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時間屋。  作者: さなぎ
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第二章 第六話 「違和感」

「……い! ……土! 御土!」


自分を必死に呼ぶ声がする。

重い瞼をゆっくりと開けると、目の前には見慣れた幼馴染み、瞬也の顔。


「御土! よかったー、やっと気付いた!」


そう言うと瞬也はへなへなと座り込んだ。


「…………んあ?」


「変な声出してんじゃねーよ! どうしたんだ!? 大丈夫かよ!?」


事態が飲み込めずそう声を出すと、瞬也は急に立ち上がってもの凄い剣幕でそう言った。


「お前こそそんな慌ててどうしたんだよ……」


やや押され気味にそう言うと瞬也はまたもや早口で、


「お前がいつまでたっても起きないから心配してたんだろ! あーもう、刹那なんか先生呼びに行っちまったよ!」


と言ってきた。


「……は? お前何言って……。俺はさっきまでずっと…………?」


辺りはもう夕陽が沈みかけていて、教室はその紅い光で包まれている。

自分はというとそんな放課後の教室で席に着いていた。

目の前には何故か自分を心配する幼馴染みの顔。


(……あれ? 何してたんだっけ、俺)


「なあ、本当に大丈夫か?」


(えっと、確かテストが…………?)


「そーだテスト! やべーよ早く家帰んないと!」


「は? 御土何言ってんだ?」


自分が慌てて鞄に教科書を積めるべくロッカーへ歩いていこうと席を立つと、瞬也は心底驚いたような顔でそう言ってきた。


「まさかお前、テスト勉強する、とか言うんじゃないよな?」


そして不思議そうな顔でそう訊いてくる。


「いや、そのつもりだけど?」


「は? お前本当にどうしちゃったんだよ?」


「どうしたって、何が?」


「何が?じゃねーだろ! だってお前、さっき自分で言ってたじゃねーか」


自分が一体何を言ったというのだろうか。


「『今回のテストはノー勉で挑む』ってさ」


「…………は?」


「まあお前がテストギリギリまで勉強しないのはいつもだけどさ、今回は『自分の実力を確かめる!』とか言って全く勉強しないってさっき言ってたばっかだろ?」


「は? 馬鹿かお前。俺が全く勉強しなかったら追試受けることに…………ん?」


「おーい、御土? 本当にどっかおかしいんじゃねーの?」


「いや、だって俺、追試、追試を……?」


「追試? いや、お前勉強しないくせに勘がいいから追試は受けたことねーと思うけど?」


(あれ? でも……? いや、追試は受けたことない、か……?)


確かに、自分が赤点をとったような記憶がない。

が、何か違和感があった。


「なあ、今刹那が先生呼びに行ってるからさ、今日は先生に送ってもらった方がいいんじゃね?」


瞬也は心底心配なようで、眉をハの字にさせてそう提案してくる。

その顔を見て、先程までの記憶が蘇ってきた。






































今から遡ること4時間程前の出来事である。


「あー、もうテストかよ。はっええなあ。いつもこの時期になるとうちの母さん勉強しろ勉強しろ煩いんだよ」


そう言って瞬也は先程購買で買ったパンの袋を開けた。

今日は半日授業のため本当はもう授業自体はないのだが、自分達三人はいつものように屋上で昼食をとっていた。


「そうなの? 僕の家はそんなに変わんないけど……」


刹那は家から持ってきた弁当を広げている。

ちなみに御土の昼食は瞬也と同じで購買で買ったもの。


「そりゃ刹那は成績いいからだって! 一応これでも勉強してんのにテスト全然分っかんねえんだもん」


そう言って瞬也は袋から出したクリームパンに半ばやけくそに食いつく。


「そんなことないよ! 僕、体育からっきし駄目だし……」


刹那は自分で言ったことに自分で落ち込んだようで、下を向いてしまった。


「それとこれとは関係ねーよ。あ、そーだ刹那! 勉強教えてくれよ! 刹那が教えてくれれば百人力だよ! な、いいだろ刹那!」


だがそれに対し瞬也はあっけらかんと笑い飛ばした。

こういうとき瞬也の単純でまっすぐな性格はいいんだよなあ、と御土はしみじみと思った。


「え、うん、僕が先生なんかでいいなら」


先程落ち込みはしたものの自分が頼られたことが嬉しかったのか、刹那は顔をあげてそう答えた。


「おっしゃこれで地獄から抜け出せた! な、御土も一緒に刹那に教えてもらおうぜ!」


「いや、俺はいい」


やっと蚊帳の外だった御土にも会話が回ってきた。


「何でだよ余裕だな。御土、赤点はとらないけどギリギリだろ? 一緒にやろーぜ勉強!」


「俺は今回のテストはノー勉で挑む」


御土が何故か自身満々といった態度でそう言うと、瞬也は御土の言ってることが信じられないのと心配なのとで眉尻を下げて一言、


「……は?」


と言った。


「だってどーせ勉強しても分かんないだろ? だったら勉強しようがしまいが一緒だ! ま、自分の本当の実力を確かめるってことだ」


一方御土の方はといえば一体どこからそんな自信が出てくるのか、はっきりとそう言い切った。


「まあ一理ある気もするけどさあ、流石にそれはヤバいんじゃね?」


御土の言い分が分かったのか先程の表情は消えたが、その代わり呆れを含んだ声が口から漏れる。

普段ならこの声がした後、御土の素晴らしく激しい本人曰くツッコミが入るのだが、今日は機嫌が良いらしくそうはならなかった。


「いや、何を言われようが俺は自分の実力を確かめる!」


「まあ、御土がそれでいいってならそれでいいけどさ。まあ頑張れ! 俺は刹那に一週間付きっきりで勉強教えてもらうから! トップとっちゃうから!」


「え、僕一週間付きっきりとは言ってな……」


刹那の抵抗は次の瞬也の言葉で言い終わらないうちに虚しく掻き消された。


「そーと決まれば早速今日から勉強会だ! わー、俺人ん家泊まんの初めてだ! なあなあ、刹那ん家の晩御飯って美味い?」


「いや、僕泊めるとも言ってな……」


御土は刹那が段々と可哀想に思えてきた。


「美味いだろーなあ。刹那ん家って金持ちっぽいからフレンチとかだったり! あーもう超楽しみ!」


刹那は瞬也の脳内で勝手に展開されていく勉強会に一抹の不安を覚えた。

そんな刹那に対して可哀想だと思いつつも御土は一言だけ、


「刹那、…………どんまい」


と言った。


「…………うん」


自分の親友達は少し酷いとこがあるよなあ、と思いながら刹那は再び弁当に箸を伸ばした。










































「あー、なんか思い出した……」


「お、やっと思い出したか!? 御土ー、自分の発言には責任持てよなあ」

御土は4時間程前の自分の発言と哀れな刹那の姿を思い返した。


「なんか段々馬鹿らしくなってきたな……」


先程までの危機感はどこへ行ったのか。

御土は徐々に4時間程前の根源の分からない自信にみなぎった自分へと変貌していた。


「まあ思い出せたのはいいけどさ、一応先生に送ってもらえよ! 倒れられでもしたら堪んねえかんな!」


そう言うと瞬也は荷物を持って教室の出口へと向かっていった。


「送っていきたいのは山々だけど、俺今日の勉強会の準備しなきゃなんねえから先帰るわ! じゃあな!」


そして嬉しそうな笑みを向けると、さっさと教室を出ていってしまった。

どうやら今は御土のことよりも刹那との勉強会のことで頭がいっぱいなようだ。


(……心配なんじゃなかったのか? 薄情なやつだな……)


御土の中で自分のイメージが下がっているとは露知らず、瞬也は軽い足取りで廊下を歩いていった。




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