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教訓、十四。好意を持つ人の行為が必ずしも、厚意になるとは限らない。 4

2025/05/11 改

「刺客というか、殿下を(さら)うように依頼されたならず者達です。みんな一様に最初に一スクル銀貨を一枚ずつ渡され、殿下を攫ってきた者には百スクル金貨を渡すと言われたそうですから。


 中には剣術の猛者もかなりいたようです。金を手に入れられる裏の仕事として、大勢に声をかけたようですね。全体として、ならず者の数は百人近くに上り、そのうちの三十五人をヴァドサ殿が一人で斬ったようです。遺体を検分し、切り口から判断した所での確認なので、正確なものではありませんが。」


 ベイルを含めてみんなが呆然としていた。三十五人を斬ったと一口に言っているが、それがどれほど大変なことか。暗闇の森でさらに煙で視界が悪い中、ただ自分一人で逃げるのも大変なのに、若様を抱きかかえていたのだ。


「みなさん、分かりましたね。どれほど危険な状態だったかが。フォーリからも話を聞きましたが、フォーリが行かなかったら、間に合わなかった可能性が高いです。最後の男が手練れだった様子ですから。」


 みんなが黙り込んでしまったので、バムスはもう一度注意をした。


「もし、ヴァドサ殿の隊でなかったら、このような注意すら私はしなかったでしょう。すぐに親衛隊を取り替えました。ですが、ヴァドサ殿の隊ですから、もう一度、機会を与えるのです。きっと、同じ過ちはしないでしょう。そして、もっと研鑽(けんさん)し任務に励むことでしょう。言っている意味が分かりますね?」


「はい。」


 ベイルが頷いた。


名誉挽回(めいよばんかい)の機会を与えて頂き、本当に感謝致します。二度と同じ過ちは致しません。どのような時も殿下をお守り致します。」


「もし、あなた達が他の王族の方々の護衛なら、このような事態になることもなかったでしょう。セルゲス公だから普通の国民を見捨てて、セルゲス公を護衛しなくてはならないという事態が生じるのです。殿下は王位にとても近いお方だ。王位に近い方の護衛は、このような二者択一を迫られるのです。それを肝に銘じておいて下さい。」


 バムスの言葉に隊員達が、はい、と頷く。たまたまくせ者達がそこにいなかったからもあるが、バムスはシークの隊は本当に素直だと感心していた。

 それでは私は失礼します、と行きかけてバムスは振り返った。


「ただ、あなた達のおかげで多くの人が助かりました。殿下もそのことでお心を痛めずに済みます。ご自分のせいで多くの人が死んだと、お嘆きにならずに済みますから。その点については助かりました。」


 バムスの言葉に一斉に隊員達の表情が明るくなった。


「それと、シェリア殿の言動について他言無用でお願いします。もし、噂になればここぞとばかりに、あなた達の隊長はシェリア殿に連れて行かれますよ。そのために、あなた達の前であんなことを言っていたのです。噂になれば殿下の護衛にふさわしくないので、クビになります。そして、堂々と連れて行きます。それが嫌だったら、黙っていることです。」


 隊員達の顔色がさっと変わった。バムスは内心面白いと思ったので、少し誇張してからかってみることにした。いや、誇張ではなく実際に彼女の念頭にある計算を、教えてやるだけなのだが。


「…あ、あの、念のためにお尋ねしますが、その連れて行くっていうのは…その。」


 ベイルが後は言葉にできずに青ざめて尋ねる。バムスが切り出さずとも、ベイルの方から聞いてくれた。


「シェリア殿はヴァドサ殿を気に入っているのです。文字通り、連れて行くということですよ。いらなくなるまで手元に置いておくということです。まあ、ヴァドサ殿の性格上、黙っている訳がないので、シェリア殿がどうするかは…後はご想像の通りでしょう。」


 バムスがにっこりして言うと、ベイルを含めて隊員達が、目を点にしていよいよ顔色が悪くなった。

 バムスはそんな隊員達を置いて挨拶をして部屋を出た。一応、隊員達は別れの挨拶を返したが、可哀想なほど茫然自失(ぼうぜんじしつ)の状態だった。


「…旦那様、差し出がましいようですが、なぜあのようなことを仰ったのですか? 旦那様が、人をからかうようなことを仰るのは珍しいので…。」


 しばらくしてから、サミアスが尋ねた。バムスは思わず声に出して笑った。


「彼らにも話したが、クビになっておかしくない。もし、ヴァドサ殿の隊でなかったら、私は彼らをすでに免職させていた。クビにならない分、せめてあれくらい心配しなくては。それに、実際に隊長を守りたかったら、あれくらい気がつかないと。みんな素直すぎだ。」


 実際問題、彼女は噂など気にしないので噂を流してやめさせ、かっさらうくらい平気でするし、できる御仁だ。そうなるかならないかは、流れによって決まるだろう。彼らの行動次第で決まるのだ。

 とんでもない女性に目をつけられて可哀想に、とバムスは内心で同情したのだった。

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