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教訓、十四。好意を持つ人の行為が必ずしも、厚意になるとは限らない。 2

2025/05/09 改

 焦りまくっている側で、さらにシェリアは続けた。


「だって、剣術の達人にわたくしなどが勝てるわけがありませんわ。強烈な酒と薬がなくても、勝手に動けない状態なんですもの。こんな機会はなくってよ。戦術でも相手が弱っている時に、攻撃を仕掛けるように教えるのではなくって? 同じですわ。」


 焦りまくっているため、理論的に詰め寄られるとつい、同調してしまう。


「…な、それは、確かにそうかもしれませんが、しかし…! それとこれは別で…!」

「リブス。」

「へぶ…!」


 シェリアの一言で顔を枕に押しつけられる。息ができない。


「まだ、分かっていませんのね。そうですわね、言うことを聞かないのなら、あなたの大事な部下の手首を一本ずつ切り落としますわ。」


 さらっと物騒なことを言う。冗談なのか本気なのかさっぱり分からない。


「あぁ、でも、手首一本ずつだと、案外早くに終わってしまうかも。あなたは強情ですもの。でも、優しい方ですから、指を一本ずつもぐことに致しますわ。それでも、言うことを聞くでしょう? 部下の指が失われたら、大変。指は失ったら生えてきませんもの。」


 息が苦しくて意識が遠のきそうだった。


「リブス。」


 シェリアの一言で枕から頭を引き離され、咳き込みながら大きく息を吸った。


「おや、みなさん、緊張してどうしたんですか?」


 部屋の外から、穏やかな声が響いた。


(…レルスリ殿、助けて下さい。)


 心の底からシークは助けを求めた。バムスの方がまともである。権力のある女性からどうやって逃れたら良いのか、まったく分からなかった。


「では、ヴァドサ殿、わたくしの寝所に来ますか?」


 思わず咳き込んだ。なんて、直接的に言ってくるんだろう…!


「やっぱり、部下の首を切るって言わないと、来て下さらないのかしら? リブス、適当に誰か見繕って。」

「な、何を…! の…ノンプディ殿、ちょ、おやめ下さい!」


 シークが慌てて叫ぶと、バムスが笑う声が部屋に入ってきた。


「シェリア殿、からかうのも大概にしないと、本当に嫌われてしまいますよ。」


 ほほほ、とシェリアは笑った。


「もう、バムスさま、余計な口出しをしないで下さいまし。本当にこの子達の顔を見ていると面白いんですの。隊長殿が真面目なお方ですから、部下達も一様に真面目なのですわ。青くなったり赤くなったり、反応が面白くて。」


(…じょ…冗談だった…ああ、良かった。)


 シークがほっとしたのもつかの間。シェリアはさらっと言った。


「でも、嘘は言っておりませんわ。本当にシーク殿を連れて行きたいんですの。敵が弱っている時に叩くのが定石でしてよ。弱っている時にものにしておこうと思っておりますの。」


 とうとう姓ではなく、名前で呼び始めたシェリアにシークは困惑した。部下達も同様に困惑している。そう、彼らは薄々勘づいてはいたが、まさか、こんなに大胆に権力をちらつかせながら、自分達の隊長に言い寄るとは思いもしなかったのだ。しかも、言い寄りながら半分、拷問している。

 バムスはにっこりして言った。


「シェリア殿、それでは好きな女の子をからかう少年と同じですよ。」


 バムスの発言にシークと部下達はいよいよ、困惑する。余計に彼女が本気で気に入っているとしか思えない。シーク自身、彼女は国王の密命に従うためにそうしたのだと思っていたので、彼女の行動に困惑していた。本気だとつゆほども思っていなかった。


「バムスさまは、どうしてこちらにいらしたんですの?」


 シェリアは邪魔だと言わんばかりにバムスに尋ねた。


「もちろん、ヴァドサ殿の見舞いです。それに先日の街道の一件で話がありましてね。」


 バムスの答えにシェリアはため息をついた。


「仕事のお話ですのね。」


 シェリアは意味ありげにバムスを見上げる。


「そうです。それでは、私は先にヴァドサ殿の部下達に話をします。彼らにも話しておくべきことがありますので。」


 バムスの答えにシェリアは、ほほほ…と嬉しそうに頷いた。


(…行ってしまうのか?)


 シークは非常に焦った。どうしよう、二人…いや、三人っきりなんて勘弁して欲しい。


「それでは、隊員のみなさん、別室に移動しましょう。ヴァドサ殿、後であなたにも話をしますが、隊員のみなさんをお借りします。」


 仕事の話のようなので、引き止めることは無理そうである。しかも、承諾を得ているような感じで、決定事項だった。


「…は…はい。分かりました。」


 半分、泣きそうになりながら答えたのだった。

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