としても威力は非常に弱いもの、ルネッサンスの三大発明である「火薬・羅針盤・活版印刷」の火薬、あれで言われているような、ごくごく初期型のものにしかなってないと思うのだ。鎌倉時代、元寇でモンゴル軍が日本の博多辺りに押し寄せてきた時、騎馬武者の馬を驚かせて落馬させるために使われていたという破裂音だけは大きい黒色火薬(ハイ、この「元寇図」、社会科資料集には必ず載ってますね!)、あれにすら至ってないような、そんな代物。
それゆえ、あの爆弾が破裂したからと言って、凄く大きな爆音が立ったという以外には、特に何か破壊されたというわけではないのだが……だがまあ……怒られるのは仕方ないかな、これは。
あのドッカーンという派手な爆音がした瞬間、光る君の師匠から「伏せろ!」と鋭く指示が飛び、実際私などはその師匠に抱きかかえられるような形で床にダイビングすることになった。紀伊の介は、その音に驚いて転倒し、そのまま気を失ってしまった。残りの、野萩はどうにか自分自身の力で身を伏せたようだった。
そして、我々が伏せの警戒体制を取り終わったくらいのタイミングで、市内を照会中だったという近衛府の将兵たちが紀伊の介邸に突入して来た。もともと火事の知らせを受け夜間市中警備にあたっていた者が次々集まってきており、その中で爆発音まで発生したため、通常行われるはずの確認作業を何段階か省略して突入という次第になったらしい。そしてその先陣を切っていたのが、近衛府の中将と蔵人の頭を兼任したる頭の中将様、つまり我が長兄だった。
兄は、「絶対にあいつらが何かやったんだ」という決めつけというか確信を持っていたらしく、現場に一番に突入し速攻で我々を見つけ出した。
そして、手回し良く用意させていた網代車に我々を押し込んだ後、一つ大きく息を吸い込み、件の怒号を飛ばしたわけだ。
***
「すまない、確かに今回は私の責任だ。優先順位の判断を見誤った。二の姫がまた奇妙な行動を取っていたにも関わらず、それを放置し、火災現場の方を優先した。紀伊の介にこれらの件を問い質しかったというのもあるが……」
兄の言葉に対し、光る君が珍しく何の反論もせず、ストレートに謝罪していた。
――うん、師匠にしては本当に珍しく素直だな。「私にこの欠陥品を押しつけてきたのはそちらだろう」的なことを言うかなと思ったのに。でも、その私の「奇妙な行動」って何よソレ!?
そうして兄に対し頭を下げた後、光る君、今度は例の塗り籠めの中で見つけた砂糖入りの麻袋をグイッと兄に押しつけた。
それを見た兄は、片眉を上げると、
「そういうことか。ならば、お前達はなおさら急いでこの場を離れろ。でないと、話がもの凄くややこしくなる。野萩は残って私の指揮下に入れ。二の宮は今度こそ、そいつから片時も目を離すな。そして、その馬鹿から話を聞いて、後で俺にも説明できる言葉に翻訳しとけ。今晩は二人とも一所にいて貰う。家にもそういう指示を出してきた。それから、おい、そこのタコ娘、その『奇妙な行動』っていうのを、あとでじっくり説明して貰うからな!」
と、一気にまくしたてると、野萩に網代車の簾を下ろさせた。そして、牛飼い童に「行け」と短く命令し、自分は野萩を伴って去って行く。
――あ、ヤバイ、一兄、爆弾の件、なんとなく勘づいてる……! っていうか、確証もないのに私のせいって決めつけてる感じ。 ……確かに、そうなんだけどさぁ!!!
***
牛車はノロノロと京の町中を行く。
日はすっかり落ち、宵闇独特の空気感が辺りに漂う。
今晩は朔夜―新月だと、師匠は言っていた。
ならば、この空気は一晩中ずっと続くのかも知れない。
そんな宵闇の静寂の中、光る君は黙りこくったままだ。
結構色々なことがあったはずだが、何故だか私は行きの車に乗っていた時よりも、今の方が心もすーっと凪いでいる気がする。
――ああ、そうか、結局、心配していたような事態にはならなかったからか。「空蝉」っぽい事件は確かにあったけれど、光る君は、結局、あの場でも相変わらず真面目が直衣を着て歩いているような、いつもの「師匠」のままだったし、人妻を口説いてたって言っても、何か相手の女の人のことを凄く心配していて「今後のことなら相談に乗るから」っていう感じのアプローチだったしね。
空蝉事件の真相って、こういうことだったんだな、と妙に納得もしてしまった。思うにこれって「情報は肥大する」の法則なのではないかと思う。印刷技術のないこの時代、源氏物語も手から手に写本に写本を重ねて世に広まって行ったというから、書き写すたびにもとの文章や物語にちょっとずつ話が足されたり、より過激な描写になっていったりしたんじゃないかな。そして中には紫式部が本来書いたものとはかなりズレた話が後世に残ってしまったのもあったんじゃないかな……。
そうそう、それよりも、空蝉事件の「裏」であんな密輸品(って言っても、あれの出所は明白なんですが)や、人身売買の話が動いていたなんて、それこそ紫式部先生もご存じなかったんじゃ?
―ああ、―兄の追及、どう躱そうかな、頭痛いなー。って、あれ? 私何か、重要なこと忘れてない? あっ! ああああああー!
「猫! そうだ猫を探してたんだった! ど、どうしよう! 嘘、やだ、あて君、さっきのドッカーン爆発に巻き込まれてないよね! やだ、本気でどうしよう! ええとっ……!」
突然、そう叫び出した私に対し、光る君はそれまで下に向けていた視線をふいと上げ、「ああ、そうだな、あて君か」と、自分でも猫の存在を思い出したように頷いた。
「あの! わたくし、やっぱり紀伊の介の屋敷に戻りますわね! 兄様はあんな風に言ってたから、戻ったらまた凄く怒られるでしょうけど、でも猫の命には替えられません。じゃあ、光る君、ごめんあそばせ。わたくし、ここから徒歩で参りますので」
そう言って牛車を飛びだそうとしたのだが、そこで光る君に腕を掴まれ、
「いや、二の姫、あて君であれば、後で私が探し行く。あの爆発は単発で終わっているのだし、火事も結局、あの程度の小火であった。当面の危険はない。今は頭の中将の言う通り三条邸まではこのままこの車に乗っていくのが正しいだろう」
と、止められてしまった。
そんな制止などすぐに振り払って、牛車の御簾を上げて飛び降りてやろうかと思ったが、ここで私はある事実に気付く。
「は! そうだ! あんなに武装した将兵がうようよいたら、怖がって私が呼んでも出て来ないか、あるいは邸内から逃げ出してしまってるかも……。それに、暗くなると私、目が……! もう日がこんなに暮れてるし! あー、もう、仕方ない!」
私は、奥の手の中の奥の手、スーパーウルトラC級を発動することにした。
着衣の袖口を探り手巾や畳紙など乙女のエチケット用品の入っている巾着袋を出すと、更にその袋の奥底から小さな瓢箪型の容器を取り出す。
――アテネだったら、コレでも行けるはず!
私はその小さな瓢箪に溜めてあった水を両目に目薬のように振りかけ、上を向いて瞳の上にその水が溜まったままの状態を作る。
これで息を止めれば、簡易的に「例の状態」が作れる。
ただ、簡易的であるが故に、非常に限定的な対象にしか使えないし、見える範囲もごく狭くなってしまう。その上、副作用的なものは通常運用した時よりもっと重い。
それでも、アテネと私の関係性なら「限定的な対象」としてイケるはずだし、今は非常事態だ、藁にもすがる思いで、やるしかない。
――お願い! 見えて! 繋がって! アテネ!
心の中で強くそう念じると、薄ぼんやりとした景色が網膜の上に現れて来た。
先程、光る君と紀伊の介を見た時よりももっと狭い、丸く切り取られたたような画像で、そこにジラジラとテレビの電波状況が悪い時のようなノイズが入る。画面も白黒だ。そして、見えるのは私が心に念じた対象本人が目で見ているものが見えるらしい。つまり、今はアテネが見ているものが私にも見えていることになる。
最初に見えたのは、何枚かの薄絹を重ねた小さな袖口。肩の辺りで切りそろえられた艶のある髪。小さな手と指先も見える。その小さな手にアテネは抱かれているらしい。
――髪型や手の大きさからして、女の童? 小さな女の子にアテネは今、抱っこされているの?
可愛らしく珍しい小動物に興味を持つのは、やはり年少者だ。紀伊の介邸を逃げ出したアテネは、道ばたで誰か行きずりの女の子に拾われてしまったの? そういうこと?
「二の姫、何をしているんだ、いきなり上を向いたまま黙り込んで。目に塵でも入って、その対処をしているのかと思えば、少し、長すぎる。それは何を意味する行為か?」
――うううう、師匠、ごめん、今、そんなこと言われても対応できない……。あ、アテネ、ちょっと待って! 私の息が続いているうちに、もうちょっと周囲を見てよ! 何か、今居る場所のヒントになるような……。ん? その石垣とそれに続く板塀と、大きな門……。あ……。
ここで、私に呼吸の限界が来た。そして体力的な限界も……。
「ひ、光る君、今、わたくしに婆珊婆演底主夜神の使い魔である猫神さまから、お告げがございました。愛猫あて君は、我が家三条邸の近くにおります。牛車止めのある門近くの石垣、そのあたりにいる女の童を探せとのお告げです。お願い、探し出して、それでアテネにはご褒美のお魚をあげて……! 師匠、後のこと、宜しくお願いします……!」
それだけなんとか言い切ると、私の意識は宵闇に溶けるようにゆっくり落ちていった。
辺りには、なんとなーく、マタタビ酒の匂いが漂っている気がした。
次回更新予定:明日朝8時頃 (基本、毎日更新です)
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