※【内容刷新工事中】第十三節 奥の手
R15指定は、一応念のために設定。
(『源氏物語』を取り扱う関係上、恋愛・性愛関係描写が出てきてしまうため)
基本、ドタバタコメディー(時々シリアスあり)です。
※この小説はあくまでフィクションであり、登場する歴史的事件、人物、企業名、大学名などは実在する同名のものとは別存在であるとお考え下さい。
【2023年11月27日連載開始】
**********現在・工事中です**********
※作品内容向上のため、現在(24年3月7日~13日まで)、大鉈振るって改良工事を行っております。空蝉事件編があまりに長期化したため、この部分の縮小・短縮化を図ることで、物語全体として流れ良く読みやすく改良したいという意図です。
(空蝉事件開始のあたりから短縮・改良版に置き換える予定です。付随して宇治・讃岐編も縮小予定)
※その結果、ここまでリアタイで読んで下さった読者様には、ご不便をおかけ致しますことをお詫び申し上げます。ご不便内容の具体例としては、大鉈振るった結果、物語の流れが変わる部分や削られたエピソードが出てくる可能性がございます。また、感想をお寄せ下さった方には非常に申し訳ないことに、一話削るとその話に寄せられた感想部分まで削られてしまう可能性があり、その点も心よりお詫び申し上げます。(感想が削られない方向を模索してみますが、その場合、掲載話と感想部分がズレるなどの現象が起こるかもしれません。)
※工事期間は3月13日までを予定しており、14日より新バージョンでの連載再開を予定しております。
※24年3月7日まで公開されていたバージョンは「旧版」としてどこかに保管する予定ですが、その中で公開されているネタは、新バージョンでの展開にて再利用される場合がございます。
**********現在・工事中です**********
【以下、旧版です】
第十三節 奥の手
私は、女房の一人に命じて部屋の隅にある角盥に水を張らせ、その後、人払いをした。
コレをやると、その後の数日間鳥目が酷くなるという副作用というかしっぺ返しのような状態に陥るので、あまりやらないことにしているのだが、背に腹は代えられない。
――明日は、夕方からお母さまがまた雅な催しをするというようなことを言ってた気がするから、そこで鳥目状態になるのは、本当はマズイのだけれど、でも、ええい、ままよ!
私は、心の中でそう唱えてから、角盥に張った水の中にガバッと自分の顔を突っ込んだ。
ブクブクと息を細く吐きながら、水の中でそっと目を開く。
最初のうちは、自分の吐いたブクブクした泡が一面に見えるだけだが、その泡が静まると、目の前にゆらゆらとした光が浮かび、それはやがて一つの情景へと像を結んで行く。
そこには少年師匠、もとい光る君がいる。あまり明るくない室内で、几帳ごしに誰かと会話をしている。几帳の向こうにいるのが紀伊の介か。
――あれ? このおじさん、確か、讃岐の荘園に下向した折に、何度か見たことがあるような……?
紀伊と讃岐は瀬戸内海を抜ける海運ルートで結ばれていて、人や物の交流がある。前年まで紀伊の国の役人だったというのだから、たぶん、そういった関係でうちの讃岐の庄の田舎屋敷にも来ていたのだろう。多少なりと面識のある人間ならば、こちらもやりやすいので、これは事前に発見しておいて良かったと思う。
目が慣れて来ると、二人はどうやら庭に面した室内に居て、庭側では何人かの少年が蹴鞠をして遊んでいるらしいことが分かった。
――そういえば、師匠って蹴鞠ってやるのかな? 割とインドア派だと思ってたけど、どうなんだろう? いや、ウチには既に一人不必要なくらいアウトドア派(=三兄)がいるからいいんだけどさ。でも、二の兄上とかでも蹴鞠やるんだよね、平安貴族の嗜みとしてね。
音こそ聞こえて来ないものの、ぽーん、ぽーんという擬音をつけたくなるほど小気味よく蹴鞠の鞠は高く蹴り上げてられ、時に光る君たちのいる軒端へ転がって行き、それをその少年たちの中でも比較的身体の大きい子が代表して取りに来る。
そこで、光る君が何かに驚いたという風に目を見張り、それに対し紀伊の介が何かをしたり顔で説明しているシーンのあたりで限界が訪れ、私はまたガバッと水の中から顔を離した。
本当にギリギリの限界まで粘ったので、酸欠に近い状態だ。はあ、はあ、と肩で息をする。
――ああ、でも、目視確認したいことはちゃんと確認出来た、良かった! 私の秘密兵器、まだちゃんと「いる」!
そう、私は、こんな風に水の中に頭を突っ込むことにより、少し「遠目」が利くようになるのだ。最初に気付いたのは、まだ宇治時代で、近所の池で水遊びをしている時。水の中で自分の吐いた息の泡が切れた向こう側に、突然お母さまの顔が見えたことがきっかけだ。その時はちょうど母から贈り物が届いた直後だったので、「久しぶりにお会いしたいな」という思慕の念が強まっていたのだと思う。その時より、私は水の中で強く念じると、自分の知っている人物が今何をしているのか、少しだけ垣間見ることが出来るようになったのだ。
時間制限は、水の中で私の息の続く限り。そして自分に近しい人ほど「見える」成功率があがる。但し、一回やってしまうとその後一か月ほど夜目がより一層利かなくなるというデメリットもある。
この能力、田舎暮らしをしながら離れたところに住む家族の近況を知るのには結構役立った。ただ、一度、お父様の私生活を覗いてしまって、激しく後悔してからは、倫理的にも軽々しく使うべきではないな、と悟ったのだけれどね。……ええ、お父様、愛人の方とご一緒でしたし。しかも、そのお相手の方……男性だったりしたものですから!(平安時代は、案外多いって聞いてたけど、よもや自分の父親もかーーー!)
この私の特殊技能は、家族の中でも、母と長兄しか知らない。母曰く、「それはたぶん私から引き継いだ皇族の血ね」とのこと。今の皇族の始祖は天照大御神であり、その神様の血を受け継いだ皇族の子女の中には不思議な力を授かる者が時々出るのだという。近いところでは、母の姉君がそういう人であったとも教えてくれた。古くは壬申の乱の折、皇后鸕野讚良は自分の夫である大海人皇子が本来皇位を受け継ぐはずだった大友皇子のもとへ攻め入る際、「昨晩、天照大神より出陣せよとのご神託がありました」と自分の夢見を告げ、自らと夫の軍の正当性の裏付けとしたと言う。
――この鸕野の皇后陛下の事例を引用して、私もこれまで色々な神様からのご神託を捏造してましたけどね。だって、うるさがたの女房を説得するにはそれしかない場合が多いんだもん!(毎回、天照大神様じゃ能がないから、色々な神様の名前調べ、適宜バリエーションあるように工夫して)
ただね、この件、皇族の血云々っていうより、私が生まれ変わりであるってことから来る突然変異的な能力なんじゃないの、という気もしている。いや、今となっては生まれ変わり問題よりも、「物語」の中だからと言った方が良いのかも知れない。だって、今後、物語通りに進むのなら、生霊という形で自分の身体から幽体離脱をやってのける人も登場するのだ。
――いや、もう既に伝聞形では登場してるよね、六条様って! それに、私も亡霊系はちょっと心当たりあるんだよね。宇治時代に、お爺さんの幽霊を見たことがあるし、あー、あと、讃岐時代のアレも、結局、超人エスパー系だったのかなぁ? あっちはお婆さんだったけれど……。
とにかく、現代風に言うならそういうエスパー系能力、あるいはホラー系の能力のようなものが、この世界にはあるということなのだろう。自分自身のことを含め、そう解釈することで、今のところは納得している。
***
さて、そうこうしているうちに、長兄からやっと返事が届いた。
ただ、中を開いて、落胆した。ほぼ意味のない返し文だったからだ。
『お前、また藪から棒に何を言ってくるかと思えば、今回ばかりは、本気で何を何のために聞いてるのか全く分からん。今から家に帰る。帰ってから詳しく話を聞いてやる。だから、先走らず、大人しくしていろ』
って、そんな、兄の帰宅を待っていたら、夜中になってしまう。それでは遅いのだ!
こんなことなら、文の返事なぞ待たずに、外出準備もそこそこに光る君と同じ車に無理やり乗ってしまえば良かった。一応、保険のつもりで光る君の元にはあるものを残しては来たけれど、それだって上手く役に立ってくれるのか保証の限りではない。
逸る心を押えながら、車寄せにて出立準備を急がせていると、ちょうどそこに入れ替わりになる形で、仕事帰りの兄の車がやって来た。
「はあ? お前、こんな時間からどこかに出かけるつもりなのか? 昨今、物騒な噂も多い、女の一人歩きなぞもっての外だろうが!」
帰宅するなり兄からはそういう怒号が下されたが、そんなものには構っておられない。
「だから、一人じゃありません! 光る君と、夫と一緒なのですよ! それなら何も問題ないでしょ! お母さまの許可も取り付けてありますし」
「はあ? お袋様も、そんなこと簡単に許すなよ……! それに、シゲ坊だ? って、いないじゃないか。確かにあいつ今日は早番で先に退出したはずではあるんだが……」
「だから、あの人は方違えで先に先方へ向かわれていて、私が後から追いかけることになってるんです! それより、兄様、文にも書きましたが、最近、兄様と師匠、宮中での宿直当番が一緒だった日ってございましたか? そして、その日の天気は雨でしたか? 最近と言いましても、数日前から、場合によっては半年、一年くらい前までと、期間に幅があるのですが!」
「ああ、その件か……って、お前さ、本当に文の書き方といい、物の聞き方というものがなってない! あれでは意味が分からん! そして、今も意味が分からん!」
「兄様に意味が分かるかどうかは、この際関係ないのです! 文にも書きました通り、私の問い合わせ事項は『雨の晩に宿直が一緒だったかどうか』と『その時、男同士の話をしたかどうか』の二つです! さあ、キリキリ答えて貰いましょうか、兄上様!」
「だから、その男同士の話というのが分からん! 男同士……、ん? あれのこと、か……?」
「うわぁ、やっぱり、したんだ、そういう話! サイテー! 不潔! しばらく、兄様とは口利きたくありません! じゃ、そういうことで、失礼しますわ! 夫が出先で待っておりますので」
「って、おい、だから、女の一人歩きは危険だと言ってるだろうが! 方違えだ? あいつも律儀にそんなの守ってないで、このはねっかえりから目を離すなと言いたいが……。仕方ないな、送って行ってやるから、ちょっと待ってろ、今、もう一度牛飼いに車の準備をさせる」
そう言って、兄は本当に紀伊の介の屋敷まで送ってくれたのだった。
***
私が用意させた網代車は既に椿と楓ほか数人の女房で一杯だったので、兄様が通勤に使ったもう一つの牛車に私と兄が乗りという二台に分乗する。
道中、兄からは延々と何かについてお説教を食らっていた気はするが、私の頭には一切入って来なかった。
ここのところ、兄が色々と忙しく、今回下向していた讃岐での話など含め、話せていない案件がかなりあった。本来であればそうした話し合いの席として好機だったのだが、今日ばかりは私の側にそんな余裕はない。
「だから、そもそもお前は、言葉が足りてないんだよ。その上で、かつ自分の考え方そのものが常人のそれとはかけ離れているんだってことに、もっと自覚をもってだな……」
狭い牛車の中、長兄のお小言が延々と続いていた。
但し、私はそんなものを気にしている余裕はない。
――ええい、もう、五月蠅いな、! そもそも、兄様+その取り巻きの悪友たちが、あることないこと師匠に吹き込むのが悪いんですからね!
『源氏物語』には、割と最初の方の段に「雨夜の品定め」と呼ばれるエピソードがあり、これがとある雨の夜、宮中での宿直当番が被った男ども(光る君+うちの馬鹿長兄+その悪友)が集まって自分の恋愛経験談(恐らく猥談付き)を自慢し合うみたいな会で、その中で「中流の女が結構イイ」って話が誰かから披露され、その結果、光る君は中流女性に興味を持つ、という流れなのだ。(そして、その中流の女に興味を持った結果、空蝉事件→夕顔事件→葵の上事件ですからね!)。
――だから、私、兄様にしつこく「そこ」を確認していたわけですよ! 「雨の夜に宮中の宿直が被ったことがあったか」「そこで男同士の話をしたか」ってね!
さて、とにかく私は、この移動時間のうちに、『源氏物語』の原作において、紀伊の介の館で起こることを可能な限り詳細に思い出さねばならない。
「傾向と対策」を練れないまま、いきなりぶっつけ本番がやってきたという感じだが、こうなったらとにかく、私がどうにかするしかないのだから。
次回更新予定:明日朝8時頃 (基本、毎日更新です)




