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王宮の思惑 1

2025/04/20 改

「今度のグイニスの親衛隊の隊長はいかなる男じゃ?」

「恐れながら、妃殿下。こちらから手を下す必要はないかと存じます。」


 カルーラは報告している侍従を見つめた。侍従といっても、ただの侍従ではない。カルーラのために裏工作をする侍従だ。この男はなぜかカルーラに必要な人脈を持っており、必要なことを全部、行ってくれる。まさにかゆいところに手が届くというのはこのことだ。


 だが、この男についてカルーラは何一つ、知らなかった。ジャスという名前しか知らないが、この名前も偽名のようなので、本名は知らない。でも、調べようとは思わなかった。調べてどうするのだ。この男は危ない仕事を代わりにしてくれる。だから、全てを(かく)す。そして、隠すことによって、カルーラに万一、嫌疑がかかった際には、すべてこの男と共に消え去るのだ。


 物理的に肉体を殺すことは無理だろうと、カルーラも思う。風のように現れ、風のように消える男を殺して口封じはできないだろう。後で、どのようなことを請求してくるか、恐ろしいという見方もあるが、カルーラはまったくそんな心配をしていなかった。そっちがやる気ならこっちもやってやる。


 彼女は非常に(はげ)しく苛烈(かれつ)な性格なので、負けん気が強かった。その上、権力を握っているが故に、周りにいる者達が盾になっているので自分があたかも、どんなものにも勝てるような錯覚をしていた。


「それで、なぜ、必要ないのじゃ?」

「あの男については、両極端の(うわさ)があります。悪い方は本当に酷い噂が流れておりますが、従兄弟達が話しており、身内が話しているだけに完全に嘘とも言い切れないかと。」

「なぜ、そのような者がクビにもならずに、のうのうと軍に残っているのじゃ?」


「証拠がないようです。それに、必ず上司の中に(かば)う者が現れてクビにならずにすんでいます。さらに、ヴァドサ家という名前もあって残っています。良い方の噂ではよく人助けをするというものです。泥棒を捕らえたり、偽金(にせがね)作りを検挙したり、(さら)われた子供達を助けたりしています。」


 カルーラは扇でゆったりと扇ぎながら、鼻で笑った。


「己が悪いから、同類も見分けられるのであろう。蛇の道は蛇というではないか。」


 カルーラは自分がグイニスの護衛についている者が、悪い者であって欲しいという願望から、勝手にヴァドサ・シークという護衛隊長が、悪人だと決めつけていた。


「それで、しばらく様子を見るべきかと。」

「夫が激怒していたそうじゃな。」


 夫とはもちろん、王のボルピスのことである。


「はい。イゴン将軍が推薦した者なので、信頼して任せた所、従兄弟達からそういう話が出ている上、口に出すのも(はばか)られるほどの…連続強姦事件の犯人として名が上がったのですから。


 従兄弟達もヴァドサ・シークが犯人だと言っており、さらに元婚約者という女が名乗り出て、上手く人々を(だま)していると証言したものですから、陛下が激怒なさったと。」


 カルーラは喉を鳴らして笑った。


「ただ、一つ気になることが。」

「なんじゃ?」

「バムス・レルスリの動向です。陛下に自分が調べるので、もし、本当にそうであったら殺し、そうでない場合は、そのまま任務を続行させると。」


 カルーラは眉間に(しわ)を寄せて考え込んだ。


「…バムス・レルスリか。あの男、腹が読めぬ。」


 だが、考えても読めないものはしょうがない。


「よい。そのまま、放っておくのじゃ。もし、それでバムスが殺せば、新たな親衛隊を派遣することになろう。そうすれば、儲けものじゃ。」


 カルーラの結論に、ジャスは頭を下げた。

「では、仰せの通りに静観致します。」

「…ただ。」


 退室しようと立ち上がりかけたジャスは、もう一度、膝をついて座った。

「ただ、なんでしょうか?」

「できるなら、グイニスを(さら)ってでも何でもよい。ことを起こせるなら起こすのじゃ。」

「は。承知致しました。」

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