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教訓、十。裏工作には頭脳が必要。 1

2025/04/16 改

(隊長が変だ。おかしい。)


 ベイルはすぐに気が付いて考え込んだ。昨日、シェリアに呼ばれてずっと帰って来なかった。若様の部屋の前で護衛担当の二人も顔を見合わせた。ベイルはなんだか嫌な予感がしたので、その二人と交互に仮眠を取りながら、シークを待っていたのである。


 フォーリと一緒に帰ってきたが、なぜか(かぐわ)しい、いかにも高級そうな香りを二人は身に(まと)っている。女性がつけていそうな香りだ。フォーリが部屋に入ってから、シークが三人に状況を聞いた。


「…三人ともご苦労だな。徹夜か?」

「いえ、交代で仮眠を取りました。」

「…そうか、それならいい。」


 そういうシークは一睡もしていないのか、目が充血している。それにしても、いやに目が赤い気がする。


(…もしかして、泣いた?なんで?)


「隊長がここにいるなら、私達は厩舎(きゅうしゃ)に馬の準備に行きます。」

「いや、私が行く。ここは引き続き任せる。」


 そう言って戻って廊下を歩いて行く。


(髪が綺麗に結ばれてる!)


 シークは髪を結ぶのが下手で、後ろの下の方が必ず少し乱れている。『今日は上手くできたぞ。』と言っているので見ると、一束結び忘れてあったりするのだ。だから、国王に拝謁(はいえつ)する時も管理長が髪にダメ出しをし、慌ててベイル達が直したのだった。


(誰かに結んで貰ったとしか思えない。誰に?)


 考えても嫌な予感の通り、一人しか思い至らない。シェリアだ。


(ちょっと待て。…ということは、昨日、二人はそういう関係に? いや、真面目な隊長に限って、素直に応じるわけがない。つまり、薬か何かを飲ませて無理矢理そういう関係になった?)


「隊長、おかしくないか?髪をちゃんと結んである。」

「しかも、この匂いはなんだ?二人ともしているけど、フォーリは服の裾の方からしたが、隊長は髪とか服の下から匂ってきてないか?」


 観察眼のあるモナとロモルの二人を番にしておいたのが良かったか、悪かったのか。二人は顔を見合わせてニヤニヤした。


「…なあ。」

「それしか考えられないだろ。」


 昨日、誰にシークが呼ばれたのかみんな知っている。


「おい。」


 とうとうベイルは口を出した。


「副隊長、おかしいです。髪は綺麗に結んであるわ、高級な香りを服の下から漂わせているわって考えたら、男女の関係になったとしかいいようがないですよ?」


 ロモルが言う一方で、モナは考え込んだ。


「にしても、隊長、妙に沈んでましたよね? なんでだろう?」

「無理矢理されたからじゃないか。隊長が自分から誘惑するなんてありえない。薬かなんか条件つけて飲ませてイチコロでされたんじゃ。」


 物(すご)く正しい推測だった。


「それにしても、なんか悲しげだったっていうか。そのせいで妙に色気があったっていうか。」


 モナがさらに考え込む。そこで、二人ははっとした。


「まさか…! フォーリが同じ匂いさせてたってことは、見られてた?」


 探索(たんさく)方の推測は正しかった。部屋に入ってから、扉の向こうで話を聞いていたフォーリは、彼らの推測力は馬鹿にならないと肝に銘じた。


「……あぁ、そりゃ、落ち込むわ。」

「…俺だったら、目も合わせられない。」


 二人は頭を抱えていたが、モナは気が付いた。


「待て。なんで、フォーリがそこを見張っている? たとえ、ニピ族といえども、八大貴族の部屋だぞ。簡単に入れるとは思えないし、そもそも、彼女の部屋のすぐ上はバムス・レルスリの部屋だ。ニピ族がいる。ここは三階だが、必ず二階を通らなくてはいけない。」


「どういうことだ?つまり、レルスリも一枚()んでるって言いたいのか?」


「そういうことだ。何かある。隊長、()められたんじゃ? だって、バムス・レルスリだぞ。そもそも、サプリュを出る時、前触れもなしになんで急に一緒に来たんだ? しかも、隊長をじきじきに呼んで、ティールに着くまで同じ馬車に乗せた。」


「裏があるな…。何か馬車であったか?」

「いや。馬車では気が付いてなかったはずだ。隊長はその後も普通だった。つまり、隊長は気が付いてなかったが、馬車の時から何か始まっていたんだ。」


 相当な推理力である。扉越しにフォーリは舌を巻いた。モナ・スーガとティホム=ロモル・ハクテス二人は要注意人物だ。ロモルは森の子族の出身だ。


「二人とも。」


 ベイルは二人に注意した。


「今の話、絶対誰にも言うな。」


 ベイルは知らず、顔が強ばっていた。モナとロモルがびっくりした表情をしている。


「いいか、相手は八大貴族のノンプディ家の当主だ。単純に男女の仲になったとかいう問題じゃ済まない。隊長が素直に言うことを聞くわけがないから、何か言うことを聞かざるを得ない状況が生じた。」


 ベイルの言葉に二人は強く頷いた。


「きっと、薬だ。酒だけでそうなるわけがない。隊長は酒に強いからな。」

「誰か人質にでも取られたのか?そうでないと、素直に飲むわけがない。」

「いや、隊長は人がいいから飲んだかもしれない。」

「とにかくだ。」


 また、推測合戦が始まったので、ベイルは少し強い口調で遮った。


「絶対にほかのヤツらには言うな。」

「でも、副隊長。すぐに気が付きますよ。だって、髪の毛ですぐに気づきますって。」

「それに、ヘムリだっているんですよ。あいつ、実家が妓楼ですよ。すぐにピンと来ますって。」

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