プロローグ
「無人島に何か1つだけ持っていくなら何がいい?」
「いきなりどうした?」
夜の見張りの時に偶然当番が被ったあいつとそんな話をした。
「ただの雑談だよ。今日はゾンビ達もこなさそうだし、たまにはこんな間抜けな話をしてもいいんじゃない?」
「あまり気を抜くなよ」
「分かってるよ」
そう言ってあいつは自慢気に拳銃を構えて見せた。カッコつけるのはいいが遊びの道具じゃないんだからもうちょっと危機感を持って欲しい。
「で、何を持っていく?」
「拳銃」
「そっか。まあ、君ならそうだよね」
「俺だけに限ったことじゃないだろ、こんな世界だ。今の質問をここにいる奴らにしてみろ。みんなそう答える筈だ」
「かもね」
あいつは少し俯いて持っていた拳銃を優しく撫で始めた。
「こんな世界になっちゃったし。万が一この状況が終わっても拳銃は日常の一部になって頼れる存在になっちゃうんだろうね。気持ち悪いことこの上ないね」
「そういうお前はどうなんだ?」
「私はね──」
………………
あいつがそう答えたのを今でも覚えている。
本当にしょうもないと思ったし、あいつらしいとも思った。
窓の外を見る。腐敗した空気も歩く死体もない。歩いているのは元気そうな子供とそれに引っ張られている母親だった。綺麗な日常がそこにはあった。
しかし、あんなことを思い出したからだろう。俺は頭を抱える。
「……きっとここが無人島なんだろうな。何が拳銃だよ。持ってこれたのは後悔だけだ」