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教訓、五十二。愛してその悪を知り、憎みてその善を知る。 1

 遅くなって申し訳ありません。


 とりあえず一段落したシークとフォーリは、玄関から中に戻ったが、そこにセリナを追い出したイージャが勢い良く戻ってきて……。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 シークとフォーリは、イージャがセリナを引っ張って行ったのを見送ってから、ゆっくり玄関の方に回った。フォーリは若様に何か言われているらしく、一緒についてきている。普段だったら用が終わった途端、壁を上って若様の部屋に戻るはずだ。そうしないということは、何か言われているのだろう。

 玄関に入った所で、足早に靴をガツガツならしながら入ってきたイージャに引き止められた。

「おい、待て!」

 イージャの勢いと実際に唾も飛んできて、思わず二人は二歩ほど後ろに下がった。

「貴様ら、分かっているんだろうな!」

 イージャはシークとフォーリに指を突きつけながら、怒鳴り散らした。せっかく空けた距離を詰めてくる。

「これ以上寄るな。唾が飛ぶ。」

 フォーリが淡々と腕を伸ばして距離を取った。周りでどうなることかと見守っている、国王軍の兵士達とイージャの部下達の目が点になった。言われたイージャ自身も、少しの間呆気にとられていたが、気を取り直した途端、真っ赤になった。

「貴様、ふざけているのか!」

「この状況でふざける馬鹿がどこにいる?」

 フォーリは言い返しながら、今度は鉄扇を抜いて突きつけた。相手はニピ族である。さすがにニピ族とやり合うのは分が悪いと思うのか、イージャは仕方なく距離を空けた。

 このやり取りだけで、イージャは少し勢いが削がれていた。なるほど、こういう気のそらし方もあるのかと、シークは感心してそのやり取りを眺めていた。

「貴様に用はない。シーク、貴様、分かっているのか!邪魔をしたんだぞ。」

 イージャの言い分に、シークは思わずフォーリと顔を見合わせた。確かにセリナの処刑を止めようとしたが、セルゲス公…つまり、若様が介入した時点で邪魔にはならなかったはずである。状況が変わったのだから、結果シークは何もしていない。

「どこをどう見たら、ヴァドサ隊長が悪いことになるのかな?」

 そこにベリー医師の声が(ひび)いた。どうやら、騒ぎに気がついたベリー医師も起きてその様子を見ていたらしい。呑気そうに薬草の入った(かご)を白々しく持って歩いてきた。おそらくその薬草は偽装だろう。この場に自然にやってくるため、籠に突っ込んできたようだ。

 国王軍の兵士の中には、そのことに気がついている者もいるようで、「あれって雑草じゃないのか?」というような目でベリー医師の籠のしなびた草を見つめている者もいた。

「どう見たって、フォーリが君の剣を折ったでしょう。目が悪いようなら検査が必要ですな。」

 イージャは(おどろ)いた目で割り込んできたベリー医師を見つめた。そりゃあ、ベリー医師が本性を現したらびっくりするでしょうよ、とシークは思う。普段、カートン家の医師達が、宮廷内や軍でそんな態度を取っている所を見たことがないはずだからだ。

 軍でも少なからずカートン家の医師はいるのだが、シークはあまり怪我をしなかったのもあり、ベリー医師に会うまでカートン家の医師と接触したことがなかった。あるいはあっても、簡単な怪我の治療などで知らなかったとか、覚えていないとかそんなところだ。

「先生には関係のないことです。どうして、こんな朝早くからここに?」

 ようやくイージャはベリー医師に答えた。すると、ベリー医師は用意していた籠を軽く持ち上げて見せた。

「分かるでしょう。薬草の採集です。」

 イージャはその中身を見て黙り込んだ。

「しかし……。」

 言いかけて黙った。カートン家の医師に対して薬草論を持ち出したら最後、負けるのがおちなのでやめたのだろう。口が裂けても「それは雑草ではないんですか?」などと言えない。この世には「雑草なるものはない」というのが信条のカートン家である。

「しかし、なんですか?もしかして、これがただの雑草だなんて言いたいんですか?」

「…いいえ。それよりも早く戻られてはいかがですか?薬草がしなびていますよ?」

 イージャは邪魔なベリー医師を、この場から去らせようとしている。

「いいんだよ。どうせ乾燥させて使うからね。」

「……。」

 イージャはベリー医師の扱いに困っている様子だった。一応宮廷医である。その上、カートン家の医師だというのが、余計にやっかいなのだろう。カートン家が大きな派閥には違いないからだ。

「シーク、貴様と話がある。二人で話す。ついてこい。」

 やっぱり来たか、とシークは応じようとしたが、ベリー医師がまた口を挟んだ。

「二人っきりなんて駄目ですよ。」

「は?先生、何を言うんですか?」

 さすがにイージャも、ベリー医師に対しても苛立ちを(かく)そうとしなかった。

「君は、たった今まで激昂(げっこう)していた。そんな時に二人っきりなんて、危ないでしょう?うっかりぐさっと突き刺して、殺してしまうかもしれない。それとも、うっかり殺してもいいなんて思っているんですか?」

 さすが、毒舌家のベリー医師。そう言いにくいことをズバリと聞きますか?普通。

「……。私がそんなことをすると?」

「ええ。可能性は低くない。君はヴァドサ隊長に対して、不機嫌を隠そうとしないし、いつも不満顔で彼を侮蔑(ぶべつ)することで何かの溜飲(りゅういん)を下げているように見える。」

 ちょっとの間だったが、イージャの表情が固まった。だが、すぐにいつもの冷笑を顔に浮かべる。

「何を根拠にそんなことを。」

「そんなの簡単だよ。君はここに来てからというもの、規則を盾にして徹底的にヴァドサ隊長の隊を監視している。任務にしては、憎しみに満ちた目で睨みつけ、任務でしなくていいことまで部下にさせている。君がやっていることは、任務を利用して私怨(しえん)を晴らそうとしているようにしか見えないんだよ。」

 玄関前の広間が、しんと静まりかえった。みんな遠巻きに国王軍の兵士達が集まって様子を見守っている。そこにベリー医師の声は(ひび)き渡った。

「ですから、何を根拠にそんなことを言っているんですか?」

「根拠ならあるよ。君が本当に受けた任務の内容はどんなものか、知り合いに尋ねたからね。ちゃあんと、知らせが来てるから。それによると、ヴァドサ隊長を監視することは、含まれていないようだけど?」

 すると、イージャは鼻で笑った。

「そんなもの、当てになりません。私は陛下から直接お言葉を賜ったのですから。関係ない先生に詳しいことを話す必要は全くありません。」

「ああ、そう。でも、私は関係者だけどね。セルゲス公の宮廷医だ。セルゲス公の健康を害するような事態は避けたいのでね。」

 ベリー医師はにっこりしているが、目は笑っていない。

「…それは失礼しました。でも、先生、セルゲス公の健康には関係ないことです。私がシークと話をすることは。」

「いいえ、あります。彼のおかげでセルゲス公は落ち着いておられます。もし、彼に何かあってセルゲス公の健康面に何かあったら、あなたが責任を取れるんですか?」

「そう言われても困ります。私は任務を遂行するだけです。規則にないことを言われましても困ります。ヴァドサ・シークは任務の邪魔をした。それについて、対処が必要です。」

「同じ親衛隊の隊長ですよ?しかも、あなたの方が副という扱いのはず。」

「それが何だと言うのです?私は陛下から全権を賜っています。それに、先生、ヴァドサ・シークは犯罪の容疑者である可能性があるんですよ?そんな人物を(かば)うなんて、先生の適性も疑われます。」

 イージャは声の苛立ちを隠しもせずに言い返した。

「それについては、レルスリ殿が調べて疑いなしと陛下にお伝えしている。」


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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