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終わりの終わりの後の世界  作者: ぷいぷい
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第1話

 人間は月曜の朝が来るとやれ学校だったり、仕事だったりの始まりを感じで憂鬱になるものだ。

 俺、赤場栗栖(あかばくりす)もその内の1人だったようで、もう4年も前のことを思い出して感傷的になった自身は教室に着く頃にはもう存在せず。教師のつまらない授業と黒板に書かれた意味のわからない表や数式をとりあえずノートに書き写していた。

 ああ、素晴らしきかな普通の学園生活。


 俺の通う学園は1年前に出来たばかりの新学校だ。試験校ということで学費免除に施設も充実している。文句があるなら1つだけ。


「それでは、道徳の授業を始めます」


 道徳の授業が異様に多いのだ。


「皆さんも知っての通り4年前。日本では都市部を中心に爆発的なパンデミックが起きました。それによりZ型精神疾患を患った国民が爆発的に増加しました」


 「精神疾患」とオブラートに包んでいるが、要は理性のない亡者「ゾンビ」が街を蔓延るようになった。


「しかし、3年の時を経てようやく収束し、精神疾患を治す特効薬も作られました。今では世界中のどこにもZ型精神疾患を患っている人はいません」


「しかし、『元Z型精神疾患』の方は未だ後遺症に悩まされています。今日はphase2の克服者の方に来てもらいました。貴重な話なのでよく聞くように」


 教師が教室の外の方へ呼びかけると、80は超えているであろう老体の男性が教室へ入ってきた。


「皆さんこんにちは。私は今年で86歳になります。4年前までは子と孫の家族も合わせて大所帯で暮らしていました……」


 ……ああ、ダメだ。どんどんご老人の声が震えていく。自分の傷口を抉るようなことをするからだ。


「しかし、今は私1人で暮らしています。……私が……私が家族を殺したからです」


 元ゾンビだった人間は特効薬のおかげで理性を取り戻した。しかし、ゾンビだった全員が当時の記憶を鮮明に覚えているらしい。体験談を聞くと自分の体を誰かに乗っ取られて制御できない感覚のようだ。

 親、子、恋人。大切な人の命を自ら奪った人も多い。そのため特効薬が作られた当時は罪の重さに耐えられず自殺する人も多かった。

 中には遺族が裁判を起こしたケースもある。

 しかし、裁判では一律で「精神疾患によるもののため責任は負わないものとする」とメディアが報道すると「精神疾患」というワードは世間で爆発的に広まった。教師が「精神疾患」と言い換えるのはそのためである。


「私は後遺症で他の人より力が強いです。4年前ならオリンピックでメダルを総なめ出来るほどです」


 特効薬により人間に戻った者「克服者」はゾンビだった頃の凶暴性によりphase1〜5に分けられ、高ければ高いほど人智を超えた力を持つとされている。これが「後遺症」と言われるものだ。


「力の加減を間違えて普段使っていた箸を折る度、入れ歯を砕く度。思い出してしまうのです。妻の首を折ったことを……、孫の頭蓋を砕いたことを……」


 ゾンビだった頃の記憶が鮮明であり、力も変わらない。自分は人間に戻ったのか、まだゾンビのままなのか、克服者はその二律背反に悩まされている。まるで法で裁くことの出来ない罪を忘れない様に。

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