嵐の前の騒動 6
村娘達は、フォーリとシークに対して勝手に張り合っていた。二人ともなんでもできるけど、きっと料理はできないに違いない、と思っていた。セリナはフォーリは料理できると知っていたが、シークに関しては知らなかった。そして、事件が起きる。(お食事中の方はご注意下さい。家の中に出没するあの茶色い虫が出てきます。)
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
そして、村娘達がさらに落ち込む事件が起きた。
こんなことを彼女達は言っていた。
「……あの隊長さんとフォーリさんって、男の人の割に何でもできるけど、きっと料理はできないのよ。」
「そうよね。だからこそ、あたし達に食事を作る役割があるんだろうし。」
それを聞いたセリナが反論した。
「何を言ってるのよ、フォーリさんは料理ができるのよ。」
セリナは若様の厨房を手伝う係に任命されているから分かっている。
「嘘だと思うだろうけど、本当だよ。」
リカンナも言ったので、村娘達はみんなで顔を見合わせた。
「実はあんたが全部作ったりしてるんだと思ってた。」
「ないない。恐くてできないよ。フォーリさんって恐いんだよ。」
セリナの言葉に彼女達は納得した。
「…でも、さすがに隊長さんはできないでしょ、きっと。」
さすがのセリナも考え込んだ。
「そうね。見たことないかも。料理するところは。フォーリさんも作れって言わないから、さすがにできないのかも。それか、少しはできるけど、若様が食べるとなるとちょっとまずいとか。」
だが、事件は起きた。
それは、ジリナ自身が引き起こしてしまった事件だった。その日は、シークは部下の数名と共に、軍に報告に行くため留守にしていた。
その日の夕方、ジリナは生ゴミを入れている穴を少しほっくり返していた。生ゴミを入れている穴は生ゴミが発酵しているため、冬でも生暖かく、冷え込んだ朝などは湯気が立っているのが見えるほどだ。
ところが、何の加減か少し壁側を掘っていると、大きく崩れてしまった。その途端、何かが大量に沸き出てきた。かなり暗くなっていたのもあり、その“何か”がすぐには何なのか分からなかった。
だが、少し観察しているとそれらが生き物であり、大量に気味悪く蠢いている姿を確認した。その途端、さすがのジリナも正体が分かって気味悪くなり、叫びそうになった。
しかし、意地でも叫ばなかった。叫んで気味悪がれば、明日から村娘達が言うことを聞かなくなる。娘達の統制が出来なくなるのは大問題だ。
ジリナは急いで、さらにその蠢いている者達を埋め戻そうとして、土を掘った。すると、さらに大量にわき出てきたのだ!
「!!!」
ジリナは声にならない悲鳴を上げた。これはもう、自分一人ではどうにもできない。そう判断すると、さっさと助けを呼びに走った。
「大変だよ…!」
そう言って、勝手口から叫んだのだ。勝手口を開けたら、ジリナについてきて、しかも明るい方に走って飛んできた生き物は、大量に中に入り込んだ。
「!」
村娘達が黙った後、ジリナの姿を見て悲鳴が響き渡った。
「きゃあぁぁ!」
「ぎゃぁぁぁ!」
その蠢く生き物は、ジリナの頭や肩から、親衛隊用の厨房に次々と飛び立っていく。そして、壁や床に着地すると、さささっと走り出した。
その生き物の正体は、ゴキブリ。
そう、生ゴミの穴の中は温かく食料もたくさんあるので、冬でもたくさん生息していたのだ。その上、ジリナが異常繁殖に気づく前から、少しずつ屋敷の中に侵入を始めていたらしい。
後から聞いた話によると、若様用の厨房にも出没していた。壁に張り付いている茶色い虫を若様が発見し、あれを捕まえて籠に入れて飼うと宣ったそうな。
もちろんフォーリが却下した。その上、若様にゴキブリという虫の存在を教えていなかったことも判明した。確かにあの可愛らしい容姿の若様が、ゴキブリを大切に飼っている様子は想像できないし、したくない。
(この詳しい話は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』のスター特典『茶色い虫事変』に書いてある。)
そんなんで、大変だったのだ。屋敷内のゴキブリたちを退治しないといけないし、外の分も退治しないといけないし。ジリナがとにかくやっつけないといけないという使命感に駆られて、潰せ、と言ったものだから、騒ぎを聞きつけた親衛隊員達は、仕方なく潰して回っていた。
フォーリに助けを求めに行ったが、先に若様のお食事が先だと言われて追い出された。あの薄情者め、と心の中でジリナは毒づいた。
その後でフォーリは仕方なく出てきたが、潰していたせいで臭いとか、染みがついたり臭いが染みついたら若様のせいにされるとか、文句を言われた。だって、自分は若様の食事が先だと言ったじゃないか!心の中で盛大にジリナは毒づいたが、言わないでおいた。
そして、仕方なくフォーリはゴキブリ退治を始めたが、カートン家に支給されている、何か特別な樹脂から作られているとかいう、手袋をはめて“手づかみ”でゴキブリを麻袋に詰めるという誰にも真似できない技で退治を始めた。
若干遅れてベリー医師もやってきて、フォーリと同じ手袋をはめていたが、ゴキブリを捕まえるや否やバラバラに分解していた。しかも、これは薬に使えないからいらない、とフォーリに投げ渡し、さすがのフォーリも急いで受け取って慌てて竈に投げ入れていた。
ベリー医師も手伝い、茶色の黒光りする虫達は麻袋に詰められて、ごうごうと燃えさかる竈に投げ入れられて昇天したのだった。臭くて食事をしたくない臭いが充満していた。
そして、一晩中かかって生ゴミ溜めのゴキブリ達をいぶしながら殺したのだった。
星河語
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