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終わりの終わりの後の世界  作者: ぷいぷい
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第4話

 浮世離れしている。

 アイという少女を一言で言えばそんな人物だった。

 こと日本において、それだけ彼女の長く伸びた銀髪は異質で、精巧に造られた西洋の人形を見ているようであった。しかし、それはあくまで第一印象の話である。


「やあやあ、赤場(あかば)くん奇遇だね。君も一条(いちじょう)くんに用があるのかい?」


 ごりごりの日本語で妖麗な見た目とは似つかわしくない胡散臭い詐欺師のような話し方。本当にひどい詐欺にあった気分になる。


「一条?」

「違うのかい? さっきまで夫婦漫才のように楽しそうにしてたじゃないか」

「ああ、昭和リーゼントくんのことか」

「だから昭和リーゼントじゃねえ!」


 アイの登場で蚊帳の外になっていた昭和リーゼントくん改め一条と呼ばれる男は地団駄を踏んで怒りを表している。

 地団駄って本当にやる奴いるんだな。


「用がないなら私が先でも構わないかな? 彼と話したいことがあるんだ」

「それは別に構わないが」

「悪いね。ほら、今の一条くん大分気が立ってるようだし、穏便に行きたいからさ」


 アイは一条の前へ出る。


「一条くん。君はphase1の克服者で、政治家の一条渉(いちじょうわたる)氏のご子息である一条翔(いちじょうかける)くんで間違いないね?」

「それがどうした?」

「いやね、こんな見た目で何言ってんだと思われるかもしれないが、私はみんなの憧れの公務員さんなんだ。ああ、公務員といってもこの制服のとおりここの学校の生徒で間違いないぜ。中等部だから君とは面識はないかもしれないが……男の子ってやつはこう二面性のある女の子が好きなんだろ? 前に本で読んだぜ。それなのに申し訳ないね。今の私は少し煙たいかもしれない。私自身に匂いがつくことはないだろうが、制服はどうしようもなくてね。まったく……匂いが残らないことを祈るばかりだよ」


 本当にこいつ詐欺師なんじゃないか?

 そんな目で一条がアイを見だした。全くの同意だがこのままじゃ埒が明かない。


「要はあれだろ。政治家の息子に悪い噂がたってるからその調査みたいなやつだろ?」

「そうそれだ! それが言いたかったんだ。全く私というやつは物事を難しくしたがる。悪い癖だよ」


 それが言いたかったなら本当にさっきの話いらねえな。


「で、どうなんだい一条くん。君は──」

「どうなんだ一条」


 アイの言葉を遮った。また始まると思ったからだ。


「お? おう……ああ、そうだ。確かに俺はこの力と権力で好き勝手やってる。それがどうした? それの何が悪い!?」


 最初こそ面食らっていたようだが、なんとか自分のペースを取り戻したようだ。

 もしかするとアイの造られた話し方に子供の遊びと思ったのかもしれない。それが功を奏してか、一条は馬鹿正直にイエスと答えた。


「そうか……残念だよ。渉氏は克服者の息子がいることもあって、世間からも注目の政治家だったのに」


 それだけ言うとアイは携帯を取り出して誰かに電話をかけ始めた。

 多分要件はすぐ終わったのだろう。アイが世間話をしたところであちらから電話が切られたのが分かった。


「さて、一条くん。多分君の携帯にもすぐ電話がかかってくると思うぜ。もし電源をオフにしているなら付けることをオススメするよ」

「あ?」


 一条が不思議そうな顔をしているとそのポケットから着信音が鳴り出した。

 不気味に思った一条は少し戸惑っている様子だったが、程なくして電話に出ると、電話越しに俺からでも聞こえる怨嗟の声が響いた。


『翔ぅ……なんてことしてくれたんだ……お前のせいで私は……私は……』

「ど、どうしたんだよ親父」


 おおかた予想はついたが、どうやら電話の主は一条の親父さん。政治家の一条渉さんのようだった。


「渉氏は息子が克服者ということで人と克服者の架け橋になる人物と言われてたからね。それなのに息子の不祥事を黙認していた。これは世間が許さない。簡単に言うと懲戒免職というやつだよ」

「……は? は?は?は!? 何いってるか全然分からねえ!?」

「そのままの意味だぜ? 渉氏は政治家を辞職してこれから腐敗地域の清掃員として頑張ってもらう予定だ。ああ、君はまだ未成年だからね。それにこの学校は学費免除だし心配はないと思うよ。まあ、SNSで特定されてるだろうし卒業後は苦労するかもしれないけれど。まったく、今どきのネットというやつは怖いものだぜ」


 一条は茫然自失と言ったところで、さっきとは打って変わって血の気が引いた顔つきをして足をふらつかせている。


「なんなんだよ……なんなんだよお前は……ッ!」


 次の瞬間、逆上した一条がアイに向けて拳を振り下ろしていた。往生際が悪いが、アイは「穏便に行きたい」と言っていた。このくらい予想していただろう。

 「ゴンッ!」と鈍い音が辺りにこだまする。


「……おいおい。おいおいおい。君は逆上したらこんな年端もいかない少女にも暴力を振るうのかい? もし私が普通の女の子だったら君は人殺しだぞ。phase1とはいえ克服者なんだ。自覚を持てよ」

「な、なんで……」


 あれだけ自分の力を過信していたんだ。そんな反応も頷けるが、あまりに相手が悪い。

 アイは警察のマスコットであるワンコーくんその人であり。

 混乱期には国を1つ地図から消したphase5の克服者なのだから。

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