教訓、十二。他言無用の話も、話さなくてはならない時がある。 4
2025/04/21 改
「実はフォーリ、この話をしたのはお前が初めてだ。部下達も知らない。家族さえ知らない。父と叔父とおそらく、後は母だけが知っている。みんなには、ならず者に絡まれて怪我をしたとだけ伝えて、相手は誰か分からないということにしてある。」
フォーリはじっと考え込んでいた。シークの話は想像以上に深刻だった。相手がイナーン家だったとは、思わなかった。しかも、本人はなぜか、あんまり深刻に考えていない。いや、それなりに深刻なのだが、どこか呑気だというか、十剣術交流試合に出れないのは、父が厳しいからだと思っているようだ。
思わずフォーリは口を開いていた。
「ヴァドサ。私は部外者だから、その分、冷静に話を聞ける。」
シークは静かにフォーリを見て、頷いた。
「…そうだな。」
「それで、聞いて思ったのだが、お前の父上が激しく叱責したのは、下手をすれば死んでいたし、報復されて殺される恐れもあるからではないか?」
シークは考え込んだ。
「……確かに、なぜ逃げなかったとか言われたと思うが、囲まれたのにどうやって逃げろと? しかも、相手も名乗らずに斬りかかってきたというのに。無理な相談だ。」
彼の言葉に、フォーリは今も納得してないな、と思う。シークにしてみればそうだろう。
「それに、十剣術交流試合に出れないのは、おそらくお前が報復されて殺されないようにするためだろうと、私は思う。ああいう世界の人間だ。殺されたのに報復しないのは弱腰だと思う、血の気の多い連中が試合に出ているお前を見つけて、殺すのを恐れているんだろう。」
シークは純粋に驚いてフォーリを見つめた。今までそんな考えをしなかった。つい、軍にいるから、上が言ったらその通りに、下の者も動くのだろうと考えていた。
「……そうか。」
思わずシークは泣きそうになって、ごまかし笑いをした。あの父が自分のことを考えてくれている、そのことが妙に嬉しかった。
「今までそういう考え方をしなかった。軍にいるから、つい、そのように考えてしまい、命令を無視する可能性があることを考えなかった。」
フォーリは頷いた。
「おそらく、そうだろうと思った。三日の猶予が必要だったのも、三日でなんとか、下の血の気の多い連中を宥めたんだろう。」
「そこについては、たぶんそうだろうと思っていた。」
悲しい出来事が起こった後の、少し嬉しい出来事が妙に大きく感じられて、一層、幸せを感じられるような気がした。
「そうか、そうだったんだな。フォーリ、ありがとう、教えてくれて。言われなければ、ずっと気が付かないで父を恨んでいただろう。危なかった。」
フォーリが話が終わった途端、馬の向きを変えた。
「行くぞ。時間を食った。」
「そうだな。」
話をしている間に、フォーリに叩かれた所も痛みがだいぶましになった。
さっきから気になっていることがあった。
「フォーリ、ところで若様達はどうしている? 停留所に止まっているのか?」
「いや。」
フォーリの言葉にシークは目を剥いた。
「! 何!」
シークはてっきり停留所に止まっていると思っていたので、話をしたのだ。
「なぜ、言わなかった。な…んてことだ、早く追わなくては!」
「言えばお前は話さない。だからだ。」
フォーリの言葉にシークは、はっとしてため息をついた。
「…そうか、そうだな。私の情報を集めるためか。今度からは素直に聞いてくれ。お前には今の話のように、他言無用だと言われた話も含めてする。若様の護衛の任務を遂行するに辺り、必要になるかもしれないからな。」
フォーリは以外そうにシークを見つめた。
「そんなに以外か?」
「お前なら頑なに口を閉ざすかと思った。」
「今までならそうだ。だが…昨日のことで考えを変えた。何がどう繋がるか分からない。八大貴族の情報網が馬鹿にならないことも分かったし、若様のお命をお守りするには、どんなに些細なことでも気をつけなくてはならないと、学んだからな。だから、言うんであって、そうでないと決して言わない。」
シークが苦い声で素直に答えると、フォーリはふっと笑った。
「なんだ、さすがに腹が立つぞ。」
「いや…結構、柔軟だし打たれ強いなと思っただけだ。」
フォーリはそう答えたが、嬉しかったのだ。真剣に若様の護衛をしようと考えているから。若様が停留所に止まっているわけではないと、知ってからの慌てよう。本当に真面目な人で良かったとフォーリは心から思う。