5.救世主登場
登場人物
メポリー姫 魔法立国グリンダムヴァルドの正統後継者。赤い髪で気性が荒い
ミラ 魔導師。ギルー25世からメポリー姫のおそば付き兼監視役に任命される。青い髪でボブカット
早河義之 陰キャ高校生。魔法立国グリンダムヴァルドの救世主と期待?されている。
「どこ行っちゃったんかな、焔サンは?」
早河は呻いた。実に情けないことをしている、自分自身でも判っていた。
(でもでも、こういうことはやめられないのだ男の性として)
無理から自分にそう言い聞かせ己の恥ずかしい行動を彼は正当化した。
(この間はこのあたりまでちゃんと尾行デキていたのに)
焔サンが例の安売りスーパー『ひらた』の角を曲がった時だ。特売日だったのだろう、急に大量のおばちゃん軍団が激安スーパーから雪崩のように現れ、彼女たちに前方視界を遮られた。焦りまくった早河は大慌てでおばちゃんの人垣をかき分けたかき分けしたが、もう後の祭りだった。焔サンの姿はどこにも見えなかった。商店街の人込みのどこかに彼女は消えてしまっていた。
今日こそ焔サンの家を突きとめる──並々ならぬ決意で早河は歩を進めていた。
そんな時だ、あの声が不意に背後から聞こえてきたのは──。
「おい、ストーカー野郎こっち向きやがれ」
振りかえってギョッとした。
ビキニ姿の女の子が二人、突っ立っていた。
(コスプレサミットの帰り?ここただの商店街なんスけど)
ビキニの上から申し訳程度の薄いレースのような純白のショールを肩に羽織っているだけだ。一人は真っ赤な髪。その髪を腰のあたりまで伸ばしている。もう一人は薄い青のボブカット。
(コスプレいうより・・浅草サンバカーニバル?)
サンバを連想したのはラテン系っぽい二人の顔の造作のせいだ。彫りが深く目がすこぶる大きい。赤髪の子の肌は異様に白く、青のほうは浅黒い。
「早河義之だな?」
赤髪の女の子はずいぶんと偉そうな態度だった。彼女の眉間のしわが深い。
初対面の人にいきなり自分の名前を言われたら普通はかなり驚くところだ。が、なぜかそれほど気にならなかった。TPOガン無視の彼女たちのいでたちを上から下まで眺めながら早河はボンヤリ思った、
(この奇想天外な二人組なら他人の名前くらいお見通しなのかもしれない)
こういう展開はあり得るぞ──早河の想像力はムダにたくましかった。
(いよいよ世界が狂いだしたのだ!)
早河の顔にはなぜか笑顔が張りついていた。
「コラ、姫の質問に答えんか」
ボブカットの青髪も居丈高だった。
(感じ悪いビキニコンビだな)そう思いながらも、姫という単語を耳にして早河はあることを思いだした。
(そういえば・・お姫さまキャラのRPGにハマった時期もあったな・・懐かしい)
「喝っ!」
赤髪が鋭い声をだした。
彼女がさらに言う、
「サンテ姫・・その女ゲームキャラだろうが。混同するな。現実とフィクションの区別がつかないなんてキサマかなり重症だぞ」
「え!なんで・・サンテ姫を知って・・」
(確かに『サンテ姫危機一髪!』にハマってた。でも、なんでゲームの名前まで判っちゃうの?ヤバくない?だけど・・他人の名前ズバリ言い当てたりするくらいの連中、そんなことも朝飯前なんだろう)
深く物事を考えない、若しくは考えたくない性質の早河はそうやって自分を納得させた。経験上、目の前の現実に異議申し立てをして結果が良かった試しがない。
(午後のけだるいベッドタウンの商店街、買い物にいそしむオバちゃん達、ほぼ裸の赤と青に髪を染めたラテン風美少女二人づれ、そしてなぜか彼女たちは俺のことをリサーチ済み──全ての組み合わせがズレまくりじゃないか。でも、これは現実なのだ!そのうえ俺は昨晩もほぼ徹夜でゲーム三昧・・頭がボーっとしているのだ。幻覚だとしてもそれはそれでいいのだ!)
すかさず自己弁護に早河は走った。
「くどいようで申し訳ないけど──ホントこの男で間違いないのね?」
眉間にしわを寄せたまま姫と呼ばれた赤髪の子が青髪に訊ねた。
「そ、そうなんですけど」
青髪がオドオド答えた。
「いくら魔力潜在指数が高くたって・・これから詔を探しだす冒険者がこんなボケボケでどうすんの」
「し、しかし所詮は下界でのこと・・」
「下界だからなんだってのさ」
「いろんな誘惑や障害があって・・潜在能力が引き出されないという可能性もおおいにあり・・」
「可能性とは?」
「なんせ空気が汚い、環境が良くありません。有害ガスもふんだんに漂っていて魔力が・・十分に発揮されないことは考えられます」
「あのね、ミラ」
そう言って赤い髪は黙った。
「『鉄は熱いうちに打て』ってご存じ?」
「急にな、なんなんですそれ?」
「この下界の連中の教訓、戒めみたいなモンらしいわ。要は、若いころの鍛錬がモノいうって」
「ほう・・下等な連中にしてはずいぶん立派な言い回しを」
「だからね、こんな怠けモンの色ボケはパス!」
赤髪が叫んだ。
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