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教訓、十三。周到な罠に気をつけよ。 10

2025/05/06 改

 ビレスはこの晩、妙に五男のことが気にかかった。以前に妻のケイレが言っていた通り、軍の中で一番の出世と言われている親衛隊に配属された。

 それはそれでいいのだが、内心では軍に入隊させない方が良かったのではないかと思っていた。入隊してしまったら、何か理由がない限り除隊せず、道場を継がせることができなくなるのではと心配だった。本当の所は軍隊に入れたくなかった。


 しかも、親衛隊だ。その上、セルゲス公は大変、不憫(ふびん)な境遇の方である。五番目の息子の性格上、同情しないわけがなく、一生懸命、護衛の任務に励むだろう。


 …命がけで。


 とうとう眠れなくなり、起き上がると廊下に出た。板戸をそっと開ける。三日月が空には出ていた。しばらく空を眺める。


「お前様。眠れませんか?」


 ケイレが気配に気が付いたのか、起きだしてきた。


「…すまん、起こしたか?」

「いいえ。なんとなく目覚めたら、お前様が起きておりました。」

「そうか。」


 夫婦はしばらく無言で空を眺めた。


「シークは上手くやっているだろうか。」


 ようやく気になっていることをビレスが口にすると、ケイレが軽くため息をついた。


「気になりますか?」

「あの子の剣術の腕は心配していない。…ただ、あの子はまっすぐで優しい子だ。自分より年下で弱い者を放っておける子ではない。」

「そうですね。」

「…シークは間の悪い子だ。自分では巻き込まれているつもりはないが、なぜか大事の渦中にいて、関わることになっている。」

「ええ、そういうことが多いですね。正義感も強いので、長いものに巻かれることもありませんし。」

「そういう意味では心配だ。少しぐらい腹黒いことも覚えろと、教えておくべきだっただろうか。」


 ビレスが言うと、とうとうケイレが吹き出した。


「…お前様。お前様が卑怯なことも腹黒いこともできませんのに、どうして息子に教えられるのですか?」


 妻の言い分にビレスも苦笑した。


「…確かに、その通りだな。」

「大丈夫ですよ。」


 少ししてケイレは言った。


「シークより年下の子達を見て下さいな。みんな、シークを中心にしてまとまっています。あの子には抜けた所もありますが、弟達が補佐して上手くやっています。きっと、軍でも同じですよ。」


 自分よりも腹の据わっている妻のケイレをビレスは見つめた。


「…ケイレ。お前にはいろいろと苦労をかける。」

「ふふ、お互い様ですよ。」

「……ケイレ。シークのことは…。」

「お前様。」


 最後まで言う前にケイレは言った。


「あの子はわたしが産んだ子ではありませんが、とてもよい子です。つい、産んだ気になる自慢の息子です。」

「…そうか。天の采配は…意地悪だな。」

「そうですか?わたしはそれで良かったと思っています。わたしも人間です。わたしが産んでいれば、他の子達よりも可愛がりすぎて、あの子を駄目にしてしてまったかもしれません。」


 ケイレは言って、ビレスをまっすぐ見上げた。


「それで良いのです。」


 妻は微笑んだ。ビレスはケイレが妻で本当に良かったと思った。ただ、それを口に出すのは、いささか気恥ずかしい。


「……。」


 何も言わないでいると、妻が背中を押した。


「ほら、体が冷えます。そろそろ戻りましょう。シークのことは心配せずに。あの子ならきっと、大丈夫ですから。」


 夫婦は寝室に戻ったのだった。

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