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教訓、十。裏工作には頭脳が必要。 2

2025/04/16 改

 やはり、ごまかし作戦はだめだったらしい。フォーリは仕方なくもう一度、扉を開けて外に出た。


「!」


 フォーリが出てきたので、三人は慌てた。きっと、今の話を聞いていたのだ。


「すまないが、今の話は全部聞いていた。」


 やっぱりか、とベイルは思った。そういえば、ニピ族が去ってからすぐに話し出すのは危険だと聞いていたのに、忘れていた。


「三人とも、今の話はほとんど正しい。」


 フォーリの言葉に三人は顔を見合わせて、それから青ざめた。


(…つ、つまり、権力に物を言わされて貞操を奪われたってことか? そもそも、隊長に目をつける辺り、ただの女じゃないって言うか。)


 普通と違う女性である。真偽眼があるというか。ベイルはとんでもないことになったと焦った。


「しかも、人質はお前達、隊の人間全員だ。」

「!」


 三人は息を呑んだ。


「さらに言うと、昨夜はお前達全員が生きるかどうかの瀬戸際にあった。」


 フォーリの言葉にベイルはぎょっとした。モナもロモルも顔が強ばる。


「ちょっと、待ってくれ。…つまり、つまりだ。バムス・レルスリは…。」


 モナが考えながら、言葉を選ぶ。


「モナ、考えすぎだ。単純だ。バムス・レルスリは、陛下の密命を遂行しようとしてたんじゃないのか?」


 横からロモルが答えをさらう。


「なぜ、密命だと思う?」


 わざとフォーリは尋ねた。この二人、なかなか推理力があるので、どこまで自力で正しい答えにたどり着けるか、試してみたくなったのだ。


「バムス・レルスリが来た時、ちょうど私は護衛だった。その点でモナより知ってる情報が一つ多かったな。その時に『陛下と会って許可を得るのに時間がかかった。』というようなことを言った。つまり、その時に密命を受けていた可能性が高い。それならば、ここティールで大々的に領主兵を動かしても、問題にならない。」


「領主兵?」


 ロモルの言葉にモナが聞き返す。聞きながら彼は自分で答えを出した。


「そう言えば、さっきフォーリは俺達が全員、隊長の人質だったと言っていた。つまり、俺達二十人を殺すには、それくらいの戦力がないと殺せない。」

「そういうこと。国王軍の兵士が、親衛隊に任命した者を殺しに行くのはまずい。同じ仲間だった者だしな。だから、陛下はバムス・レルスリに密命を与えた。」


 シークは随分(ずいぶん)優秀な部下を持っている。しかも二人もいる。


「その通り。」


 ようやくフォーリは(うなず)いた。


「なぜだ? なんで、そんなことに?」


 なぜ、国王はそんな密命を下したのか? ベイルは混乱した。


「しかも、どうやって隊長はその危機を乗り越えた?」

「俺達全員の命だよな?」


 モナもロモルも混乱している。


「ヴァドサは自分の命と引き換えに、お前達の命だけは助けて欲しいと嘆願(たんがん)し、自害しようとした。」


 フォーリの説明に三人は全員、顔色が青ざめた。


「本気だったから、私も万一の時は止めに入ろうと身構えた。だから、ヴァドサの首筋に切り傷ができている。」


 三人は泣きそうな表情になった。


「……隊長らしい。」


 ベイルが一言漏らす。


「ヴァドサとお前達が生き残ったのは、ひとえに彼自身の言動のおかげだ。バムス・レルスリが(うわさ)に惑わされず、自分の目で確かめる人間で助かったな。彼はヴァドサが若様の護衛隊長にふさわしいと認めた。そして、陛下にも問題はないと報告するそうだ。」


 フォーリの話を聞いた三人は、はぁーっとため息をついた。


「なんて、ぎりぎりで隊長らしい生き残り方なんだ…。」

「ほんと、なんか裏工作するって考えないもんな。戦闘での戦術以外で。戦だったら、裏工作すること考えるのに、人生面で考えようとしないもんな、あの人。」

「そういう意味じゃ、馬鹿だもんなぁ。忠告しても軽くしか聞いてないし。」


 ベイル、ロモル、モナが順番に感想を述べる。とりあえず、シークは慕われている。フォーリが三人を観察していると、三人は同時に何かに気が付いた。


「待て、だけど、なんでシェリア・ノンプディと寝るのが関係してるんだ?」

「二十人全員を殺せって命令、よっぽどの問題なんじゃ?」

「なぜ、そんな命令を出されたんだ?」


 ロモル、モナ、ベイルがそれぞれ疑問を口に出した。


「ヴァドサの従兄弟達が悪評を立てた。そのせいでヴァドサは死ぬ所だった。さっきも言ったが、彼自身、正しい人だったから自分で命を救ったようなものだ。」


 三人の目が点になり、青ざめてから次に怒りで(ほお)を紅潮させた。


「とうとうやりやがったな…!」


 モナが大声を出したので、ベイルが慌てて静かにさせる。


「しーっ!若様が起きるだろうが。」


 あ、すみません、とモナは頭を()いた。


「だから、言ったのに……!」


 モナは今度は小声で言って、軽く床を()った。


「このままじゃ、身内に後ろから刺されていつか殺されるって。ちゃんと聞いてくれないから…!」

「それで、隊長、どうしました? 相当、(こた)えたんじゃ。」


 ロモルが心配してフォーリに尋ねる。


「泣いていた。バムス・レルスリが一人にさせたくらい、落ち込んでいた。」

「…そりゃあ、落ち込みもするでしょうよ。手習いで分からない所を教えてやったり、剣術の型を教えたり、両親に叱られたって泣きついてきたのをおんぶしてあやしてやったのが、そうなったんですから。」


 ベイルが憤慨(ふんがい)して言うのを聞き、フォーリは納得した。シークが従兄弟達に対して、強く言わない理由について理解できたからだ。


「じゃあ、いとこって言っても半分、兄みたいなものなんだな?」

「ええ、そうです。それで、隊長はどんな(うわさ)を流されたんですか?」


 ベイルの態度が急にぞんざいになった。怒りのためだろうか。


「噂ではない。」


 フォーリは言ってから、考えた。かなり衝撃的な内容である。フォーリも(かたわ)らで聞いて(おどろ)いた。かなり、悪質な内容だ。


「これから言うことはヴァドサにも一応伝えてあるが、知らないふりをしろ。これは…事件だ。」


 モナの顔が一番、険しくなった。


「ヴァドサにかけられた嫌疑は連続強姦事件の犯人だ。しかも、被害者だという女と少年がが次々と現れて消えた。バムス・レルスリの調査によると、ねつ造で間違いないようだ。」


 三人が呆然とした。叫びそうになったので、フォーリは急いで口元に指を当てて静かにさせた。驚きのあまり何も言えず、三人は口をぱくぱくさせながら、肩で息をした。


「決定的だったのは、元婚約者だという女の証言だそうだ。」


 三人が、ばっと(すさ)まじい形相でフォーリを(にら)みつけた。事情を知っているだけで、犯人ではないのだが。


「アミラさんが、証言を…!?」


 ベイルなんかは剣に手がかかっている。彼は温厚そうに見えて、意外に短気なのかもしれない。


「偽物だ。本物は泣いてから、嘘の証言をした自分のなりすましを斬りに行くと言ったそうだ。」


 フォーリの言葉に三人は肩の力が抜けた。


「あぁ、やっぱり。」

「良かった。そんなわけない。」


 三人はほっと安堵(あんど)の息を漏らす。


「それで、本当にそんなことをする男なのかどうか確かめるため、酒と薬を飲ませて正体を暴こうとしたわけだ。」

「…それで、シェリア・ノンプディと寝るのが関係して…。」

「なんてことだ。大事だ。大事件だぞ。」

「下手したらクビなのに、なんで護衛を続けられるんだ?」

「その辺はバムス・レルスリの配慮だ。若様のためだろう。ころころ護衛が変わったらいけないと思ったはずだ。」


 フォーリの答えに三人は納得した。納得した所ではっとした。振り返って思わず、じーっと三人はフォーリを半眼で睨みつけた。


「…そういえば、あんた、隊長とシェリア・ノンプディのそういうとこ、ぜーんぶ見てたってことか?」


 嘘をついてもしょうがないので、フォーリは素直に答えた。


「そうだ。バムス・レルスリに付き合わされた。まあ、どういう人間か一緒に確かめて見ていろ、ということだったんだろう。」

「……。」


 三人ともなんと言えばいいのか分からず、妙な空気になる。


「ところで、副隊長、隊長の髪、結び直させた方がいいんじゃないですか?」


 モナが思い出したように言い出した。そして、ベイルははっとして、頷いた。


「確かに…。その通りだ。早く行かないと誰かが起きてくるな。」


 国王軍は早起きだ。特にシークの隊は、隊長が真面目なので規律をきちんと守り、徹底的に行き届いていて練度も高い。


「俺、行ってきます。」


 言い出しっぺのモナが体の向きを反転させた。


「おい、モナ、言葉遣い。“私”って言わないと今日辺りの隊長じゃ、(きび)しく注意されるぞ。普段は目を(つむ)っていても、今日はたぶん、見逃してくれない。」


 ベイルの注意にモナは頷いた。


「そうっすね。…って、そうですね。分かりました。」


 モナは言い直して、厩舎(きゅうしゃ)に向かった。

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