教訓、十。裏工作には頭脳が必要。 4
2025/04/17 改
(……。隊長、何してんだよ。なんで、洗濯物なんか干してんだ!)
井戸端は洗濯場と繋がっていることが多い。この場合もそうで、早起きして仕事をしている使用人の女性達を手伝い、洗濯物を干している。
「隊長、何やってるんですか?」
「あぁ、いや、マントを洗ったんだが、ただで干させて貰うのも悪いから、手伝っていた。お前、馬の世話はどうした?」
「ヘムリにやって貰っています。俺がかけてしまったんで、手伝いに来たんですよ。」
「そうか。気にしなくていい。」
「それより、隊長、早く着替えに行った方がいいですよ。時間がなくなりますよ。」
実際にそうであったので、指摘されたシークははっとした。
「確かにそうだな。」
「ここは俺に任せて下さい。後で汚れ物を取りに行きますから。」
「そうか、悪いな。」
シークが完全に去ってから、モナは女性達を振り返った。女性達は残念そうで不満そうな顔をしている。
(ち、知らないでモテてる隊長め。ここでもか。親切に手伝うから余計にモテるんだよなー。)
「悪いな、帰らせてしまって。それと、残ったのが俺で悪いな。」
モナは沈黙している女性達に提案した。
「なぁ、このマント、干すだけでなく、できるだけ水気を取って火熨斗もかけておいてくんねぇかな。後で制服の方も持ってくるからそっちも頼むわ。できるだけ早くしてくれると助かるんだけど。」
「なんで、あんたの頼みを聞かないといけないのよ。」
一人が言って、他の女性達もそうだ、そうだと頷いた。
「いいのかよ。あんたたちの雇い主に、親衛隊の隊長に色目使って誘惑してたって報告してもいいんだぞ。そうなったら、これだよな?」
手でクビを切る仕草をしてみせる。女性達の表情が険しくなる。
「あんた、どういうつもりよ?」
殺気立った女性達に、モナは懐から財布を出して、四人全員に小銭を配る。
「…何、これ?」
「たった、これしきで賄賂のつもりなの?」
「まあ、そう言うなよ。これだけあれば、子ども達にお菓子くらい買ってやれるだろ。」
子持ちがほとんどだろう、と予想を立てていたモナの予想通り、ほとんどの人がむ、と考え込んだ。
「そもそも、洗ってくれって頼んでるの、隊長の服なんだけど。隊長は自分の服くらい自分で取りに行くような人だ。部下にさせたりしねえからな。きちっとしてあったら、きっと丁寧に礼を言ってくれるさ。そして、あんた達の雇い主にも、時間があったら礼を言う。そんな人だ。この旅館の株も上がり、いいことづくしだと思うけど。」
モナが吹き込むと女性達は考え込んだ。頬をほんのり染めている。
(そう、隊長は顔が悪いわけじゃねぇ。フォーリより地味だっていうだけで。大体、あのフォーリが華やかすぎなんだよ。護衛の役割のくせに。)
女性達がうん、というのは間違いない。モナが計算していると、一人の女性が口を開いた。そして、続けて他の女性達も続く。
「そうねぇ、しょうがないわね。やってあげるわ。」
「そうよね、セルゲス公殿下の護衛隊長さんですものね。」
「親切な人だったし。」
「きっと、お困りでしょうね。」
女性達が乗り気になった所で、モナは頭を下げた。
「良かったです!それでは、よろしくお願いしますっ!」
わざと大仰に礼を言うと、女性達は笑った。「隊長さん思いねぇ。」
とか言って乗り気になっている。
(よし…! たった十六セルで済んだな。)
一人四セルずつ渡しただけである。
「じゃあ、報告があるんでお願いします。」
モナはさっさと退散した。シークの部屋に行く前に、副隊長のベイルがいる若様の部屋の前に出向いた。
「とりあえず、服を着替えさせて髪を結び直させることに成功しました。」
モナの報告にベイルとロモルは息を吐いた。
「どうやった? あの状況の隊長に、何かものを言う勇気ないんだけど?」
ロモルが聞いてきたので、モナは厩舎での話をする。ついでにへリムが勘づいたので、黙っておくように言っておいたことも伝える。もちろん、脅したなどとは言わない。
「そうか、よくやった、スーガ。それで、その話からいったらすぐに隊長の部屋に行って、服を取りに行った方がいいな。ベリー先生がさっき隊長の部屋に行った。若様が疲れ切っておられるらしく、起きるのが遅くなるだろうから、それまでに仮眠を取るように言いに行った。」
ベイルの指示に従って、モナは隊長シークの部屋に向かったのだった。