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時間屋。  作者: さなぎ
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時間屋。編 第一章 第一話 「屋敷」

些細な好奇心とちっぽけな欲望が原因で平凡な男子高校生が奇妙で不思議な店へと足を踏み入れます。おそらくファンタジー。

毎年行われるほとんどの生徒が忌み嫌うイベント。

普段通りの生活が許されず、「生徒」ならば誰もが鉛筆を片手に闘わなければならないあの期間。


テスト。


唯一の救いといったら早く家に帰れることぐらいだろうか。


そのテスト最終日。

一人の男子高校生が目の下に隈を浮かべながら、陰鬱とした曇り空の下、帰路についていた。


「は――――……」


深い溜息を漏らしながら、その手は何やら一枚の紙を握っている。


「何でこんなに早く返ってくるんだよ……」


その紙にはこの高校生が書いたであろう鉛筆の文字と、赤ペンで丸やらバツやらが書かれていた。

要するにテスト用紙である。

つまり、彼もその「生徒」というわけなのだ。

そして、当然の如くその紙の右下には赤く数字が刻まれているのだった。

その数字はお世辞にも高いとは言えないもので、その上、左横には「追試」の文字が刻まれていた。


「折角この苦しみから解放されると思ったのに……」


本来ならばそのイベントを乗り越えてしまえば、暫くの間はもう苦しむ必要などないというのに、

彼は再びそれに立ち向かわなければならないらしい。

何故こんなことになってしまったのかは、彼の目の下に刻まれる隈がその理由を物語っていた。

これから再び待ち受けるその試練のことを思うと、自然と気が滅入ってくるのだろう。

こうなったのは自業自得であるのだが、やはり嫌なものは嫌なようで、先にも増して負のオーラを漂わせながらトボトボと歩を進めている。

滅入ってくる気持ちを正に表現するように、より一層深い溜息をついた、その時だった。


「……っ!」


突如、彼の背中に寒気が走る。

辺りは何ら変わっていない。

だが、彼は何か違和感を感じていた。


「え?」


ふと、顔をあげると目の前には古びた屋敷が重く佇んでいた。


(こんなところに屋敷なんて建ってたっけか?)


ここは彼の通学路である。

それなのに突如感じたこの違和感。

その原因はきっとこの屋敷なのだろう。

たった今もこの道を歩いていたというのに、目に入らなかったのだから違和感があるのも当然だ。

不思議に思ったのか、その屋敷に歩み寄ってよく見ると、そこには一つの看板が掛かっていた。


「時間、屋……?」


そこには大きな文字でこう書かれていたのである。



【時間屋―お望みの時間を創ります―】



「何だこれ?時間を、創る……?」


怪訝そうに看板と屋敷とを見ていた彼だったが、突然、何かを閃いたように顔をあげるとその門を跨いでいった。









































「おや?」


まだ昼過ぎだというのに真っ暗な部屋の中から、嗄れた声が響いた。


「久々のお客さんだ……」


その暗闇の中の声が、音もなく、笑った。










































「結構でかいな……」


門から入ってすぐ高い塀で見えなかった部分が露になり、この屋敷が外から見たのとは全然違うことが分かる。

手入れされることなく自然のままに伸びた植物が、本来ならば屋敷へと客人をいざなっていたであろう煉瓦造りの道を侵食している。そのせいか、伸び放題だったため住処が増えた虫たちが所構わず這いまわっている。

更に、屋敷へと続く道の中央辺りにある噴水も今やその面影なく、水がとめられ、噴水のなかに溜まった雨水は濁り、鼻につく臭いを漂わせていた。


「本当にやってんのか?」


屋敷の扉の前にやっとのことで辿りついても、やはりその扉は人が使った形跡はなく、そこら中に蜘蛛の巣が張られていた。

一瞬、やはり戻ろうかと彼は思ったが、意を決したのか、彼は今ではあまり見かけることのないノッカーに手をかけ、そっと二回鳴らした。


「…………」


何も反応がない。

それを怪訝に思ったのか、彼はもう一度、今度は先程よりも強く扉をノックした。


「…………」


やはり何も反応がない。


「やっぱ、誰もいないか……」


そう呟いて門へと歩きだした、その時だった。



「何か御用ですか?」



凛とした声が響いた。

彼が驚いて振り返ると扉の前に一人の男性が立っていた。


「何か御用ですか?」


再びそう問うてきた男性の声で驚きで思考停止していた頭がやっと動いたらしい。


「あ、えーっと、その、表の看板を見たんだけど……」


彼が恐る恐るそう答えると、男は無表情のまま屋敷の扉を開けた。


「これは失礼しました。お客様ですね。どうぞ中へお入り下さい」


「え、あ、ああ」


そして彼は男性に促されるまま、屋敷の中へと足を踏み入れたのであった。




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