7.呪文?→失神?
登場人物
メポリー姫 魔法立国グリンダムヴァルドの正統後継者。赤い髪で気性が荒い
ミラ 魔導師。ギルー25世からメポリー姫のおそば付き兼監視役に任命される。青い髪でボブカット
早河義之 陰キャ高校生。魔法立国グリンダムヴァルドの救世主と期待?されている。
「どうしちゃったのミラ・・」
早河だけじゃなくお姫さまも唖然としていた。彼女は口をあんぐり開け、瞬きもせず青い髪の娘ミラを見つめている。
「大丈夫アンタ?」
ミラの顔をジッと見ながらお姫さまは訊ねた。
「すみません・・取り乱しました」
ミラは恥ずかしそうに下を向いた。
「急に大声出すからビックリだよ」
お姫さまはミラの肩にさりげなく手を置く。ミラの頬が赤くなった。
「なんか言いたいことあるんじゃない?」
お姫さまは穏やかな顔をしていた。
(へぇ・・部下を思いやることもあるんだな。このお姫様。意外だ)
「じ、実は天界の戦況なんですけど・・」
「戦況?どうせ一進一退。相も変わらずでしょ」
「それはお父上・・いやギルー25世閣下が下々に心配させまいというご配慮で・・」
お姫さまの顔が険しくなった。
「父上が?」
「実際はかなりの領土が敵の侵攻を受けております」
「・・・」
お姫さまは黙ってしまった。
ミラが続ける、
「──メポリー姫は血の気が多い。本当のコト告げたら逆上して突撃しかねない──そう仰いまして・・」
(メポリーとかメルヘンチックで可愛らしい名前、このお転婆姫に合わないだろ・・それにしてもずいぶん深刻な事情がありそうだな。領土が侵攻されてるとか・・)
「父上ったら・・また余計な心配を」
メポリー姫は髪の毛を搔きむしっていた。
「最近では隷国の邪鬼の戦闘能力がかなり向上しております」
「そう?そんなコトなさそうだけど」
メポリー姫はあくまで強気だ。
「国中から冒険者をかき集め対策してますが・・使える者がおらず」
(お、出た出た!冒険者!やっと異世界っぽくなってきた。イヤ、ちょっと待て。こんな急展開なんで易々と受け入れてるんだ俺は)
「ギャラの問題じゃない?賞金だし惜しみしないでさ、ドーンと弾めばいいのに。肝心なところしみったれてんのよね父上」
生々しい話だった。
どの世界も結局はお金・・異世界も例外じゃないのだ・・世知辛い。
「姫さま」
息まくメポリー姫を制止するミラ。
「なに?」
「お耳を拝借」
ミラがそっとメポリー姫の頬に顔を寄せた。
ミラの頬が再び赤くなる。美少女同士のスキンシップを見た早河の顔も赤くなった。(思春期なんだよこっちは。仕方ないじゃんか)
「こそばったい」
メポリー姫は仏頂面。そんな姫の耳元でミラはゴニョゴニョ話し続ける。メポリー姫の表情がだんだん柔らかくなってきた。
「なるほど。従来の契約システムではない、と?」
「そうです。いつでも解約可能です」
そう答えるミラの顔つきはやたら生真面目だった。
「了解」
メポリー姫がニンマリ笑う。
イヤーな予感がしてきた。ミラがこっちを向く。栗色の大きな眼がキラっと輝った。
「・・ヴィシンドルム──ヌランクキュウールセング」
ゴニョゴニョと呪文のような文句をミラは呟きだした。
「・・ルゥファンスマーグ──ラッセンティ・・」
ミラの声がどんどん大きくなっていく。
「・・ルゥカンザフォレストースムァ・・」
呪文?を唱える、というよりほぼ絶叫していた。そんなにデカい声をだしてるのに、商店街を行く誰も気に留めようとしない。(そうだ、この異界の二人の存在を感知できるのは俺だけなんだ・・)
冷たい風が吹き始めた。
ミラのボブスタイルの青髪が激しく揺れる。風だけじゃない、足元までグラグラ揺れ始めた。(地震かよ!?)
「ふぇぇえ?・・い、一体、こりゃ・・どうすれ、ればいい、の?」
胃から食道に何かが逆流してくる。船酔いしたときのあの最悪の感覚に近かった。(これは・・間違いなく吐く・・)早河は地面にしゃがみ込んだ。
「・・ラクィームァ──プッツケームサ・・」
視界が歪む。
青と赤の光の玉が現れては消え、乱舞する。見るもの全てが二人の髪の色で覆いつくされる。
「ヤンバスゴットファンナール!」
次の瞬間、早河の視界は真っ白になっていた。ミラの怒号のような呪文?だけがかすかに耳に残った。
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