表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/582

教訓、十三。周到な罠に気をつけよ。 14

2025/05/08 改

 その様子を確認しようと、謎の男は斜面下を(のぞ)こうとしたが、とっさに戻って振り返った。恐ろしい殺気を感じたのだ。男はすぐさま、走って逃げ出した。相手は一晩中、主と離ればなれになって殺気立っているニピ族だ。


 敵に回していい相手ではない。弓矢を持っているのが見えたので、まっすぐ走らずに蛇行して走り、木の陰に隠れようとする。それでも、耳元を矢がかすめ、一本は左肩に当たった。革の胴着を貫いて、(やじり)の先が肉に刺さった。それでも走り続けていると、矢は飛んで来なくなった。


(あともう少しだった。くそ…!)


 予想以上に手こずり、時間を食ってしまった。男は仕方なく、退散することにしたのだった。


 矢を射ったフォーリは仲間がいれば追いかけることができたが、と思いつつ、男が覗いていた斜面下を覗いた。斜面下はまだ、薄暗くて余計に見えづらい状態になっている。それでも、フォーリはシークの姿を見つけた。


 若様を抱えたまま斜面を滑落したようだ。手には剣を持ったままだ。『うわ!』という悲鳴は落ちた時のものだろう。急いで斜面を降りた。


「しっかりしろ、ヴァドサ。大丈夫か?」


 シークはフォーリに肩を揺すられて目を覚ました。一瞬、どこにいてどうなったか分からず、咄嗟(とっさ)に剣を握って振り上げた。何かに剣とは違う、それより柔らかい衝撃で静かに(さば)かれた。フォーリの鉄扇だった。舞で静かに柔らかくシークの剣を捌いたのだ。激しくすれば、若様を怪我させるかもしれないからだ。


「おい、しっかりしろ。大丈夫か?」


 もう一度、尋ねられてシークは、ようやく頭が目覚めた。


「おい、フォーリ、どこにいる?」


 上からベリー医師の声が聞こえてきた。フォーリが答え、やがて複数が降りてきた。


「…これは……!」


 最初に降りてきたベリー医師が、絶句した。


「先生、さっき起こすまで気絶していました。大丈夫でしょうか。」

「隊長、大丈夫ですか?」

「隊長、大丈夫っすか?」


 ベイルを始め、シークの部下達が降りてきた。


「立ち上がれるか?」


 フォーリとベイルに支えられて、ようやくシークは立ち上がった。動き出した途端、全身に痛みが走る。


「いててて…!」

「若様にお怪我はないか?」

「たぶん、大丈夫のはずだ。」

「隊長、怪我してないんですか?」

「たぶん、したとしたら、一番最後に斜面から滑り落ちた時だ。…あ、その前にもかすられたか。! そうだ、あの男はどうなった?」


 シークはフォーリとベイルにそれぞれ話ながら、落ちる前のことを思い出した。


「矢を射ったが逃げられた。」


 フォーリの答えにシークは頷いた。おそらく逃げられただろうとは思った。


「フォーリ、若様を。」


 フォーリもそのつもりでいるし、ベリー医師がすでにおんぶ紐代わりの紐を切っていた。


「若様、フォーリです。こちらへ。」

「……う、うう…ん。」


 若様は半分、まだ眠っているようだ。普段、あんまり眠れないようだが、眠り出すとちょっとやそっとで起きないらしい。それにしても、あの状態でというか、この状態で眠れるというのも、案外、肝が太いと言えるのではないか。


「若様、フォーリに移って下さい。」


 シークも言って、もう強制的に抱き上げてフォーリに渡そうとした。


「う、うう…ううん。」


 若様は寝ぼけながら(うな)ったかと思うと、細い腕でシークの首にしがみついた。細い腕がしっかり首を()め上げる。


(く、苦しい…。)


 そう思った時には、目の前が真っ暗になった。


「! 隊長…!」

「おい…!」

「…あぁ、落ちたね、こりゃ。」


 同時に複数の声が重なったが、もはや聞こえていなかった。フォーリとベイルが支えていても支えきれずに、とりあえず地面に寝かせるしかなかった。


「とどめがまさかの若様だったか。完全に気絶した。」


 ベリー医師がぼそっと言う。そのまま若様が首を絞め続ければ死ぬので、フォーリとベリー医師、ベイルの三人でなんとか若様を引きがした。

 フォーリは二の舞を踏むまいと、心の中で固く決心した。若様を守ることができなくなる。フォーリも想定外の出来事だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ