14.元帥
登場人物
ガジャン元帥:東方隷国の邪鬼。階級は元帥。邪鬼と人間のハーフ。常勝将軍の異名をもつ
ズゥーメ軍曹:東方隷国の邪鬼。階級は軍曹。ガジャン元帥麾下の副官。根っからの軍人
「どうも解せませんなぁ」
ズゥーメ軍曹は長く伸ばした髭をしきりに弄っていた。
今しばらく待て──それがガジャン元帥の指示だった。
(暇が過ぎる・・)
久々の実戦なのに前線の遥か後方で待機しなければならない。
根っからの職業軍人であるズゥーメにとって、戦場で指を咥えているのはお預けを喰らった犬のような気分にさせられる。
「あの女魔導師、小僧のために死ぬつもりでしょうか?」
小僧──安っぽい生地の黒一色の上下を着ていた。上着にはなぜか五つの金ボタン。そんなヘンテコな服を着たヒョロヒョロした小僧。遠目にも彼が怯えきっているのがわかる。
小僧を背にし奮戦するスカイブルーの髪の女魔導師の様子をガジャンはジッと観察した。彼女が振るう太刀、インスタントの魔法で作りだした水性魔剣であるのは一目瞭然だった。
主に『火』の属性をもつ邪鬼にとって、『水』属性のグリンダムヴァルドの魔導師たちが作る水性アイテムは厄介だ。が、厄介なのは上級魔導師が入念に時間をかけ仕上げたアイテムのみ。同じアイテムでも低級者がこしらえたモノなどさして怖れることはない。
(あの青髪、魔導師としては上級レベルなのは間違いないが・・)
おそらく剣にパワーを注ぎこむ暇がなかったのだろう。インスタントの駄剣を必死の形相で振りまわしていた。それでも襲いかかるマハは次々に八つ裂きにされていく。
(しかし、所詮はインスタント)
切れ味の劣化も早いはずだ、ガジャンはそう予測する。
(マハの3分の2は斬り倒されるだろう。が、残り3分の1を斬り尽くせるか?その頃にはあの刀も萎えている。まさに付け焼き刃)
武器の寿命が尽きたときにどう闘うか?
それが魔導師や冒険者の腕の見せどころだ。
(剣の技量も決して悪くないが・・この大軍のマハすべて倒しきれはしまい・・)
2個師団を連れてきたことは間違いじゃなかった──ガジャンは安堵した。
「あんな足手まといの介護しながら我々と対決?まさに笑止」
5メートル近い巨躯を折り曲げるようにしてズゥーメはガジャンのそばに控えている。ガジャンは黙って眼下の戦場を眺めてるだけだ。
(またもや得意のダンマリかよ元帥どの)
戦場では超一流だが、それ以外まったく取りつく島がない。やりづらい上司だ。
「あの小僧・・噛ませ犬にもなれそうにない」
ズゥーメは執拗に話しかける。
しかし、ガジャンはなおも無言。そもそも彼は他人とあまり口を利こうとしない。
(ふだん軽口のおしゃべり野郎が修羅場のとき急に偉そうなコト言ったとて・・言葉に威厳などもたせようがない)
欲しいのは話し相手などではない。冷静沈着な配下、そして友軍だけだ。
「あの女魔導師、男勝りの武者働ですねぇ。そのわりには色っぽい顔してますよ」
「少し黙っててくれないか軍曹」
腕組みをして眼下の戦況に見入るガジャン。
「これは失礼」
ズゥーメは不満そうだ。
「判ってくれればそれで良い」
ガジャンは純粋な邪鬼ではない。
下界から召喚された人間の母と堕天使の父との間に生まれたハーフ──そんな出自に内心で引け目を感じていた。そのせいか誰よりも先を走ってないと気がすまない。
「元帥どの──」
「なんだ?」
「──しばらく様子を見ればとのお達しですけど・・」
眼下の戦場では想像以上に青髪が奮戦していた。
彼女の魔剣に切り裂かれたマハの遺体が広場のあちこちに散乱している。彼らの亡骸から絶えず血が流れだしていた。邪鬼の血は総じて蒼い。特にマハのそれは鮮やかな蒼だった。その蒼い血だまりが傾きかけた日差しに反射しキラキラと不気味に光っていた。
「このまま放置しておけば・・お味方の損害ばっかり増えてくだけです」
「なるほどね」
ガジャンはマントを翻した。
と同時に疾風が舞う。その風と共に彼は崖を駆け下った。
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