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教訓、十一。時には鈍さも必要。 2

2025/04/18 改

  ベリー医師は、シークが眠ったかどうかを脈を測って確認した。


「大丈夫ですよ、怪しいことは何一つしていませんから。(はり)で殺したりしません。」


 後ろにやってきた気配に言う。


「…隊長、眠ったんですか?」


 少し意外そうな声で、ベリー医師は振り返った。


「この人、結構、神経が図太いんでしょうか?」


 ベリー医師の言葉にモナはふっと笑った。


「俺もそう思いましたけど…でも、考えてみれば、徹夜明けでだだっ広い厩舎(きゅうしゃ)をほとんど一人で掃除してんですから、さすがに疲れたんだと思います。」


 高級旅館の厩舎である。物(すご)く広いのだ。それが何棟もある。若様の護衛の自分達二十人だけでも二棟分を占領し、さらにノンプディ家やレルスリ家の分もある。さすがにそっちの方までは掃除していなかったが、親衛隊が使っている二棟分を一人でほとんど掃除してしまったのだ。馬丁達がおろおろと慌てるのも無理はない。


 モナの説明にベリー医師は苦笑した。


「雑用が得意な隊長がいると、部下のあなた達も大変ですね。」


 ベリー医師は分かっている。思わずモナも苦笑した。


「そうですよ。ほんっと、面倒な人です。できる人って大抵、待つのが面倒になって自分でやっちゃうんですけど、隊長って私達ができるようになるまで待つんですよ。面倒だからわざとやらないで、隊長がやっちゃうのを待っていたら、いつまでも待ってる。こっちの方が面倒になって、結局、やらざるを得ないっていう。」


 口では文句を言いつつも、モナの表情は心配そうだった。ベリー医師はシークは慕われているんだと思いつつ、しかも、誰が任命したのか知らないが、良い人を隊長に選んだと思った。普通はモナの言うとおりだ。なかなか忍耐して待ちきれる人はそういない。


「大丈夫ですよ。早く洗濯をした方がいいのでは?」


 ベリー医師は促し、二人は部屋を出る。


「…ベリー先生は事情を知ってるんですよね?」


 モナは足を止めてベリー医師に聞いてきた。


「…まあ、そうです。」

「どう…思いますか? 隊長はクビになりませんよね? だって、大事件ですよ? 早い話、(ねた)みなんですけど、隊長は妬まれてるって思ってないんです。」


 どこか、のんきなんですよ、とモナはぼやく。


「大丈夫でしょう。バムス・レルスリ殿がやめさせないと明言したそうですから。あなたならそれが、いかに重大なことか分かりますよね?」


 ベリー医師が見つめると、モナは気まずそうに視線をそらした。


「それは…そうですよ。だって、八大貴族の筆頭が後ろ盾についたようなもんです。でも、当の隊長はその意味を分かってない。実力を認めて貰って、それなりに働いていられれば、満足しちゃうような人だから。」

「その後ろ盾の意味を分かってるんですね?」


 わざとしつこく確認すると、モナはため息をついた。


「政治的な争いにも巻き込まれるってことですよ…! そもそも、セルゲス公の護衛につくってことがそうなんです。

 おかしいと思ったんですよ。なんで、隊長に王妃から声がかからないのか。あのいとこ共が悪い(うわさ)を垂れ流していたから、王妃はこっちから手を下さなくても、勝手にやるだろうっていうことで、黙って成り行きを見ていた。


 でも、ここからは別だ。バムス・レルスリがサプリュに帰ってから、陛下に報告して、隊長が真面目に仕事をする人だと分かれば、陛下は満足されるでしょうが、王妃は逆に追い落としにかかる。

 ニピ族の護衛と親衛隊の隊長、どっちを先に落とすか考えた時、私だったら先に親衛隊の隊長を()る。その後で自分の息がかかった親衛隊を送り、窮地(きゅうち)(おとしい)れた所で、ニピ族の護衛でも手が回らない状況を作れば、殺すことができる。」


 モナは誰をとは言わなかったが、もちろん殺すのは若様のことだ。


「実に明快で分かりやすいです。でも、これからそういう状況になるでしょうから、あなたは隊長を補佐しないといけませんね。」

「……。その前にやめる。」


 モナがそんなことを言ったが、ベリー医師には(うそ)だと分かる。


「あなたにそんなことができるんでしょうか。今でもこんなに隊長殿を心配しているのに。」


 モナは腹立たしそうに、ベリー医師を半眼で(にら)みつけた。

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