第7話
放課後に財前に渡された住所へ行くと、普通の住宅街の中になんてことのない一軒家がそこにあった。
とりあえずインターホンを鳴らす。少しすると、機械越しから少女の声が聞こえてきた。
「はい。どちら様でしょうか」
財前は居留守を使われるかもしれないと言っていたし、俺自身、不登校の克服者の時点で塞ぎ込んだ性格だと思っていたため少し面食らってしまった。
「えーと。同じクラスの赤場ってもんなんだが、先生からプリントを──」
「帰って下さい」
インターホンを切られた。前言撤回。予想通りの展開だった。
「だよな」
俺はもう1度インターホンを鳴らす。出ない。当たり前か。
「おーい。聞こえるかー。俺だってこんなことしたくないんだけど断れなくてさー。本当にプリント渡すだけだから」
少し声を張る。克服者は身体能力が高いからもしかすると声が届くかもしれないと思ったからだ。我ながら間抜けっぽいがまだ強硬手段に出たくない。
するとまたインターホンから声が聞こえた。
「そこのポストに入れておいて下さい」
「手渡ししろって言われてるんだ」
「私は誰とも会いたくありません」
インターホンを切られる。
「ん゛ん゛。あ゛ーあ゛ー。すいませーん回覧板でーす」
「あっ、はーい。今出まーす」
「……すまん。俺だ」
「……帰って下さい」
罪悪感がすごくて謝ってしまった。どうやらドア越しの少女は素直な性格のようだ。
「なあ。別に学校来いよみたいな説教しに来た訳じゃないんだよ。ちゃんと食べてるか見てこいって言われてるだけでさ」
「健康面なら大丈夫です。1番気を使ってますから」
「言葉だけじゃ信用できねーよ。克服者は無自覚のうちに無茶してるケースだってあるんだぞ」
「私はもう誰も傷つけたくないんです!」
どうやら少女は相当なトラウマを持っているらしい。phaseも高いかもしれない。
こんなことなら罪悪感に負けずに回覧板を届けに来た人のフリをし続ければよかった。
仕方ない。全部財前のせいにしよう。
「なあ。財前先生って知ってるかー? うちのクラスの担任なんだけど、随分な先生でどんな手を使ってでも手渡ししろぐへへー。って言っててな」
「そ、そんな気持ち悪い先生がクラスの担任なんですか……じゃあ貴方はそれに釣られてやって来たんですね」
巻き添えを喰らってしまった。財前、後で殴る。
「まあ、そういう訳で」
「え?」
「お邪魔しまーす」
俺は彼女の家の扉を開けた。
パンデミックを生き抜いてきたんだ。拠点を作るためにピッキングなんていくらでもやってきた。これくらい普通だ。今やったら間違いなく犯罪だがその罪は財前に被ってもらおう。
「ほい。プリントを──」
彼女の顔を見た瞬間。俺は今朝のことを思い出した。
……………………
「無人島に何か1つだけ持っていくなら何がいい?」
「私はね──」
……………………
だって、そこにいた少女はあいつに……。
今は亡き相坂志保の姉。相坂果穂にそっくりだったから。