※【内容刷新工事中】第十六節 塗り籠めに籠められしもの
R15指定は、一応念のために設定。
(『源氏物語』を取り扱う関係上、恋愛・性愛関係描写が出てきてしまうため)
基本、ドタバタコメディー(時々シリアスあり)です。
※この小説はあくまでフィクションであり、登場する歴史的事件、人物、企業名、大学名などは実在する同名のものとは別存在であるとお考え下さい。
【2023年11月27日連載開始】
**********現在・工事中です**********
※作品内容向上のため、現在(24年3月7日~13日まで)、大鉈振るって改良工事を行っております。空蝉事件編があまりに長期化したため、この部分の縮小・短縮化を図ることで、物語全体として流れ良く読みやすく改良したいという意図です。
(空蝉事件開始のあたりから短縮・改良版に置き換える予定です。付随して宇治・讃岐編も縮小予定)
※その結果、ここまでリアタイで読んで下さった読者様には、ご不便をおかけ致しますことをお詫び申し上げます。ご不便内容の具体例としては、大鉈振るった結果、物語の流れが変わる部分や削られたエピソードが出てくる可能性がございます。また、感想をお寄せ下さった方には非常に申し訳ないことに、一話削るとその話に寄せられた感想部分まで削られてしまう可能性があり、その点も心よりお詫び申し上げます。(感想が削られない方向を模索してみますが、その場合、掲載話と感想部分がズレるなどの現象が起こるかもしれません。)
※工事期間は3月13日までを予定しており、14日より新バージョンでの連載再開を予定しております。
※24年3月7日まで公開されていたバージョンは「旧版」としてどこかに保管する予定ですが、その中で公開されているネタは、新バージョンでの展開にて再利用される場合がございます。
**********現在・工事中です**********
【以下、旧版です】
第十六節 塗り籠めに籠められしもの
「ええと、わたくしにも情況がよく分かりませんが、とりあえず、この人たちの縄を解いて、話を聞くのはどうでしょうか。……って、うん? この女人がた、衣装からして大陸の方?」
私は讃岐の田舎屋敷では「動きやすいから」という理由で、十二単を脱ぎ捨て、この宋服と呼ばれる大陸風の衣装を好んで着ていたので分かる。私は少し近づいて目を凝らし、彼女たちの衣装の子細を確認する。
「これ、割と最新流行式の服ですわね。それも結構いい品。じゃあ、この人たちって、結構上級クラスの家の子だったりするんじゃ?」
私がつらつらと述べた見立てに、光る君が閉じていた目をふいと開け、女達を睥睨する。
「……いや、上位の家の子女にしては纏足の様子がない。可能性としては……遊び女か」
纏足とは、高貴な家に生まれた女性が小さい頃から常にキツく小さい靴をはき続けることで足の成長を阻害し骨が曲がったような状態で小さな小さな足にしあげる風習のことだ。中国の上流家庭に古くからあるならわしだとは聞くけれど、それがこの時代(南宋時代?)にもあったかどうかは、私の中学時代止まりの世界史知識にはない。でも日清戦争の相手国である清国時代には確かにあって、一人では立つことが難しい(=召使いが全てやるので立つ必要がない)纏足女性の写真なんていうのも社会科資料集で見たことはある。
とにかく、光る君の師匠の見立てとしては、纏足の様子がないので生まれた時から上級の家に育った女性ではなく、それなのにあまりに良い服を着せられているから高級遊女の可能性が高い、と、そういう推論なわけだ。こんな風に縛られて閉じ込められている様子からして「人身売買」という疑いが即頭に浮かぶし、人身売買の対象として、遊女というのは、悲しいかな、最もあり得るケースだろう。
――いやーん、少年師匠が遊び女とかいう存在知ってるなんてショック! って、もういい加減、このネタ使い古したか? そろそろ、私も慣れなきゃね。少年は大人の階段登った、と。 あ、でも、そうだ、ここには本当にまだ「少年」な年齢の子もいるわけで!
「な、なるほど、その考え方は、ちょっとすぐには出てきませんでしたわね。でも、言われれば、なるほど、です」
私は、なるほどと言いながら、再度その話題を繰り返さないようにと小君少年を指さしてからその指を自分の口元に持って行ってシーッとやるブロックサインのようなものを光る君と野萩に繰り返し送った。
それが通じたのか通じなかったのか、光る君は口の中でブツブツと何かを言いながら、女たちの縄を解き始めた。
私もその縄解きに参加しようとしたら野萩に「姫様がなさることでは」と一度制された。ただ、これ、結構緊急場面だと思うし、そんな姫君らしさ問題には構っておられない。なので無視して縄に指をかける。野萩自身もふっと諦めたような溜息をつくと、手にしていた灯りを小君少年に渡し、私たちの縄解き作業に続いた。
「でも、困りましたわね、大陸の方となると、話を聞こうにも言葉が……」
私が最後の一人の猿ぐつわを解いてやりながらそう呟くと、その最後の一人が急に光る君に向かい、何か早口でまくし立て始めた。それに対して、光る君の師匠は、頷きを返したり、短く言葉を返したりしている。
どうやら、先程光る君が口の中でブツブツ言っていたように聞こえたのは、ブロックサイン了承の合図ではなく、大陸語で何かを彼女達に話しかけていたらしい。
――へえ、師匠、大陸語、出来るんだ。南宋語ってこと?
「……なるほど。この女たちは、つい最近、海賊に捕まり、ここに連れられてきたらしい。この館ではまだ半日くらいしか過ごしていないとも言っている。大陸側から貿易船でこちらに来るところまでは、彼女達の自由意志、つまり、我が国側で商売をしたかったらしいのだが、こちらに着いた途端、海賊に捕まり、船で何度も別の場所に移された、と言っている」
師匠がそう簡易的な通訳をしてくれた。どうやらブロックサインは通じていたらしく、遊女や遊び女という単語を繰り返さない配慮として「商売」なんていうちょっと迂遠な言い方を使っている(偉いぞ師匠、大人の階段はそういう方向に登るべきだ!)。
そんな中、野萩が、はっと息を呑み、質問して来た。
「あ、あの……、つまり、義兄が人買いをしている、ということになるのでしょうか」
「さて、それは紀伊の介本人を質してみないことには分からぬが。それに罪はそれだけではないかも知れぬ。……我に灯りを」
光る君は小君少年から灯りを受け取ると室内全体をぐるりと照らす。すると、壁際には何やら千両箱のようなものが積み上がっているのが見えてくる。
――ん? この箱の仕様ってもしや……?
私は、その箱にはすごーく見覚えがあった。私が讃岐の荘園で採用している統一規格の収納箱でまさに江戸時代の千両箱をイメージして作らせたものだ。
まあ、なんというか小さい頃やっていた「控えおろう遊び」の延長で、ちょっと作ってみたくなったのだ。水戸黄門といえば悪代官、悪代官には千両箱が必要だろうという発想の連関で、本当にジョークグッズとして最初数個だけ作らせてみたのだが、女房達が案外実用的に使えるというので、量産に切り替えた。
金具付きの桐の木箱は密封性がよく穀物や農産乾物などの保存に良いらしい。で、女房達の評判を聞いた讃岐の荘園の他の人たちが「自分たちも欲しい」と言い出して、作らせた大工と金物師を紹介したら、これが結構流行って、あの地域での標準規格の箱みたいになっていったのだ。
壁際にはその見覚えありまくりの箱が横4✕縦3の積み上げ方で置いてある。
光る君がその中の一つ床に移動させ、中を開ける。
中にはいくつもの麻袋が詰まっており、光る君は更にその袋の一つを手に取り開封する。
袋の中身はすこしザラリとした黄みがかった粉末だ。
光る君は、その粉末をほんの少し舐める。
「……砂糖か。かなり純度が高いな」
――ああ、やっぱり。
実は、私は、その麻袋を見た瞬間から、中身についてはほぼ分かっていた。だからこそ、舐めてもOKかな、と、静止の声も掛けずにおいたのだが。
「箱の中身は全部同じなのか? いや、こちらは麦か。……塩もあるな」
そう言って、光る君は箱を次々と検分していく。
――うわぁ。これ、全部、そうなのかー。やられたなー。
私には、この時点で、この件、だいたいもう何が起こったのか分かりかけていた。
そして光る君は、最後に同じ規格の箱の中で、一つだけ積み上がっているのではなく床置きされていたものを見つけ、その中身も確かめ始めた。
「こちらは、食物ではないな。全く違うものが入っている。……なんだ、髪箱なのか?」
「ひぃいいいいいい! ひ、光る君! そ、それ、ダメです!」
私は、それを見つけた途端、そう言って、急ぎバタンとその外箱を閉じた。
――なんで、これがここに!? いや、この情況から、なんとなくは想像付くんだけど……。でも、なんでよりによって、コレが出て来ちゃうの!!!!
新たな千両箱の中から出てきてしまったものは、私が讃岐の田舎屋敷の私室の奥底の方に隠してあったヤバイ品だった。香合わせの実技の副産物として偶然創り出してしまった例の爆弾っぽいもの。それを私は髪箱という本来は平安女性が寝るときにその長―いを髪をしまっておく箱に入れて封印しておいたのだ。それが今、目の前にある……。
髪箱の蓋表面に入れられた三つ葉葵の紋章(所謂、黄門様の印籠の紋)からして間違いない、「あの箱」だ。
「は!? 何をする! 危なかろう! 私なり其方なりが指を挟んだらどうするんだ。 下手をすると、指を失うぞ」
光る君はそう私を叱りながら、閉まった箱を反射動作的に再度開けた。
「……そうか、なるほど。其方が慌てる訳は少し見えるな。確かに、この髪箱にある紋章には、ひとかたならず見覚えがある気がする。この葵紋……」
「い、いやいやいやいや、それは気のせいですってば。そ、そうだ、師匠、彼女たちにもっと色々質問したりしてみてはどうですか。この壁際の箱が何なのか知ってるか、とか、あ、そうだ、あとはさっき探していた女の人のことだって、この人たちなら何か知ってるかも!」
私は光る君の言葉の最後に自分の言葉を被せる勢いで、急ぎ言葉をまくし立て、ごまかしを試みた。
「……その質問は既に二つとも尋ねた。両者に対し否定の回答も得ている。だが、そもそも、二の姫、君は何故私が人を探していると? それも女性を、と限定してもいたな」
「へ!? いや、だからそれは、さっき師匠とそこの少年が、中にその少年のお姉さんが閉じこもっちゃったと予想される情況で、そこの板戸バンバンやってたからであって……」
「……そこから、見られていたのか……」
私が事実を事実通り告げると、光る君は苦虫を潰したような非常に気まずそうな顔になった。まあ、順当に考えて、気まずい、わな……。所謂、妻に浮気現場押さえられそうになったみたいな状態なわけだからして(本当の意味では妻ではないけどね)。
今日、私が来ることは予告してあったのだから、実際は本当にそういう状態まではいかなかったかも知れないけれど、でも、あの必死で口説く様子から、やっぱり一目惚れ的に、結構タイプだったということだったんだろう、光る君にとってその「空蝉」の君にあたる女性が。
――その空蝉の君が、文字通りう忍法空蝉の術よろしく、本当に消えてしまったっぽく見えるのはちょっと不思議だけれど、でも、これは、よく考えれば分かる話な気がするし。現世でよく読んでたミステリ小説の密室トリックとか参考にすれば、たぶん、この情況って……。
「いや、その件はもういい。それよりも、今問題なのは、この大量の砂糖や塩、穀物と、この女達だろう。……あとは、二の姫の所有と思われるその髪箱か」
「い、いやいやいやいや、だからですね、なんでそういう風に決めつけるのか……。あはははははは」
私はそう言いながらも、さっとその木箱から髪箱を拾い上げ、急いで背の後ろに隠してみた。これでは明らかに自分のだと主張しているようなものだが、それでもつい身体がそう動く。
――いや、もう私のだってバレているみたいだから、せめて持ち帰るのだけはしないと!
光る君が胡乱げな目でこちらを睨み、私がその視線に敢えて気づかない振りをして、そっと何歩か後ずさった。
「二の姫、其方…」
後ずさった私に対し、光る君がそう言いながらにじり寄ってきた瞬間、どこかでピーッという警笛のような音がし、その直後に「火事だ~! 火の手が上がったぞ!」という人の声が上がった。
――え!? 火事!? この情況で更にトラブル追加なの!?
私がそう思ったのと同じように、周囲の人間も皆、え!?と顔を上げ、辺りを見渡している。
一番行動が早かったのは、光る君で、
「……間が悪すぎる展開だな。仕方ない。二の姫、君はこの場の者を連れ、先に避難しろ。そこの女たちも一緒にだ。すぐに検非違使が来るだろう。そうしたら、女たちを引き渡し、君と小君らはそのまま三条の屋敷へ。そちらで私の帰りを待て」
と指示を出すと、声の上がった方向へと走り出していった。
それに対し、野萩が「あの、私もお連れ下さい! 一応、この家の者です!」と追いすがって行く。
ここで私はある重大なことに気付いた
――アテネがいない!
黒猫のアテネは途中までは、私が確実に腕に抱いていたはずなのだが、一体どこで、はぐれたのか。
色々なことが起こりすぎて、途中でから自分の腕が空になっていることに気付いていなかった。
意識して猫を腕から下ろした記憶はないが、私が女性達の縄を解くなど自由にその手を使えていたということは、当然どこかで下ろしたのだ。
やはり、あの縄解きの直前?
でも、ならば、今、室内に居てもいいはずなのだが……。
「ねえ、あなた、小君といった? 猫を知らない? 光る君が連れて来た黒猫なんだけれど」
私は、急いで側にいた小君少年にそう尋ねた。
「あ、はい、私のことですね。あ、あの、それはその……お姉さん……二の姫様? が先程まで抱っこされてたでしょ?」
「それ! それを見てたなら、いつまで私が抱いてたか覚えてない?」
「えーと、だから、姉様がいると思ったこの部屋に入ったらお姉さんがいて、そしてあの女の人たちが縛られていて、お姉さんが腕から猫を下ろして縄を解いてあげて……」
「そう、そのはずなのよ。私もその後くらいからどこにいったのかが分からなくて!」
私が、そう小さく叫ぶと、なんとこの段になってやっと椿や楓たちがここまで辿り着いたらしく、
「ひ、姫様~! お探ししましたよ! こんな奥までいらしてたなんて……。そ、それに、大変なんですよ、火事が、火の手があがったって、さっきから大騒ぎで!」
「そうね。それは確かに一大事だわ。だから、お前たちはこの男の子とここにいる大陸出身の女人たちを連れて先に玄関まで行きなさい。女人方はその玄関のあたりで開放すれば検非違使が確保しにくるそうよ。この少年の方はあなたたちと一緒に三条に連れて行って、そうね、とりあえずはお母様預かりということでお願いしておいて。私は……、そう、光る君にまだご用事があるのよ。大丈夫、三条のお屋敷でお母様付きの野萩って女房覚えてる? あの子がこのお屋敷を案内してくれることになってるから、だから、とにかく、よろしくね! あ、あと、もし、道すがら猫を、私のあて君を見つけたら、あの子も家に連れ帰って!」
私は、そう椿に対し言い捨てると踵を返し、先程光る君が去っていったのと同じ方向へと駆け出した。
「はあ!? 何がどう、大丈夫だって言うんです、姫様!!! 案内って、火事なんですよ! 野萩ってなんであの娘がここで出てくるんです? それに、二の宮様だって、きっともうとっくに避難なさってるでしょうに!!! あ、 姫様! 本当にお待ちを~~!!!!」
次回更新予定:明日朝8時頃 (基本、毎日更新です)
1週間ほどお時間頂きましたが、連載再開致します。
一応、今回の空蝉事件について謎解きの部分まで書き溜め終えてから連載再開致しましたが、ミステリ調の部分は細かい摺り合わせが必要な部分でもあります。
もしかしたら、前にUPした話の細かい部分、後から変更しないとならないかも知れません。そうなった場合、何卒、お許しを。




