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嵐の前の騒動 4

 ジリナはシーク達と必要なものを買い出しに行った。そこで、ジリナはすっかり田舎の女になってしまったことに気がついて……。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 予定では一泊二日だ。久しぶりのヒーズの町は、田舎の村に住み続けていたジリナには、田舎町でなく街に見えた。そのことにジリナは内心、衝撃(しょうげき)を覚えた。首府のサプリュから出てきた頃は、田舎町にしか見えなかったのに。すっかり自分も田舎村の女になってしまったようだ。

 さっそく布を売っている店に行く。最初はジリナに布の選定を任されたが、つい、安い布に目を(うば)われてしまい、自分達が使うような布ばかりを選んでしまうので、結局、シーク達が自分達で布を選び始めた。実家で商いをしている息子の隊員がいるので、彼を中心に選定をしている。

 店の店員は目を丸くしていた。だって、親衛隊が布を選んでいるのだから。しかも、山と積まれている奥底からいくつか引っ張り出している。

「これはどうだ?」

 シークが(ほこり)を叩きながら出した布を見せた。確かに元の布は上等な物だったようだが、上等すぎて売れず、日焼けして奥に押し込められているらしい。

「内側は綺麗だ。洗ってから綺麗な方を表にして使えば問題ない。」

「これもどうでしょうか?虫食いしてますが、上等な証拠です。虫食いした部分だけ切って使えます。これも、他の服の継ぎ足し用に使えるかと思います。」

 彼らの話を聞いてジリナも目が覚めた。急いでさらに布を見繕うと、さらにいい布を見つけ出した。上等だが買い手が見つからないうちに、傷んでしまった布ばかり選び出し店主と交渉する。

 店主は高額な値段をふっかけようと考えていたようだったが、実家が雑貨屋のような店を商っている隊員が交渉に当たる。

「そんな高額じゃダメですよ。だって、どれも傷んでます。せめて半額は引かないと。これでも、金を払うって言うんだから、かなり良心的だって思いますけどねぇ。」

 なんだかんだ言って店主もいくつか条件を出し、古くて売れない上等の布をあと二巻き買うなら、全部半額以下にするということで、当初の予定の三分の二ほどの値段で布を買った。

 案外、この人達は買い物上手かもしれない。ジリナは感心した。後で買うことになった布は古いだけでほとんど傷んでいない。ジリナも目をつけたが、高くなるだろうと思ってやめた布だった。

 花農家に行くと、今度はちょうどローロールが花の買い付けに来ている所だった。親衛隊がやってきたので、農家もローロールも(おどろ)いた。

 街の人はさすがに若様が来ている(うわさ)があるし、親衛隊が報告や買い出しに何度か訪れているので、知っている人も多かったが、噂程度にしか思っていない人も多かった。

 ローロールの担当者はびっくりしたものの、セルゲス公の話を聞いているので、すぐに納得したようだ。事情を聞いて、王太子が来る二日前に屋敷に届けると言った。ついでに冬で長持ちするだろうと、今しかない花をある程度売ってくれて助かった。

 なんとか、こうして予算内で全ての買い物を終えた。

「隊長、見て下さい。ほら、財布がすっからぴんです。こんなに一セルもなく空っぽになることも珍しいですよ。というか、私の計算力によるものです。」

「うん、そうだな。よく一セルも無駄なく計算した。」

 半分冗談で笑い合う。普通、財布がすっからぴんだと(なげ)くものだが、若様のためにそこまでできる彼らの心に、ジリナは久しぶりに感動した。フォーリも若様のお金を預かっているようだったが、公のものは親衛隊が管理していた。王に報告する義務があるからだ。

「隊長、飯はどうするんですか?」

「しょうがないな、私のおごりだ。だが、その前にミブス、ジリナさんに宿代を渡せ。私達はヒーズの国王軍宿舎に泊まるが、ジリナさんはそういうわけにはいかない。」

 ジリナの宿代を別にして、予算内に終わらせたのは非常に(すご)いと感心した。結構、(むずか)しいものだ。

 田舎町なので、ある程度どういう宿に泊まるかは決まってくる。明日の朝、早朝に国王軍の宿舎の前で合流することを取り決め、礼を言って彼らと別れた。

 だが、ジリナはできるだけ金を使いたくなくて考えた。本当は若様のために使うための金だ。宿代があれば、若様のために何か他に一つくらい買うことができるはずだ。

 夕方の日も落ちて暗くなった道を考えながら歩いていると、人とぶつかって転んだ。相手の男は口だけで謝って去ってしまった。

「…いたた。」

 ジリナは立ち上がり、最悪の事態に気が付いた。財布をすられたのだ。

(…このわたしがすられるなんて…!)

 サプリュにいて、財布をすられるなんて一度もなかったことだ。さっき、預かった金を全部取られてしまった。さすがのジリナも泣きたくなったが、無性に腹が立ってきた。仕返しをしてやりたいのに、足をくじいていることに気が付いた。

「あれ、ジリナさん、大丈夫ですか?」

 親衛隊の一人の声がした。さっき別れたはずだが、何かあったのだろうか。助け起こしてくれた。ずっと交渉しているミブスという隊員だ。

「大丈夫じゃないよ。ぶつかられた上に財布をすられて、足も(くじ)いた。全く、昔はそんなことなかったのに。すられたことなんて、全くなかったんだよ。」

 ジリナにしては、少し情けない声で言った。そんな情けない声を出してしまったこと事態も、衝撃(しょうげき)だった。年を取ってしまったのだ。それに、長いこと田舎の村にいたから、何もかも勘が鈍っている。

「お前、いくつも財布をすったな。しかも、俺達からもすろうなんて、馬鹿なことを考えたな。」

 もう一人、ついてきていた隊員のモナ・スーガがさっき、ジリナから財布をすった男を連れてきた。

「スーガ、こいつ、ジリナさんからも財布をすったらしい。」

「なんていうヤツだ。」

 ジリナの財布は無事に取り返された。心底ほっとして、ジリナは本当に情けなくなった。

「どうして、戻ってきたんですか?」

「隊長がやっぱりジリナさんに来て貰うんじゃなくて、迎えに行こうと言って、私達に伝えるようにと。」

 シークの紳士な配慮で助かったらしい。ジリナは足を怪我したので、カートン家に送って貰った。彼らは男を連れて宿舎に帰っていく。治療して貰った後、カートン家に泊まらせて貰ったので宿代が浮いた。

 次の日、早起きをしたジリナは市場を歩いた。くじいた足も良くなって歩けるほどに回復していた。朝市には農家が売りにくるだけではなく、街の職人が作った商品も並ぶ。その中にいい物があるかもしれない。

 ジリナは若様がマントを止める鉄線細工のブローチを選んだ。ヒーズ近郊で取れる黒曜石を使っている。シュリツとジュニがあるテンベス半島には鉄鉱山があり、ヒーズでは鉄くずを使った鉄線細工が盛んだ。

 昔、都から逃げてきた職人がヒーズに移り住んでいたが、その後、鉄鉱山が発見され、職人達が鉄くずを貰ってきて鉄線細工を始めたのが、ヒーズの鉄線細工の始まりらしい。

 ヒーズ近郊で昔から取れる黒曜石は、ただの良く切れる石だということで、ナイフ代わりに使われてきたが、鉄線細工職人が黒曜石に目をつけ美しく仕上げた。

 それが領主の目にとまり、ヒーズの産業になったという。だが、今では鉄線細工は落ち目だ。錆びるのでさび止めに漆を塗って黒光りさせるのだが、黒に黒で地味なため、銀線細工や金線細工に押されていた。少しでも売ろうと朝市に出しているのだろう。

 かなりのいい物が一晩の宿代で買えた。地味だが若様にはかえっていい。なんせ、若様自身が美しくて愛らしい。たとえ、派手な飾り物でも、若様の美しさと愛らしさに負けてしまう。地味さがかえって若様の美しさと愛らしさを引き立たせるだろう。

 ジリナがカートン家に戻ると、もう親衛隊の三人が荷馬車を引いて待っていた。

「おはようございます。」

「どこへ行っていたんですか?」

「朝市ですよ。若様のマントを止めるピンを買ってきました。いつもつけているのは、少し傷ついていますから、買っておいたんです。」

 ジリナの答えに、シーク達は顔を見合わせたが、すぐに笑顔になって礼を言った。

「そうだったんですか。私達では気がつきませんでした。ありがとうございます。でも、お金は足りましたか?」

「ええ。昨日はカートン家に泊まらせて貰えたのでね、浮いた宿代で。」

「なるほど。」

 そんなんで、とりあえず無事に帰ったのだった。

 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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